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それいけ学園編

◆7. 息子が学園に行ってしまうらしい(キアン視点)

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 それはまさに晴天の霹靂へきれきの出来事であった。
 そう、それは喜ばしくも誇らしいことだ。何と私の愛する息子が低学園に入学することとなったのだ! しかも、飛び級で!
 本来、低学園に通いはじめるのは10歳からが義務教育期間として定められている。しかし、今ウィルは8歳! しかもジョーン殿によれば、ウィルの学力はすでに宮廷学者の試験を受けられるレベルだとか! いくらなんでもそれはお世辞だろうが、それくらい我が息子はすごいのである。
 
 いや、喜ばしいと言ったが、前言撤回しよう。
 ――――とても、寂しい!

 ただでさえ、最近は反国王派の対応やらであまり家に居られなかった上に、更にはこの前の事件である。忙しさゆえに全くウィルと会えなかった。地獄である。剣1本で魔の森に放り出されるよりつらかった。
 さて、その事件、なのであるが。
 首謀者は何とジン=ヴェリトル。ジョーン殿の父親であったのだ。ジョーン殿自身がこの事件に無関与であったことはすぐに立証されている。何たってジョーン殿もこの事件の被害者である。実の親と兄に家の地下に監禁され、全身の骨にひびが入り、血が滲むくらいの拷問を受けていた。それを助け出したのはウィルだったのだが……。
 その際、私は王都で何やら建国のときから法で禁じられている『奴隷』を載せた船の動きがあったとの情報で、王都に急行していた。そして、妻のリリィはかねてからの予定でお茶会に。ジョーン殿は彼の母親が危篤状態だとかで、急遽ヴェリトル領に帰ったのだが、私の王都での事件も、ジョーン殿の母の危篤情報も、私たちを屋敷から誘き出す為の罠であったのだ。そのことに気がついたのは、怪しいとの情報が入った船の取調べを行って、金属製のおりのなかに鶏が入れられているのを見たときであった。時既に遅し。
 敵の目的は、屋敷の書類と、ウィルの誘拐だったのである。
 私は公使ともに国王であるキサムとは親密な関係を築いている。そして、武力ではこの国一位をはれると自負できるくらいの実力は持っている。何より私は公爵で、国中の治安を守る為各地に配属される白騎士団を総括する、騎士団長だ。ウィルを人質にとればあるいはいちかばちかと思ったのだろう。
 私たちの地道な活動で、反国王派の勢力も下火になってきていたしな。特にヴェリトル氏は法もかなり犯していたし、噂では奴隷にまで手を出しているという話もあがっていたような――絵に描いたような『貴族様』であったので、『親庶民』的な国王キサムにとっても、言ってしまえば邪魔な存在であったし、もう後がないと思ったのだろう。それで、息子がベリル家に勤めている、となったら、ねえ。大方ベリル家の弱味でも握れるのではと思ったのではなかろうか。
 家全体とウィル個人の教育役とは無関係である。そんな簡単な分別もできないような人間を私が雇うはずはないのにな。
 なぜそうも単純な思考ができたのか甚だ謎でならないが。
 結局事件は、ヴェリトル家が雇った『影』も目標物であるはずのウィルに打破され、頼みの情報源、息子ジョーンも同じくウィルによって救出され、未然に解決されることとなったのだが、当然お家はお取り潰しである。
 そしてその余った領地がどうなるかという問題が残り……結局、うちに合併されることとなった。もともと重税や悪政でかなりのヴェリトル領民がうちの領地に流れてきていたから、ちょうどよかったというのもあるが、一応ヴェリトル家の息子であるジョーン殿が、うちにと内々に言ってきたのもある。
 そして、問題の『影』とはどのように接触したのか、とヴェリトル氏には取り調べも行ったのだが、黒いローブの男、という情報しか出てこない。そんな怪しい者をよく頼ろうと思ったものだが。
 更にやっかい問題は我が家に侵入してきた『影』たちが皆奴隷で、しかも『隷属の首輪』をされていたことだ。世界中ですでに何百年か前に禁止されている禁忌の魔道具である。
 もうすでに廃れたと思っていたが。しかし、残っているのだとしてもこの魔道具の技術はとても高度なものであることは明確である。そんなものをたった一組織に扱えるのだろうか? 背景のことを考えると頭が痛くなる。裏社会を牛耳る『影』より大きな組織なんて『国』くらいしかないのだ。

 と、まあ色々な対応に追われて、それが最近やっと落ち着いたと思ったらこれである。まさに晴天の霹靂。
 全然ウィルと遊べていない! せっかく子供用の剣も発注したのに!
 ……いや、でもそのウィルが飛び級する理由が「早く父さんの手助けをしたいから」だもんなぁ。ふふふ。できた息子だ。しかも飛び級だぞ。頭も良い。

「でもさびしい……」

 ぶつぶつ呟きながら洗面所の前に立っていると、部屋にリリィが入ってきた。

「貴方……いつまでもいじいじしてないでくださいな。ちゃんとウィルをお見送りする前にスキンシップでもすればいいじゃない?」
「そ、そうだな!」

 リリィの言葉に幾分か気分が浮上する。そう、たった何分間かだけだろうと!
その分愛をこめればいいのである。

「ウィルにひげが痛いと言われていたでしょう? きちんと剃っておいたらどうかしら?」
「そうだな! 思う存分スリスリしたいしな!」

 俺の言葉に、ふふふとリリィが笑う。今日も美人だ。
 そっとリリィを抱き寄せて囁く。

「休日には甘味処にでも行こうな。王都でいいところ見つけたんだ」
「あらあら」

 今度こそリリィには大爆笑されてしまったが、仕方あるまい。
 ん? ウィルが寮に住み込みで通う学園が王都にあるとかは、全然関係ないことだけどな。

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