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第2章 宝玉を追いかけていたら世界を救っていた
52.それぞれの戦い方
しおりを挟む竜と戦うことを決心した俺たちは、まず空を飛び回る竜を俺たちと同じ土俵にのせることにした。
「俺が地面を引き延ばして、天井をつくるのでファナさん、クレト様は防御をお願いします」
「了解!」
「承りました」
ファナさんが背中に背負った大剣を引き抜いて不敵に笑った。しゅてき。
クレト様も両手を目の前で組んだかと思うと、祈りのポーズになって発光しだした。神かな?
「『サンクチュアリ』!」
そして、クレト様がそう叫ぶと俺たちの周囲に半円状の結界が張られた。結界は薄っすらと黄金色に輝いている。
俺はそのようすを傍目に見ながら、地面の石をぐいぐいと念動力で伸ばしていいった。幸いにもこの地面の材料である石に魔力が含まれているだとか、非破壊属性だとかそういったことはなく、通常の石と同様に動かすことができる。
「この結界は、物理的な攻撃は防げませんからファナさん、そこは任せました」
「おう、任された!」
クレト様とファナさんが熱いバトル漫画みたいな会話をしている。
かっこいい。俺もナチュラルにそんな発言をしてみたい。
「あの、あの、私は罠を張って戦うくらいしかできないですが、……ごめんなさい、今日は大規模な罠を持ってきていないのでただの足手纏いですー……」
アイレさんはというと申しわけなさそうに俺たちの間をうろうろしている。
いや、ここにたどり着くまで十二分に活躍していたし、その間俺たち3人が完全なる足手纏いだったわけだからそんなに気にしなくていいのに。
でも、罠……というと……。
「罠って、爆弾石とかでもいいですか?」
「はい! もちろん。……ッハ!もしかして、お持ちですか!?」
「うん、念動力で魔物の群れに落とすように購入していた爆弾石があります」
石で天井をつくりながら、『無限収納』から爆弾石を渡す。
爆発の魔法を使える職人が作った爆弾石だ。衝撃を与えれば爆発するので重宝している。ちょっとした衝撃で爆発してしまうので移動時に非常に気を使わなくてはいけないため、通常は鉱山などで使われていて冒険者には向かないらしいのだが、俺には『無限収納』があるので普通に便利アイテムになっている。
街で英雄になったおかげでこういったものも売ってもらえるようになった。
「ありがとうございます! これで何とか戦えますよ!」
アイレさんはそう言って意気込むと姿を消した。
ホントすごい隠密だ。本当にどこにいるかもうわからない。きっとどこかで罠をしかけてきているのだろう。
と、準備をしている間にも遠くにいた巨大な竜がこちらに迫ってきていた。
「ギュアアアアアア!」
竜が雄たけびを上げながらこちらに突っ込んできて、俺たちの頭上を通り過ぎながらブレスを浴びせてきた。
キンという澄んだ音がして、そのブレスをクレト様の結界が防ぐ。
さっすが!
ちょっとびびった俺だったが、この結界があるなら!
気を取り直して竜を覆うように、外側から天井の範囲を徐々に狭めていく。あまり薄い壁にするときっと体当たりですぐに割れて意味がないから、厚めに、厚めに。
ブレスが効かないと分かった竜は旋回したかと思うと、急降下して俺たちのもとへ体当たりをかまそうとしてきた。
しかし、そこに割り込んだのはファナさんだ。
大剣でうまく竜の身体の軌道をそらしたかと思うと、ついでとばかりに竜の横っ腹を掻っ切った。深い傷はつけられなかったが、竜は悲鳴を上げる。
竜は俺たちから逸れていったかと思うと、一旦体制を整えようとしたのか近くに見える石でできたちょっとした高台に着地しようとして――爆発した。
「やった、うまく当たりましたね!」
いつの間にか戻ってきたアイレさんがガッツポーズをとっている。いつ戻ってきてた!? 驚きすぎて思わず悲鳴を上げそうになった。
それにしても見事である。きっとすべての高台に仕掛けているわけではないだろうが、竜は疑心暗鬼になって高台に着地することができないだろう。
それからは消耗戦であった。
ブレスを防御できるとはいえ、それはクレト様の魔力を消費してのことだし、ファナさんだって防御をするたびに体力を削られる。俺も天井を作りきるには時間がかかり集中が途切れそうになる。
体力を回復させるポーションや魔力を回復させるポーションをがぶがぶ飲んで対抗する。
「――なんか、あいつ回復してないか?」
数十分後。ファナさんが訝しげにつぶやいた。
俺もそう思っていたところだ。最初は体力がものすごいタイプのモンスターなのかなと思ったが、よく見ると最初の方にファナさんが大剣でつけた脇腹の傷が薄くなってきている。
「してますね。どうしましょう、『無限収納』があるからある程度は対抗できますがこのままだと本当に我慢比べになりますよね」
「聖書の一句にもあります。――かの悪魔は悪意を集めてついぞ倒れることはなかった、故にこことは異なる空間に奴を封じた、と」
「悪意、ですか」
「ええ、世の中に満ち溢れる『悪意』を凝縮させた存在があの竜――悪魔なのだという話らしいです」
「じゃあ、人が生きてる限りなくならないってことか」
ちょっと絶望的な空気が流れる。
大昔の聖者でも倒せなくて封印した相手だもんね。そんなん倒せるのだろうか。
竜は己の体質をわかっているのか、こちらに効かないとわかっていても体当たりとブレスをやめなかった。つまり、消耗戦でこちらを殺してやろうということなのだろう。
さすが悪意を集めた存在と言われるだけある。人の嫌なところをついてきやがる。
――ん? でも、悪意を集めた存在ってことは?
「それって、あの竜はモンスターじゃないってことですか?」
「え? ええ、一説によると悪魔の悪意により効率的に魔力が凝縮され『動物』に取り付いたものが今モンスターといわれているものらしいです。昔は普通の『動物』というものとモンスターが共存していたようですが」
「つまり、あの竜は魔力で構成されていない……?」
俺はごくりと息を呑んだ。
それってさぁ……。
体当たりをかまそうとまた近づいてきた竜を見ながら、俺はファナさんを見た。
「ファナさん、俺を奴の近くに吹っ飛ばしてください」
「了解!」
ファナさんは俺の意図をすぐさま理解してくれた。俺を担ぐと軽やかに竜の体当たりをよける。
ファナさんに担がれた俺はそのまま勢いよく竜の背に向かって投げられた。
「『無限収納』!」
竜の近くに来られた俺は気合を入れて思わず叫ぶ。
竜の姿は、消えた。
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