婚約から始まる「恋」

観月 珠莉

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*44* 別の方法

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直嗣さんと私は、客間で途方に暮れていた。
こんなに茫然自失の状態の直嗣さんを目にしたのは初めてだ。

「大丈夫?」

私は、直嗣さんにそっと声を掛けてみる。
私の呼びかけにハッとした直嗣さんは、慌てて取り繕った。

「あぁ…すまない。今日のところは出直すよ。取り敢えず、失礼しないとな。」
「…うん。ママに声を掛けて出よう?」

私の言葉で直嗣さんは立ち上がり、帰り支度をする。
準備が出来た頃を見計らって、居間に居るだろうママに声を掛けて本宅を出る事にした。

「ママ、ビックリさせちゃってごめんなさい。また、ゆっくり来るから。」

私の声に、ママが反応する事は無かった。
これはちょっと…私も堪えるなぁ…。

そのまま直嗣さんの車に乗り、二人で移動する。
今度は、重苦しい雰囲気でも話さない訳にもいかず、私は重苦しい空気を打ち破るべく、直嗣さんに話し掛けた。

「ママの事、ごめんね…。」
「いや、家元が言っている事は至極当然だ。祖父さんの言葉に翻弄されている宝生院家が問題なんだ。」
「何か…別な方法を考えないといけないのね。」
「……そうだな。」

珍しく、直嗣さんの歯切れが悪い。
私は、暫く考えて…自分にとっては、余り嬉しくない方法を提案した。

「このまま、とある財閥の令嬢とお見合いだけはしてみたら?」
「…場合によっては、婚約を重複した状態にするっていうのか?」

はっきりと言葉で聞くと、なかなか気分は良いものでは無い。

「…そう。」
「…それは…。」

二人とも、意とするところでは無いので、奥歯に物が挟まったような微妙なやりとりになる。

「私が言うのも何なんだけど…、ほら、財閥の方々って何人もの婚約者が居たりするじゃない?」
「それは…話が進んでいく前だろ?」
「貴方だって、そういう人は何人も居たんじゃない?」
「ナオ。」

…突然、直嗣さんが不機嫌そうに言った。

「さくら、ナオって呼んでよ。」

あぁ…名前の事か…。
言われるまで、気付かなかった。

「ナオ…?」
「うん、子供の頃には少なくとも五人くらいは居たな。…そう言えば、そこら辺はどうなっているんだろうな。父さんにも母さんにも何も言われていないな…。」
「ちょっと、聞いてみて。もしかしたら、何か良い方法が見つかるかもしれないし…。」
「さくら、このまま俺の家に向かっても良いか?さくらと一緒に居たいんだ…。」

珍しく弱気の直嗣さんを見て、そのまま帰る気になれないのは私も同じ。

「いいよ。ナオのところに向かって。」

私の言葉を聞いた途端、車の速度と二人の温度が上がった。
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