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後日談たち やり残したネタとか消化していきます
144.後日談4 変な後輩(カルシウス視点)
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カルシウスはピクリと動いた。今日はいつもと違って、寮の自分の部屋のベッドで寝ることにしたカルシウスだったが、やはり寮はダメだ。たくさんの気配があって何となく寝付けない。
その上、なんと現に今に至っては、部屋に向かってくる気配があるではないか。それも、まさかの天井裏から。
廊下というきちんとした通路があるにも関わらずあえて屋根裏を通ってくるなんて、まったく非常識な奴だ。カルシウスはむくりと起き上がると天井を見て、近付いてくる気配の主を痛烈に非難した。
自分もいつもしていることだと言うのに。
盛大なブーメランである。
「だれですか?」
カルシウスは残念ながら、まだ気配で人を判別できるほどの技術力はなかった。隠密行動中に音を出すなんてとんでもないことだが、今は別に隠れているわけでもない。しかたがないので天井に向けて問いかけた。
まあ、答えは聞かないても思い当たる人物なんて2人くらいしか思いつかないが。天井裏に侵入できて、しかも気付かれぬように気配を隠してカルシウスの部屋までたどり着き、かつカルシウスに気付ける程度まで気配を出すように調整できる人物なんて。そんなことできる人物がそうそう居るはずがない。それはついこの前まではこの国じゃ一人くらいしか知らなかったが、そもそもそれができる自体で相当異常である。
「僕ですよ。カルシウス先輩」
やっぱり。カルシウスは気付かぬうちに笑みを浮かべていた。
そもそもこの学園の屋根裏に隠し通路があることに気がついている人がニンジア家以外のものでどれだけいるのだろうか。
普通貴族様の子どもなんて、手塩にかけて育てられているだけの、この学園に入ってくる年代の子らは屋根裏なんてものに全く気を使わない。
それどころか、貴族社会の荒波に揉まれたはずの成人貴族でさえ気がつかないことがある。
現に学園の屋根裏通路が気がつかれていないのがいい証拠だ。
それだというのにその存在に早々に気がつくウィルにはすごく驚かされた。実際は屋根裏の通路に気を使ったというよりは、気配に気がついた為だと聞いたが。
それでもカルシウスは驚いた。まさか気配なんて普通に暮らしていく分にはまったく必要のないものを察知する技術を低学1年生で会得しているものが居ようとは思わないだろう。それも、2年も飛び級をして入学してきた8歳の子が。
カルシウスでもつい最近やっと習得したのに。
それにカルシウスも趣味が人間観察でなかったら、屋根裏の存在に気がつくことはなかっただろう。
そんなことを軽々とやってのけて、それを全く鼻にかけたりもしていないウィリアムス=ベリルという人間は、カルシウスにとって本当に謎の人物であった。
それだけに、興味も湧くし、何より面白かった。
正直、カルシウスにとって学園という場所は生ぬるく、ポーカーフェイスのおかげで目立っていないが元来好奇心旺盛で好戦的な性格であったカルシウスにとってはいささか面白みに欠けてきた場所でもあった。
人間観察をするにしても今や興味を充たすというよりは弱みを握る訓練の一環という感じになってきてしまっている。
大体何年も一緒に寮に住んでいれば観察などわざわざしなくても友人の行動など知れてくるのだ。
そんな折に現れたウィルという存在は、カルシウスにとって言ってしまえば格好の餌であった。
それと同時に、情報部隊の父であるジルコとすでに肩を並べて仕事をしている姿は羨ましくもあったが――まあそんな気持ちはすぐに飛散してしまった。
観察すればするほどわかってしまうのだが、ウィルという人間は競おうだなんて思うのが馬鹿らしくなるくらいの規格外の人物なのである。
そう、思えば入学したての入寮の日からおかしかった。
まだ魔法陣も習っていないはずなのに寮の扉を開けるし、自己紹介のときもその年齢には見合わない落ち着いていてそれでいて人をよく見て気遣った対応をしているし。
そういえば自己紹介のとき彼はその苗字を名乗らなかった。当然、ニンジア家の者として、この国最大の貴族で公爵の息子が飛び級で入学してくるという情報を得ていないほどカルシウスも愚かではなかったから、『ウィル』という愛称を聞いた瞬間に気付くことができたが。あのときは何か自分たちを試しているのかと勘ぐってしまったものだ。
やっぱり何と取り繕うとカルシウスもニンジア家で育った身なので、そういう策略とか陰謀とか裏方の話は大好きなのだ。幼少期から絵本にはじまり小説や歴史書と、その手の物語にかじりついてきたカルシウスが期待してしまうのも仕方ないことだろう。
今なら、彼のことだから必要以上に目立ちたくないとか、貴族だとか気負われずに仲良くなりたいとかそういう思いでやったことなのだろうな、と何となく予想はつくのだが。
それでもカルシウスはいまだにウィリアムス=ベリルという人間を把握したわけではなかった。
それゆえに、彼の行動はいつも突拍子もなく、それがカルシウスにとって何よりも面白かった。
今回はどんなことをしでかしたのだろう。
そんなわくわく感でいつもは無表情なカルシウスの顔も思わず笑顔になってしまうのだったが……。
「先輩、情報部隊みたいな仕事を早くしたいって言ってましたよね?」
さすがにこの発言はまったく予想の外で、カルシウスは数秒であるが目を開いたまま固まってしまうのだった。
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