婚約から始まる「恋」

観月 珠莉

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*07* 想い人

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宝生院 直嗣。二十九歳。独身。
タカラ・コンツェルン御曹司。
宝生院家長男で現在の七代目タカラ・コンツェルン当主より家督を継ぎ、八代目当主就任予定。
現在は、タカラ・コンツェルンのホールディング・カンパニーの一つ、プラチナムホテル・グループの社長として采配を振る。
幼少の頃より帝王学を学び、高校の頃から諸外国に留学し見識を深める。
使用言語は十か国語以上に及び各国の王室・皇室とも交流がある。
見目麗しく、ビジネス総合誌・経済紙他多数のメディアに取り上げられている注目の若手経営者である。

…名前さえ判れば、こんなにも簡単に直嗣さんの情報は引き出せる。

終業後、ドッと落ち込んだ私を励ます為に、みのりちゃんは飲みに誘ってくれたけれど、全くそんな気は起きなかった。
丁重にお礼を伝え、一人でゆっくりと考えたい旨を話し、帰路に着く事にした。

**********

「さくら様、家元がお待ちです。」

数日前と同じように社員通用口に運転手の楠木さんが立っていた。
…『家元』という事は、今日はそういう話の為の迎えなのだろう。

「わかりました。お願い致します。」

私は、気持ちを切り替え、車に乗り込んだ。

**********

「さくらさん、お帰りなさい。離れの和室でお話しましょう。」

ママは家元の顔で、部屋で待つように言い付ける。

「承知致しました。」

私は背筋を伸ばし、家元の言葉に従う。
離れの和室で待っていると五分程で家元が入室した。

「今日はお願いがあってお呼び立てしました。」
「はい。」
「我が花香流かこうりゅうのお花は格式高いお家柄の皆さまの覚えがめでたい事はさくらさんもよく理解していらっしゃる事と思います。」
「はい。」
「さくらさんにお願いしたいのは、ご依頼頂いたお邸に定期的にお花を生けに行って頂きたいのです。」
「私にはホテルでの仕事がありますので、先輩の師範の皆さまにお願いする方が筋かと存じますが。」

丁重に不可能な旨を伝える。

「今回は、私へのご依頼でしたが、定期的という回数から鑑みても家元の私が対応するには難しいと判断致しました。送迎には楠木を付けますから来週からお願いします。」
「来週からですか?」
「えぇ、先様からは一日でも早くご希望とのお話がありましたから。」
「シフトの都合もありますが、問題は無いでしょうか?」
「では、お仕事の予定を教えてください。こちらで先様と調整を致しましょう。」
「はい、よろしくお願い致します。」

つい一時間前まで落ち込んでいたはずの気持ちは、背筋を伸ばしながら聞いていた家元からの話でカラリと弟子としての思考に切り替わった。
でも、状況は全く変わってない…この状況どう打開したら良いの?
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