異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

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第2章 宝玉を追いかけていたら世界を救っていた

40.宝玉の行く先 後編

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 宝玉を動かそうとしたら、一筋の光が出てきたもんだから俺は大いに驚いた。魔力をこめると光るというのは知っていたが、こんなにピーッとはっきりしたレーザーみたいな光が出てくるなんて。
 そして、『無限収納』にそれをしまうとすぐさまダッシュした。
 向かうはクレト様のところだ。ファナさんのところにダッシュしたいところだけど、残念ながら今日彼女は友人と街のカフェに行っているので。

 それを邪魔したくはない。

 というわけで、街の人たちにみつからないように顔を隠しながら、道を歩いていく。
 教会までの道のりは結構大通りに面しているのでみつからないようにするのは結構たいへんだ。でも、そもそも俺にカリスマオーラなんてものはないので、顔を見られないようにしているだけで気づかれないことが多い。ファナさんと一緒にいると、その美しさと圧倒的なオーラですぐに見つかってしまうわけだけれども。

 悲しいような。悲しくないような。

 そんなこんなで街を進めば、何事もなく教会に辿りついてしまった。

「ごめんくださーい」

 教会を開くような挨拶ではないが、ここのところ仲良くなったクレト様の居住地というイメージの方が強いのでついついそんな挨拶を小声でしながら扉を開く。
 まあ、教会に来て逆に正解だったかもしれない。クレト様って博識だからね。

 教会に入って正面には誰もいなかった。ということは奥の控室にいるのかな?
 いわゆるヴァージンロード的なところをてくてくと歩いて奥に進んでいく。途中で左に曲がって奥に繋がる扉が神父様が暮らす控室だ。
 大きな木製のドアをノックする。

「はい、お待ちください」

 中から声が聞こえる。俺は居住まいを正して、クレト様の到着を待つ。

「お待たせしました。おや、本日はどうされましたか?」

 ガチャリと扉を開いたクレト様は今日もまぶしかった。俺はサングラスをかけたい気持ちになりながら、何とか口を開く。

「こんにちは。実は、もしご存知でしたらお教えいただきたいことがありまして。お忙しいようであればあらためますが……」
「はい、なんでしょう。本日は懺悔にいらっしゃる方の予定もありませんので大丈夫ですよ。……さ、中にお入りください」

 招かれて控室に入る。今となってはもう見慣れた客間だ。
 『無限収納』から飲み物とお茶菓子を出しながら歩く。毎度クレト様にお茶を入れていただくのはあまりに申し訳なさすぎる。
 自然な動きで、テーブルにそれらをセットするとクレト様が苦笑していた。

「それで、どうされたんですか? マコト様だけで来られるなんて珍しいではないですか」
「いや、今日はファナさんが友人と出かけてるので。ただ、ちょっと気になる現象があったので博識のクレト様ならご存知かなと思って訪ねてきたんです。これなんですけど」

 そう言って宝玉をひとつ取り出す。

「宝玉ですね」
「はい。あの、一般的な常識でしたらあれなんですけど、これをこう、俺の念動力で動かそうとすると……」

 そう言いながら、宝玉に念動力を加えようとする。

「このように、光るうえに動かせなかったんです。私の念動力はモンスターには効かない力なので、もしかしてこれはモンスターから取り出した後も生きているのでは? と不安になりまして……」

 嘘である。気になっただけである。
 心底、心配そうな顔でこちらを見守っているクレト様に好奇心のおもむくまま突っ走ってきましたなんて言えなくなってその場で考えました。神様ごめんなさい。

「……私にはない視点でした。確かにそう言われてみれば、不安にお思いになられるお気持ちも分かる気がします。しかし、安心なさってください。古くから宝玉には不思議な特性があるのです」

 そうしてクレト様は宝玉について一般的な説明からスタートしてくれた。
 宝玉は、現代日本社会でいう、電池的な役割を果たしているらしいのだが、やはり突然光ったり、妙な動きをするものなので当時の人たちも気になっていろいろと調べられてきた歴史があるとのことだった。
 それによれば宝玉からモンスターが蘇るということはなく、普段魔力を放出している宝玉が逆に魔力が籠められると光るのだという。そして、おそらく念動力で動かないのは魔力を持っているからではないかとのことだった。確かにモンスターは動かせないと今まで思ってきたけど、植物や石なんかは魔力をあまり持っていないから動かせるとも考えられるよな?

 え、ていうか念動力って魔力だったんだ。ここにきて衝撃の事実なんですけど。
 俺ってば、剣と魔法の世界に来たのに魔法が使えず何故か超能力だけ使えるキャラみたいな扱いだと思ってたんですけど。

 しかも、宝玉の光が指し示す方向は常に一方方向なのだという。何その便利機能。
 それって方位磁針みたいに使えるのでは?

「じゃあ、宝玉を持ち歩いて道に迷わないようにする冒険者の人たちがいたりするんですか?」
「残念ながら、そうするのには高すぎて、もったいなくて使えないんです。何せ一定時間魔力を籠めると宝玉は割れてしまい使用できなくなってしまいますから。それに冒険者の方たちは星や太陽を見ていれば方向なんてわかるそうですよ。……そしてやはり、それ以上にエネルギー源としての価値が高すぎるので割にあわないのです」

 なるほど。割れちゃうのか。
 しかし、一方の方向を指し示す宝玉とか、気になる。気にならない?
 宝玉が指し示す方向には何があるのだろうか。隠された財宝とか、途絶えた古代文明とかありそうじゃないか。
 ……うん。これは次の冒険の先が決まったな。


「クレト様、ありがとうございました。それではお暇させていただきます」
「いえ、そろそろ暗くなってくるのでお気をつけてください」

 クレト様に見送られて意気揚々と歩き出す。
 よし、まずはファナさんを冒険に誘おう。名付けて、『宝玉の行き先を見つける旅』だ!


 ◆


「まっ、ますたーーーー!! たいへんです、旅支度してます!」

 斥侯エルフ、アイレがギルドに駆け込んだ。
 昼とも夕方ともつかないこの時間帯は受付嬢たちの休憩時間だ。窓口に受付嬢はおらず、ゆえに冒険者たちの姿もない。代わりにギルドマスターであるルーレスが佇んでいた。

「なになに?」

 かくかくしかじか。
 ルーレスの命でマコトとファナをストーk……もとい尾行していたアイレが今日起こったことを興奮気味に報告する。
 宿からマコトが飛び出したかと思ったら、まっすぐ教会に向かい、数分後には楽しそうに宿に戻って来て、ファナが帰ってきたと思ったらまたすぐに出かけたのだという。

「問題はここからですよ! 彼らが旅用の装備や食料品などを買いあさって、明らかに旅支度をしていたんです!」
「マコトくんとファナが!? あの牛の討伐の時にもさしたる準備をしていなかった???」
「そうなんです!!」

 ルーレスは考えた。
 もしかして拠点を移すつもりなんじゃ。

「いまあの二人に抜けられたら困る。君の隠密の力をつかって彼らを追いかけてくれ」
「もちろんです!!」

 食欲に忠実なアイレはすぐさま了承した。
 マコトの行く先には絶対美味しいものがあるのだ。
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