独裁者サマの攻略法

【07】 撃破

＊070＊ 晩餐

悠李は、兄の失礼な物言いに眉間に皺を寄せる。

「失礼だわ!!」

プリプリと怒るが、ドレスが重くて上手く足捌きが出来ない。
怒りながらも手を差し出すと、兄は理由が解っているらしく、笑顔でエスコートしてくれた。
覚束無い足取りで、フラフラと歩く。
その頼り無さは、生まれたての小鹿のようだった。
ゆっくりと、晩餐の席へと着く。
少し待っていると、国王陛下が入室した。
悠李は、席を立ち、頭を垂れた。

『ユーリ、今日は固くならなくて良いんだよ。』
『ありがとうございます。』
『それは、ヨハンナのお気に入りのドレスだね? 素敵なサプライズをありがとう。』

そう言うと、悠李の頬に軽くキスをする。
何度か会った事がある国王陛下は、そのような事をする事が無かったから、本当にヨハンナにするように親愛の情を表してくれているのだろう。
悠李も、国王陛下に倣い、頬にキスを返した。

『座って食べよう。ユーリの好きな食べ物が解らなかったから、トーマにお願いしたんだ。』

テーブルの上には、豪華な食事が用意されている。
…が、そんな中に、煮込みハンバーグが用意されているのには、笑ってしまった。

『お兄ちゃん、シェフに煮込みハンバーグを頼んだのね?』
『ユーリ、好きだっただろ?』
『確かに好きだけれど…テーブルの中で異彩を放っているわ!!』

そのやりとりを見て、国王陛下も微笑んでいる。

『ユーリ、ジョゼフィーヌは元気かい?』

突然、国王陛下に尋ねられた。
血の繋がった妹の事は何時でも気になるのだろう。
しかし、この質問は、悠李にとって難題だった。
何度も触れているように、ボディ・ガード養成所に入ると退社するかスキルチェックに落ちない限り、孤島を出る事が出来ない為だ。

『元気ですよ。』

悠李は、当り障り無く答えた。
もしも、家族の身に何かがあれば、きっと連絡が入るはずだ…と信じて。

『もう、ジョゼフィーヌに会える事は無いのだろうか?』
『そんな事は無いでしょう。国がもう少し安定すれば、緑豊かなこの国は、観光産業の発達も見込めます。私は、その為にこの国に来たのですから。』

言い含めるような笑顔で、兄は国王陛下に対応する。
本当に、プリンスのような姿だった。

『あぁ…そうだったね。私が気弱な事を言ってはいかんな。ユーリは、今は、学生かい?』
『この春に無事、卒業しましたよ。』
『そうか…。本当に月日が経つのは早い。今は、何をしているんだい?』

悠李は、素直に答えて良いものか悩み、兄の顔を見た。