婚約から始まる「恋」

観月 珠莉

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*53* 良い人

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流石に宝生院家で手配した料亭だけあって、とても美味しいお料理だった。
鮫島さんと過ごした時間は、とても穏やかに流れ、その優しい時間にホッコリとした気持ちを味わった。
やがて、和やかに話をしていた時間が結構な時を要していた事に気付き、暇を告げる。
鮫島さんは、少しだけ残念そうな表情を浮かべたが、受け入れてくれた。

「今日は、本当に楽しい時間を過ごす事が出来ました。さくらさんのお陰です。」
「こちらこそ、とても楽しい時間でした。ありがとうございます。」
「それで…あの…厚かましいのは充分に承知しているつもりなのですが、また、別の機会にお会いして頂けませんか?」
「……。」

楽しい時間を過ごしたのは確かだけれど、私は、とても返答に困ってしまった。
何となく、鮫島さんとまたお会いする事は、直嗣さんを裏切るようなそんな気がしたから…。

「あの、とても近しくお付き合いして頂けたら嬉しいと思うのは、僕の願望なのですが…そういう事では無く、まずは、友人としてさくらさんともっと話がしたいんです!!」

鮫島さんの想いが強く伝わってくる。
きっと、自分の思っている事を素直に伝える方なのだろう。

「お友達としてでしたら、喜んで。」
「では、次回は週末にお時間を頂けませんか?」
「週末…ですか?週末は、仕事があるのですが…。」
「仕事が終わってからでかまいませんので。お食事でもご一緒しませんか?」

流石、何だかんだ言っても鮫島電機の専務なだけあって、次の予定を組み込む辺り、仕事が出来るのだろう。

「そう…ですね。では、仕事が終わった後にお食事をご一緒するという事でしたら。」
「ありがとうございます。とても嬉しいです!!では、飛び切りのお店をセレクトしておきますね。」

そう言って、鮫島さんは、ニコニコと嬉しそうに微笑んだ。
こうして、六代目当主がセッティングしたお見合いは、素晴らしいお友達が出来るという結果に終わった。

「さくらさんには、どのように連絡をしたら良いですか?」

六代目当主がセッティングしたのだし、今回の席はプライベートとも言い難い。
私は、一瞬考えたが、プライベートな連絡先を教えるのも気が引けるので、職場の名刺を渡した。

「では、こちらのメールにご連絡頂けますか?」
「はい。あぁ…さくらさんは、プラチナムホテルにお勤めなのですね。」

鮫島さんは、名刺を見ながら、嬉しそうに確認している。

「はい。」
「では、さくらさんの顔が見たい時には、プラチナムホテルのラウンジで打ち合わせを入れたら良いですね。」

直嗣さんが策士だとしたら、鮫島さんは、直球ストレートに感情を表現してくる。

「もしよろしければ、ご自宅までお送りしますよ?」
「いいえ。今日は自分で帰ります。」

鮫島さんは、強く出る事も無く、私の意思を尊重してくれる。
やっぱり、凄く良い人だ…としみじみ感じたやりとりだった。
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