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後日談たち やり残したネタとか消化していきます
156.後日談13 解き明かせ! 黒歴史
しおりを挟む時刻はすでに夕刻を終え、夜の帳が下りてきている。
やけに豪華な部屋では落ち着けず、申し訳なく思いつつも、俺はベッドの天蓋を取り外した。
せめてこれくらいは外させて。
キラキラ光っていると本当眩しいから。
帰るときにはきちんと設置し直す所存だ。なので俺は無罪。器物破損とかにはならないはず。そう
! ばれなきゃいいのだ。
いやだめだろとかいう声は聞こえない。こんな環境におかれれば仕方がないと誰しもが思ってくれるだろうと信じている。
「はぁ……寝よ」
しっかし、なんで何百年も前の絵画に『見た目俺』な天使が登場していたのだか。是非問い詰めねばならない。
造詣だけならまだしも、髪や瞳の色まで一致していたしな。
これが偶然とは思えない。
絶対神のジジィをとっちめて、聞き出してやろう。
俺は深く決心をすると、布団に倒れこんだ。すぐに眠気がやってくる。
素直に眠気に身を任せ、目をつぶり、俺の視界は真っ黒になった。
◆
夢の中だ。
視界の四隅がぼやける真っ白な世界で俺の意識は覚醒した。ふわふわと身体が浮いている感覚がする。
神のジジィに教えてもらったのだが、どうやら俺ほどの魔力を持った生物になると、強い思いを持てば夢を通じて神のいる世界に精神を投影することができるようになるらしい。
うん、正直理屈がよくわからないが、つまり神と対談できるということだ。
別に肉体ごと転移してもいいんだけどね。できることは判明してしまったわけだし。
普通、転移は知っているところにしか行けないわけだから、どんなに魔力があろうとも普通生身の天界には行けない場所であるのだが、魔の森の一件で焦った神に慌てて召喚された身である俺は、何と普通に転移できてしまうのである。
まあ、しかし、肉体ごと転移すると『公爵家嫡男の行方がわからなくなってしまった!』なんて騒ぎになりかねない。黒騎士さんたち、優秀だし、俺の姿がないことにくらいすぐ気がついてしまうだろう。
俺の実力を知っているとは言え、一応彼らは俺の護衛も兼ねているわけだし。
みすみす苦労をかけるというわけにもいかないので、天界に転移はやめておいた。
真っ白な世界で、強く神のことを考える。強い意志を持っていれば神に会えるらしいからな。
神に会う……神に会って事情を聴く……神に肖像権という概念について問い詰める……神をしょっ引く……とっちめる……。
「おおぉぉいっ!! 登場したらいきなりぶっそうだな!?」
いきなり目の前に現れた平凡顔の青年が、俺を見て仰け反った。
見れば、周りの景色にも一瞬で色がついた。青々とした草原に、満天の夜空が広がる、ありふれた空間に変わっていた。
「こんばんは、犯罪者さん」
「え、なんで会って早々犯罪者呼ばわりされてるの俺!?」
あんな天使の姿を作っておいてそれはないぜ父さん。
俺はハァ……と見るからに深い溜息をついた。そんな俺の行動にか、心の声にか神さんは肩を飛び跳ねさせた。ついでに目も限界まで見開かれている。
なんて残念な顔なんだ。
とんでもないことになっている。我ながら驚いた顔も最悪だな。
「うぅ……最近、息子が反抗期なんですぅ……」
しゃがみこんで、いじいじと地面に『の』の字を書き出した情けない父さんのことは放っておいて、俺は事情の説明をさっさと始める。そして、説明を求める。
「ヒッツェの教会に行ったら思いっきり俺の姿の天使の絵があったんですけど。どういうことなんですか」
「よそよそしい口調に泣いちゃうよ父さん……」
「うっさい、さっさと説明しろクソオヤジ」
「口汚さに泣いちゃうよ父さん……」
「うっせぇ、文句はテメェの父親にいいやがれ」
俺の口の悪さは克夫さん譲りなのである。
なので、文句は受け付けない。
しゃがみこんでいた父さんは立ち上がると、眉を下げて頬をぽりぽりと指でかいた。
「はぁ……ついにばれちゃったか……」
「ついに自分の罪を認めるか。懺悔しなさい。さすれば神も救われよう」
「神が救うんじゃないのね、知ってた、俺が神だもんね」
俺は黙り込んで父さんを見つめた。
そして目からビーム。さっさと、説明しろビームである。
「わ、わかったよ、わかったから。まあ、あれはまだヒッツェが開拓されていなかった時代のことなんだけど、あ、寺尾くんの日記は読んだよね。まだあの頃は世界の調整も上手くいってなくて負のエネルギーが多かったんだ。だからヒッツェのあたりも『魔の森』になっていてね……そこを開拓したのが、初代皇帝だったから、まあそろそろヒッツェのあたりも解放するかと、そのあたりの事情を説明しに行ったんだよ」
「それで降臨の伝説、と」
「うん、まあ要は寺尾くんのときと同じ流れだったんだけどね。そういうことだよ! わかった?」
そこまで言って父さんはにっこり笑った。
俺も『なるほどそれで降臨だったのかー!』と納得してにっこり微笑――――まなかった。
「それでごまかせると思ってんのか!」
「ごめん、嘘です、続けます」
父さんは素直に頭を下げた。
「まあ、天使はね、その、つまるところウィルそのものなんだけど……」
時間軸的におかしくないですかね?
俺まだその頃、生まれていないんですけども。
「その頃には翔がトラック事故で死んじゃう運命だってこともわかっていたから、すでに転生の計画をしていたんだよね。で、それで、あの、もう見た目も決まってたから……ついつい天使にも」
父さんはテヘペロと語尾につきそうな勢いでぶちまけた。
要するに俺をそのまま天使にオマージュしたと。
俺はついジト目になった。まず俺が天使の見た目に使われたというのも気に食わない。
そして、俺の格好をさせられて生まれた天使もかわいそうでならない。
「いや、天使がウィルの格好するのは降臨するときだけだから大丈夫だよ? 普段はもともとの姿だし……」
「もともとの姿?」
「あ……い、いや、ナンデモナイヨ」
父さんは思いっきり『しまった!』という顔で目線を泳がせた。
なんでもないはずがない。それでよくそんな台詞が吐けたものだ。
更にジト目を浴びせた俺に父さんは呻いた。
「……天使は、俺の子孫に当番制でやってもらってんのよ」
「と、いいますと?」
「ベリル家歴代当主の皆さんです」
それを聞いて俺はハッとした。思い出したのだ。
父さんから聞いたあの話を。そしてベリル家の家系図を!
「もしかして、歴代の当主が晩年になると旅に出るのって」
「地上での天使業務に就いていただいております……あ、いや! でも強制とかじゃないからな!? ちゃんと本人の承諾の上でやってもらっているだけだから! 天使と言えば子どもの姿だろ? だから子どもの姿にまあ変身のようなものをさせて、仕事をしてもらってるんだけど……ほら、ベリル家って初代が俺だから血がこすぎるのか、みんな顔俺にそっくりだから、ウィルに変身させるのであれば自分の子ども時代に戻ったようなもんだからあまり違和感ないらしくて!」
必死な父さんによる説明で色々判明した。
しかし必死すぎるだろう。すごい早口だし。
ついつい俺はふっと笑みをもらしてしまった。
「大丈夫だよ、父さん。そんなに必死にならなくても分かってるって。父さんがそんな俺の身代わり人形みたいな真似をさせるような人間じゃないことも、強制労働をさせる鬼畜じゃないことも」
にっこり笑えば、父さんも俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
あ、少し目元が潤んでる。……ちょっとからかいすぎたらしい。
父さんはいじりがいがあるので、ついついいじってしまうのだよ。すまぬ。
心のなかで謝れば、その意思はしっかり伝わったようで、父さんは心底幸せそうににへらと笑った。
「で、ウィルの容姿が決まってたっていうのは、髪型はもう血的に決まりきっていたのね。で、瞳の色は、その一応ペリドットって言って……地球では『太陽の石』って別名もある石の色なんだよ」
「別に父さんは太陽神とかじゃあないよな?」
「うん、その、……笑うなよ? 俺、地球でパワーストーンとかにハマッていたときがあってな。そういう本によるとな、ペリドットは、ネガティブをポジティブに変えてくれる石だと言うんだ。そして、自信をなくしてしまったとき、沈み込んだときに太陽のように暖かく、気持ちを上昇させてくれるのだって」
顔を赤く染めながら由来を教えてくれた父さんに、今度は俺が赤くなる番だった。父さんって意外とロマンチストだったんだな。……だとかすぐにからかいの言葉が口から出ないくらいだ。
……なんというか、むずがゆい。
「俺にとって、翔は、そういう存在だったから。生まれたとき本当に思ったんだ。あったかくて、やわらかくて、一緒にいると笑顔になってしまう……太陽のような、存在で……」
最後にはしりつぼみに声を小さくしていって、更には身体も小さく縮こまらせてしまった父さん。
顔を覆って、小さく唸っている。見れば耳まで真っ赤だ。
「ぅーはずかしい……!」
確かにこれは恥ずかしいな。
俺も両手で自分の頬を包み込んだ。熱い。俺もきっと真っ赤になっているに違いない。
「つ、つまり、名付けのようなものだと、思ってくれ。転生したら、俺は息子に名前がつけられないからって気付かれない程度に瞳の色をいじる姑息な父親なんです、ごめんなさい」
「あ、はい」
二人して赤くなってペコリと頭を下げあった。
……やめよう、このノリ。告白して返事する場面かよ。そんな場面に陥ったことないけど!
違うよな。あれだ、思春期でツンツンしちゃうお年頃の少年が母の日にカーネーションとかあげちゃうかんじだ!
なにこの羞恥プレイ。やめよう!
「おっほん……もしかして、前世の名前も……?」
俺は咳払いをし、話題を転換しようとして失敗した。
なんでその話題選択したの! 俺ぇ!!
「そうだよ、俺だよ、『空高く飛ぶ』の翔だよ! 太陽だよ! 俺の太陽べいびーだったんだよぉおお!」
父さんはやけっぱち気味にそう叫ぶと、草原のはるか彼方まで走り去っていった。
「……寝よう」
俺はその後姿を見送ると、草原のなかで横になった。
あれ、これ夢の中だけど、もう一回寝られるのだろうか。
いずれにせよ、頬がカッカとしてすぐには眠れそうにないけれども。
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