異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

文字の大きさ
上 下
39 / 55
第2章 宝玉を追いかけていたら世界を救っていた

39.宝玉の行く先 前編

しおりを挟む

 『朔の日』から1か月。
 街の防壁は空の部分を除いて、そのまま設置しておくことになった。壁を作る際、どうしても残しておけない離れ小島になってしまっていた民家などを撤去して俺の『無限収納』にしまっておいたので、それを戻したり、冒険者の死者こそ出なかったもののけが人は多かったので、その治療のための施設をつくったりなど、色々復興を手伝ってきた。
 その過程でクレト様と一緒になることが多かったので、おそれおおくも結構仲良くなれてきたと思う。いや、クレト様を直視しながら話すと美しすぎてつい拝みそうになるので、目線を外していることが多いけど。
 そして、そういうときファナさんに背中をつままれる。かわいい。

「ふぅ……ようやく一段落したという感じですね。紅茶でも入れてきましょう」

 そう、いまのように。
 打ち合わせが終わって、息をついたクレト様がその気はないことはわかっているが憂いた溜息をもらしているようで麗しすぎたのだ。それを直視しまいと目をそらした瞬間、ファナさんと目が合ったのでわかった。
 ――あ、ばれたって。
 いや、嫉妬してくれているんだとかわいく思う反面、申しわけない。いや、本当浮気とかそういうものじゃなくて、推しのアイドルに対するものなんだよね。
 やっぱり付き合っている以上、こういった誤解は禁物だと思うので、俺はその誤解を解くべくクレト様が出て行ったのを見計らって口を開いた。

「あ、あの、ファナさん? 別に俺に変な意味はなくてですね、あれはそう、芸術品を見た時の気持ちなんですよ」

 なかなかうまい説明なんじゃないだろうか。

「でも、芸術品を見た時には目をそらしたりなんてしないだろう」

 ファナさんはぷんすかしている。かわいい。……いや、じゃなくて。
 いや『推し』に対面したら尊すぎて「目が、目がぁあ!」というのは現代日本に生きていた若者になら伝わる感覚なのかなと思ったりするのだけど、ファナさんには『推しのアイドル』とか言う単語のニュアンスは伝わらないし。

「いや、俺なんかが見たら畏れ多いというか、尊すぎて見てられないというか……」

 しどろもどろになりながら(それが余計怪しいとわかっている)必死に説明していたら、茶器を取りに行っていたクレト様が戻って来てしまった。

「芸術品の話ですか? マコトさんのそれは我々聖職者が神に抱くようなものに類する感情なのではないでしょうか」

 クレト様ファインプレーだ。まさにそれだ。こっちの人に伝わる表現!
 なんとかファナ様からも納得をもらえたようだ。背中をつまんでいた指が外れた。軽くあざになっているような気がしないでもないが、まあ、これは俺が悪いのでよしとしよう。そしてファナさんがかわいいのでよしになるしかない。

 しかしクレト様、俺の説明がまさか自分に対するものだとは思っていないだろうなぁ……。つい遠い目になる俺だった。


 ◆

 最近街に出ると、囲まれることが多くなってきた。顔が知られるようになってきたからだろう。
 英雄なのだという。この俺が。
 いや、英雄っていったらマッチョマンかマッチョウーマンがなるものだと思っていたので、びっくりしました。
 もともとコミュ力が豊富な方ではないので、ありがたく思う反面、ちょっと気疲れしてきたなぁと思っていたこの頃。
 ファナさんも街の友人の女の子とカフェに行ってくるとのことなので、今日は宿に引きこもって、『無限収納』の整理を行うことにした。
 定期的に整理・整頓を行わないと、長年使った会社の共有フォルダみたいになる。どういうことかというと、ぐっちゃぐちゃのごっちゃごちゃで何がどこにあるかわからず、そもそも何があるのかすらわからない状況のことだ。

 と、整理をしようと『無限収納』のソート機能を意識した瞬間、気が付いた。
 『宝玉』という表示がめっちゃズラーと並んでますやん! と。
 ひとまとめにならないの? と思ったときにはひとまとめになっていた。その数なんと、約10000。ファナさんと山分けにしたのにこの数ですよ。
 『朔の日』がくるまで集めていた宝玉にあわせて、この間の『朔の日』で更に在庫が増加したのだ。なんか、いろいろ便利なことに使えるらしいと聞いて、夢の現代日本社会の生活を再現できないかと溜めてきたが、こんなに使い切る日が来る気がしない。
 そもそも魔法の道具みたいなのは王都の職人しか作れないらしいし、ファナさんとの快適な生活を捨ててまで王都まで遠出する気も湧かないし。
 一層、ファナさんと同じように貯金として扱おうかな。いざというときに換金するカンジで。
 でも、これだけ売ると、値崩れしそうだ。

 どうしようこれ。

 おもむろに宝玉を取り出して、手で遊ぶ。ころころした丸い色の透けた玉って感じなので、ビー玉みたいだ。ビー玉にするには高すぎるしなぁ……。

 そんな馬鹿なことを考えながら、『無限収納』から取り出したガラスをうにょうにょと動かしてサイダーの瓶みたいな形を作りながら、何気なく宝玉を念動力で動かしてみようとしたところ。

「え?」

 宝玉から一筋の光がはなたれた。
 なにこれ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~

島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!! 神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!? これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...