異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

文字の大きさ
上 下
38 / 55
第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

38.街が生まれたとき

しおりを挟む

 辺境の地にあるそのは、街と名前はつけられどその実態は烏合の衆であった。
 だから、そこに住む者も、それ以外の街の者もそこをあまり街と呼ばなかった。
 でもそれはこれまでの話だ。
 今日、この日から確かにそこに住まう者たちは「街」が生まれた息吹を感じ取った。

 幾千のモンスターが湧き出し、怪しい光が飛び交う中で視線を交わし合った、英雄ふたり。
 大剣の英雄ファナ、そして守りの英雄マコト。
 ふたりは息を合わせると、巨竜の首をいとも簡単に斬り落とした。

 ――辺境の街ハタダ 英雄叙事詩 序章

 ◆

「いやぁ、きっと300年後には絶対そんな風に伝説になってるね!」

 マコトたちの泊まる宿屋の食堂で赤ら顔のオヤジ――冒険者の男が上機嫌に笑った。そんな男につられて周りの者も「俺なんか伝説と一緒に弓を撃ってたんだぞー」だの、「なんとこの宿に英雄は泊ってる、つまり俺らは英雄と同じ釜の飯を食った。もはや俺らも英雄」だの騒いでいる。
 ちなみに宿屋に名前はない。何故なら辺境の街に宿屋は一つしかないので、宿屋と言ったらここしかない。
 宿屋の女将は肩をすくめた。もう冒険者たちのこの話も5回目だったからだ。酔っ払いの話というものはループしがちだ。
 ただ、それだけ嬉しかったのだろうということは伝わった。女将も『朔の日』が訪れるのだと神父クレトから聞いた時には、もうこの街も終わりだと思った。しかし、次の瞬間には広大な敷地に渡って空を覆う防壁が出来上がったのだ。期待しなかったとは言えなかった。
 しかし、これだけ損傷なく街を守り切れるとまでは思っていなかった。

「しかも、あのマコトくんとファナがねえ……」

 でこぼこながらも息のあったコンビの二人。宿屋に連泊しているので、女将にとってももはや親戚の子どものような存在であった。まさか、そこまで実力のある冒険者だとは思っていなかった。

「夕飯もお祝いだね」

 ――なんせまだ主役を祝えていない。
 女将は頷くと、いまだに騒いでいる冒険者たちの後頭部を引っ叩いた。

「痛ってえ! 女将さん、なにすんだよ!」
「いい気分で酔ってるところ悪いけど、もう仕舞いの時間だよ。夕食の準備をせにゃならん!」

 街のいたるところで似たような光景が広がっていた。戦いが終わったのは早朝のことであったので、まだ昼前だ。だというのに街には酔っ払いが溢れていた。
 自らの武勇伝を誇る者、街の無事を祝う者、様々な反応があったがそのどれもが祝い酒を飲みながら、ドラゴンの首を斬り落とした女性――ファナと、街の防壁を作り上げたマコト、その双璧をなす英雄について語らっていた。

 中にはそれを聞き、マコトに憧れる街の女性も出始めた。しかし、そこは容赦なく冒険者たちが言う。「あのファナと付き合っているらしいぞ」と。
 アイツは趣味が悪いからやめといて俺にしとけ、という冒険者たちの魂胆がみえみえの発言であったが、一方ファナは女性にすこぶる人気だった。ゆえに、そんなファナ姐さんの意中の人だと知った女性たちはマコトを狙うことを諦め、知らぬうちにマコトのモテキがはじまり、知らぬうちに終わっていた。

 ◆

 窓に設置された透かし彫りの花の模様の彫刻から、柔らかな光が教会に降り注ぐ。
 教会の控え室で、神父クレトと村長のアランは向かい合って座っていた。やっと『朔の日』から解放されたとは言え、まだ街の為政者にはやることがたくさんあった。戦後復興のための体制作りは、施政者と教会関係者の責務なのだ。ゆえに街の者たちのように酒を飲むわけにはいかない二人だった。

「しかし、一時はどうなることかと思ったが、こうもうまくいくとは」

 街の復興計画についてある程度素案がまとまったところで、アランが伸びをしながらそう言った。

「マコトさんのおかげですよ。彼はきっと神が遣わした御子だ」

 クレトは両手を目の前で組んで、うっとりとしている。
 うっすら目には涙が浮かんでおり、それがきらめく。なぜだか後光が射しているように見えてくる美しさだった。

「お前その顔でマコトに話しかけるなよ」

 変な道にマコトが進みかねん、とアランは嘆息した。
 しかし、アランの心配は必要などなかった。……すでに手遅れなので。
 この後マコトはクレトを見るたびうっとりするので、ファナにジト目でみられる事態となっていた。マコトのそれは、推しのアイドルに対するだ。

 ◆

 斥侯のエルフ、アイレはお得意の隠密行動で、マコトたちの行動を見守ってきた。
 マンゴーオレンジを採取しまくっていたときには、影からそれを見守りギルドに売られた瞬間に、卸売りの店に走り、マンゴーオレンジを買い占めた。
 猪をしとめたときにも、牛をしとめたときにも同様だ。しかし、変な翼みたいなものを創り出して飛んでいくのだから焦った。幸いにも見失った地点で数日間張り込みをしているうちに帰って来たのが見えたので、またそれを追ってギルドに向かった。
 牛は美味であった。そして、アイレは確信した。この人たちについて行けば、絶対に美味しいものが食べられると。
 アイレは根っからの食いしん坊だった。
 しかし、同時にコミュ障だった。

 なので、どうやって話しかけようとか、どうやって自分を売り込もうとか、断られたらどうしようなんて考えているうちに月日が過ぎ去っていって、気がついたら『朔の日』がやってくるとかいう話をギルドマスターからされた。アイレにはまずは隠密部隊として森の様子を探ってきた後、後方支援についてほしいのだという。
 アイレだけなら隠れていれば助かるかも、とは少しは考えたが、それでもアイレとて冒険者の一人。決死の覚悟で戦線に参加することを決意した。
 しかし、森の偵察から帰って来てみれば街は巨大な壁に覆われており――マコトたちを監視していたアイレは当然、マコトが一日でこの壁を立てたことに気が付き一気に楽勝ムードになった。
 同時にアイレはへこんだ。
 ああ、これでマコトもファナも大活躍して、きっと英雄の仲間入りするだろう。
 そしてそれは現実のものとなった。

「私なんて、食い意地だけが張った根暗女……相手してもらえないじゃないですかぁ……」

 アイレは一人、涙目で路地を歩いていた。

「アイレちゃん、ちょっと依頼があるんだけど」

 路地裏にある焼き鳥屋さんに行きたいと思っていたところだったので、断ろうと口を開きかけたところで話しかけてきた男がそれを遮って言った。

「マコト君と、ファナに関するお仕事なんだけどな」
「やります!!」

 アイレは自分の胃袋に従った。近くの小さな美味より、遠くに確実に見えている大いなる美味だ。
 グルメには長期的視点と戦略が大事なのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

異世界チートはお手の物

スライド
ファンタジー
 16歳の少年秋月悠斗は、ある日突然トラックにひかれてその人生を終えてしまう。しかし、エレナと名乗る女神にチート能力を与えられ、異世界『レイアード』へと転移するのだった。※この作品は「小説家になろう」でも投稿しています。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...