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あくせく旅路編
◆19.友人の様子がおかしい(ジョーン視点)
しおりを挟むフェルセス学園の生徒が五月祭で何かやらかして国王陛下にさ招集れたらしいと、宮廷内の風の噂に聞き。
どういうことだと、半ば確信を持って本人を問い詰めたところ、どうやら学内に侵入した何処かの召喚獣がウィル君の友人を襲った為に、それを倒したのだという話であった。
通信の魔道具ごしにも少々焦っている様子が伝わっていることがわかるくらい、ウィル君は焦っている模様。
普段なら年齢を置き忘れたのかと思うほどの冷静沈着振りのはず。何かあったのかと問えば、まさかのその召喚獣があの高位魔獣アビであったのだという。
普通なら笑ってウソだと思えるような話もウィル君を知る私からすると、本当のこととしか思えずつい、通信の魔道具ごしに黙り込んだ。
私のそんな行動に、ウィル君はいきなり明るい声を出すと『まあそろそろジョーン先生のところにも誰か来るかもしれませんね』と冗談めかして言った。私を元気付けようとしたのか。下手ですね……。
思わずくすりと笑うと、ウィル君も少し笑いを漏らしているようだった。しかし、やはり常々思うものだが、ウィル君という子は……。
今の冗談で、ウィル君のところに誰かしらが派遣されたということも、それが宮廷関係であることもわかってしまう。そして、私のところにということで影関係であることも伝わってくる。
恐らく、守秘義務をと思っているなかで一応私に知らせてくれようということだろう。こういう気遣いをされる関係ははじめてだが、気の許せて信頼の置ける、立場的にも秘密の享有もできる友人関係など、非常に貴重で、居心地がいいことくらい私にもわかる。
それが八歳児相手というのが少々おかしいが、まあウィル君に年齢という概念を当てはめてはいけない。
ウィル君お手製の通信の魔道具を棚にしまいながら、私はひとりくすりと微笑んだ。
◆
しかし、噂をすれば何とやらというものなのだろうか。
ウィル君と会話をした次の日に、ジルコがやってきた。学園時代からの知り合いで、今やエイズーム王国騎士団の黒騎士情報部隊の部隊長である。
宮廷学者となってからも、情報提供やアドバイザーとして関わりがあった。三年前の一件があるまではあまり思ったこともなかったが、どうやらジルコと私は世間的に言えば腐れ縁の友人とも言える関係なのではないだろうか。
そして、黒騎士といえば王直属である為宮廷関係者であるし、『アビを倒した』という証言をしたウィルに派遣するに当たっては情報部隊ほど適任な選択はない。ジルコがウィル君の言っていた人物で間違いないだろう。
「それで、アビの件についてですか?」
「……あ、ああ。そうである」
突然ジルコが天井から降ってくるのには慣れた。何しろ学園時代は同室であったもので、いつも部屋に入ってくるときは天井裏からであった。何やら『ニンジア』の癖らしい。一族揃って変人である。
降りてきて早々、ジョーンに本題を突かれて驚いたのだろう。無表情ながらも、何故それを知っている、と雰囲気で全力で語ってくる。この男も相変わらずだ。ジョーンは肩を諌めて苦笑した。
「ウィル君が倒したんですよね?」
これだけ言えばジルコは察するだろう。何しろ私をウィル君の家庭教師としてジルコをキアンに紹介したのは、ジルコなのだから。
そしてすべてをわざわざ語らせるような真似もさせまい。
「そうである。その件について、アビの生態・伝説・伝承についてなどの情報提供を望むのである」
案の定、何故知っていたかという疑問は流して本題に入ることにしたらしい。
余計な時間はいらない。お望みどおり、巨大な本棚へと向かうといくつかの資料を引っ張り出して説明を開始した。
といっても、アビは半ば伝説と化しているような恐ろしい魔獣である。町を一晩で滅ぼしたらしい、といった不確かな情報しか伝えられない。
しかし、いずれにしても高位魔獣であるということは確かだ。魔力を放出させただけで人を気絶させたという今回の事件から伝わる事実だけでもそれは証明できる。
そんな魔獣を召喚獣、もしくは契約獣として操った人物がいる。それが本当に本人の実力ならば……。
ひやりとするものがあった。
何か特殊な魔道具を使ったのだとしても、そんな魔道具を使ったもしくはつくったとなれば、相当に強大な組織に違いない。そんなもの、個人の力でどうにかなるものではないのだ。
なるほど、それで私か。
私なら三年前の『影』の事件についても知っている、関係者だ。今更他の学者を当たって、情報の漏洩の危険性を高める必要もない。
「しかし、どうやってアビが侵入したのでしょうね。学園には結界が張られているはずですが」
「それが、どうやら何者かが手引きしたのか、起点が出来ていたらしいのである。それを先ほどウィル殿と話し合い、手配することとなったのである」
「ふむ……。それで、その後調査に、という感じですかね? なるほど」
いかにも、ウィル君ももう限界ということだろう。
私が襲われたことも相当起こってくれていたようだし、シフォンやプースラリエル、ピピンニャルだって今では大切な仲間だと思っているようだし。更には今回友人まで襲われたとあってはね。
それで、私は今後なんですか? 調査のアドバイザーに任命でもされるのですかね?
そう思ってジルコを見やれば、何やらジルコは小さく頷いた。
「ジョーンには色々な面での情報提供とアドバイスを求めることとなるである」
「わかりました」
しかし、この男もウィル君に会ったとなればやはり驚いたことだろう。
「……アナタもついにウィル君に会ったわけですか」
思わず呟けば、ジルコは深く頷いた。
「まさに。ジョーンの申していた意味を理解したである」
あれは八歳には思えない。
ウィル君を思い出して、二人して遠い目になった。
◆
「なるほど」
そんなことがあってから数日後。
私の研究室にウィル君とプースとジルコがやってきていた。やはり、敵を影と定めて動き出したはいいが、なかなか検討もつかず行き詰ったということらしい。
何百年もの大陸の歴史のなかでも見つけられない影の本拠地をこの短時間で見つけようという方が土台無理というものだ。
私はあまりに必死なウィル君の様子に首を傾げながらも、少々冗談を言うことにした。いまだに似合わないという目を向けられるが、案外冗談を言うのは楽しいのだ。
「話は分かりました。学園に襲撃があり、そのアビをウィル君が倒したはいいが、カルセドニーさんにも被害は及ぶしガールフレンドは怪我をさせられるしで黙ってはいられない、と。そして影の本拠地を見つけ出してもとを絶とうとなるほど」
そこまで言って、ウィル君がやたら焦った様子で黙り込んでしまったので慌てて次の言葉を継ぐ。
「冗談ですよ、ウィル君。おおかたそこの部隊長ひとに頼まれたのでしょう。仕えるものは使う人ですから」
「……なんどか世話になっていてな」
肩を竦めたジルコに、やっとウィル君は落ち着いたらしい。
その後、話し合いは進み、ウィル君が影の目的がわからず、父や自分が狙われていること、それならばいっそ騎士団長であるキアンを狙った依頼者が影の組織を有しているでは、という疑問を呈したところで私とジルコは閃いた。どうにも影という組織から本拠地をアプローチしていたが、事件からの方がまだ最近の情報だ、確実性がある。これは私の頭が固くなっているようだな……。
そういえばキアン様は一度影を退けていると聞いたことがある。影は決して無茶はしないと聞くし、本当に影がキアンを狙い続けているならばそれは非効率だし、ウィルを狙うというのも理にかなっているし、何よりそんな大規模で、かつ凶悪な手段をとれる組織など『影』以外には思いつかない。
情報がなく、すべてが手探りな現状では思い当たるところから行くしかないだろう。
かくして、ウィル君たちは、この大陸で唯一、エイズーム王国の騎士団長をどうにかしたいであろう、そして影の組織を有せるほどの規模を持つであろう組織――――北の隣国ヒッツェ皇国へと調査へ赴くことになったのである。
それもどういうことか、国王陛下に情報が筒抜けであったので、王命で。
私の研究室で行われた話し合いだ。恐らく、城自体になんらかの魔道具が備え付けられているのだろう。
「しかしウィル君、随分と余裕のない様子でしたが……」
ひとりになった部屋で、心配が増す。ウィル君に限って、死ぬようなことはあり得ないとわかっているが、そういう身体的な問題ではなかった。
あれは、私を助けたあと見せたような……そう、何かを恐れているのを、隠しているような……。
「大丈夫でしょうか……」
湧き上がる嫌な予感に、思わず北の方角を見つめてポツリを呟いた。
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ごめんなさい、きれいにダイジェストし切れなかったので変なかんじになってます
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