41 / 55
第2章 宝玉を追いかけていたら世界を救っていた
41.旅立とうと思ったんですけど
しおりを挟むトントンと廊下を歩く軽めの足音が聞こえてくる。そうして、カチャカチャとドアノブを触る音が聞こえたところで、俺は確信を持って立ち上がった。
「おかえりなさい! ファナさん!」
「お、おお、ただいま、マコト。どうした、そんな興奮して。どうどう……」
気合を入れて玄関まで迎えにいくとそんな俺に若干驚いたファナさんが俺を落ち着かせるように頭を撫でてくる。はすはす。気分はご主人様を出迎えた犬である。わん。
「ファナさん、ファナさん、今日すごく面白い発見をしてしまったんですけど! あ、これお茶です」
ファナさんをテーブルまで案内して椅子を引きながら話しかける。
「どうしたんだ。……お、ありがとう」
お茶を渡して話を聞かせる体勢にしたところで、俺もテーブルを挟んで向かいの席に座った。
「あの、宝玉なんですけどね。魔力を籠めると、こう、一方方向に光るんですよ」
「ああ、有名な話だな。まあ、何秒か籠めただけで砕け散ってしまうわけだが」
あ、やっぱり一般常識だったんだ。よかった、俺、クレト様に聞くときに「宝玉が生きてるんじゃないか心配になった」説を言っておいて。
それはさておき、本題である。
「一方方向に光るって、なんだか宝の地図みたいじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「宝の地図は、地図に×印がついているじゃないですか。方位磁針は常に北を向く。で、光の方向は何か宝なのか何かしらの目的地をずっと指しているんじゃないかと思いまして」
「!!」
ファナさんが目を見開いた。
「その発想はなかった! じゃあ、マコトが言いたいことはもしかしてなんだが……」
「そう、俺はその光の方向に冒険に行ってみたいんでs…「乗った!」
ファナさんは俺の発言にかぶるくらいにはノータイムで了承した。
さすがは辺境までやってくる冒険者である。
「じゃあ、さっそく旅支度をしよう! マコトの『無限収納』があるんだから、食料品は十分に確保しないとな。きっとこれまでにない長旅になるぞ」
興奮して玄関まで駆け寄ってしまった俺と同じくらいに目を輝かせたファナさんに促されて、俺たちは旅支度をすることになった。
長旅になるという苦労が見えているのに、ファナさんは実に楽しそうだった。
俺? 勿論楽しみです。
◆
市場に並ぶ屋台で食べ物を買いあさる。完成品は急いでいるときにすぐに食べられるので便利だ。それに『無限収納』に入れておけば腐ることもないからな。
そして同時に市場の八百屋や肉屋からも材料をしこたま入手しておく。小麦粉や調味料も忘れてはいけない。
普通の冒険者の野営ならそんな手の込んだものをつくる余裕はないが、俺らの野営とは『仮拠点(※俺の造った城)』を取り出して設置し、中で安全に暮らすことを言うのでたまには料理をしたくなるものなのである。
こちらにはスマホもパソコンもゲーム機もないものだから、暇つぶしの方法がそういったものになりがちだ。
ちなみに俺が料理をしている間、ファナさんは大体筋トレか素振りをしている。鍛錬の意味もあるのだろうが、多分、暇つぶしの面も大きいのだと思う。
大量に仕入れるものだから、お店の人には「旅に出るのかい?」と聞かれるがファナさんがいい笑顔で「大いなる冒険に出るのだ」などと答える。街の英雄がそんな風に言うものだから、大いに受けていた。
……俺にはそんなかっこいいこと言えないよ。ただの痛い奴になっちゃう。
そんなわけで大量購入を終えた俺たちは、旅立ちの挨拶回りにいくことになった。
「冒険者は冒険をするものだ。旅に出ることも多いが、それは帰る場所があってのものだ。もし帰らぬことになった時に、『あいつはこんな冒険に出て行ったんだ』と言えるように、周りの奴らには冒険の度に挨拶をするのが、流儀というか、習慣なのさ」
ファナさんが道すがら俺にそう教えてくれる。
なるほど、スマホもなにもない今の時代。急にいなくなって、その先で音信不通になってしまうより、事前にどこに行くと言っておけばすれ違いになることもない。
そして、もしその冒険が志半ばで終わったのだとしても、街の人たちの中では冒険者は最期まで冒険者として終われるというわけか。
悲しい感じもあるけど、ロマンを感じて、かっこいいと思ってしまうな。
それでもやっぱり冒険をやめられないのが冒険者というものなのだろう。
「なるほど。冒険者と言えど、やっぱり挨拶は大事なんですね。宿を目指して近い方から挨拶していきましょうか」
「そうだな。ここからだと、まずはギルドか。じゃ、行こう」
少し前を歩くファナさんに手を差し出される。いけめん。
トゥンクとしながら、差し出された手に手を重ねるとファナさんが俺の手を握った。
ま、街を手をつないで歩いちゃうなんて……! 付き合い始めてから手をつなぐようになったのだけど、その度に照れてしまう。俺は顔を赤くした。
ゆ、夕日が出始めてるから、それで染まってるってことにしといてください。
市場のある中央通りを抜けた先がギルドだ。ギルドに着いてすぐに俺たちに――正確に言えば俺とファナさんの手元に視線が集まったが、冒険者たちには何も言われなかった。
実は付き合い始めて数日は二人で一緒にギルドに行っただけでしこたまからかわれていたのだが、ぶちぎれたのか、照れ隠しなのか真っ赤になったファナさんに追い回され、からかった冒険者はもれなく濡れ雑巾になるということがわかってからはからかわれることもなくなった。
ただひたすらに生ぬるい視線を浴びせられるので、恥ずかしさが逆に増しているような気がしないでもないが。
でも、ファナさんが嬉しそうだから、幸せが勝ってます。
「そういうところで、余計にバカップル度を増しているとは気が付かないマコトであった」
――え? 何? 急に物語調で話しかけられたのに驚いて、声の方向に視線を向けるとそこにはギルドマスターのルーレスさんがいた。
遅れて、話しかけられた内容について理解が追い付いてきて、顔に熱が集まってくる。
「な、なに言ってるんですか、ルーレスさん」
バカップルだなんて! しかも『そういうところ』ってどういうことなんだ!
「いや、手をつないでるのが注目されて恥ずかしいけど、ファナさんが嬉しそうだから幸せ! って感じのマコトくんに一応お伝えしておこうと思って」
ふふ、と穏やかに笑うルーレスさんだが、え、何こわい。俺の心の中を読んでいるの?
「心の中は読んでないよぉ。ただ、顔にですぎってだけ」
思わず俺は顔を両手で覆った。
ファナさんは何やら満足そうにしていた。
「――で、どうしたの? こんな時間から依頼受注なんてめずらしいねぇ」
話をややこしくした張本人であるルーレスさんがしれっと本題を切り出してきた。この人、のんびりとした話し方にだまされがちだけど、相当ないじめっこ体質というか、いじりたがりだよね?
思わずだまりこんでジトっとルーレスさんを睨んでしまった俺の代わりにファナさんが肩をすくめて話し始めた。
「いや、今日は挨拶に来たんだ。ちょっと長旅に出る予定だから」
「……そうか、今は君たちがこの街の最高戦力だからできればここにいてほしいというのがギルドマスターとしての気持ちだけど、君たちは冒険者だものね。それを留める権利は僕にはないよ。僕だって冒険者の端くれ、気になることがあったら見に行きたい気持ちは大いにわかるよぉ」
ルーレスさんは一瞬、驚いた顔をしたがすぐに納得したようだった。うんうんと頷いて同意をしてくれる。
そうなんです。それに、防壁は完璧にしているし、俺たち以外の冒険者たちだって、最近は増えてきて大勢いる。
きっとまた次すぐに『朔の日』が来たとしても対処できるだろう。
「……でも、拠点を変えるってわけじゃないよねぇ?」
しかしちょっと心配そうにルーレスさんが聞く。
「そりゃ勿論。でなきゃ『旅立ち』の挨拶になんて来ねえよ」
ファナさんがそういうとルーレスさんが破顔した。
「そうだよね! うん、じゃあ、良き旅を!」
「「良き旅を!」」
「……ありがとう」
「ありがとうございます!」
ルーレスさんの珍しい大声が他の冒険者たちにも届いたのだろう。周りからも一斉にそういわれ、驚くと同時に笑顔になる。
なんだか、こういうのっていいね。
0
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
骨から始まる異世界転生~裸の勇者はスケルトンから成り上がる。
飼猫タマ
ファンタジー
トラックに轢かれて異世界転生したのに、骨になるまで前世の記憶を思い出せなかった男が、最弱スケルトンから成り上がってハーレム勇者?魔王?を目指す。
『小説家になろう』のR18ミッドナイトノベルズで、日間1位、週間1位、月間1位、四半期1位、年間3位。
完了済では日間、週間、月間、四半期、年間1位をとった作品のR15版です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる