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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

32.準備の準備

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 それから俺たちは神父様の指示でアプルルをあるだけ納品した。
 多めに持ってきていたのが功を奏した。100個納品という依頼だったけど、神父様はこの後も引き続きアプルルの採取依頼を出そうとしていたらしい。だから、あるだけを納品したのだ。

「神父様、これからどのような準備をお手伝いすればよろしいでしょうか?」
「神父様、なんて他人行儀に呼ばないでください。クレト、とお呼びください。街を救う同志ではないですか」

 神父様――もとい、クレト様に泣きそうな顔でお願いされては断れない。
 俺は畏れ多い気持ちになりながら頷いた。

「それで、クレト様、どうされますか」

 村長はしかるべきところに情報を展開しなくてはいけないと、慌てて教会を出て行った。
 だから、教会にいまいるのは神父様とファナさんと俺だけだ。教会のことでも、街の防衛のためでも動くならリーダーたる神父様ではなく、ファナさんと俺になるのだろう。
 そう思って問いかけると、神父様は微笑んだ。

「物資の調達が必要ですね。籠城戦を行うなら必須です」
「食料品ですか?」
「ええ。第一には食料品でしょう。次に武器が必要ですが、これについては村長が十分に手配してくださるはずです。食料物資も常備のものと合わせて、村の方で用意はしようとしてくれるでしょうが、隣街への往復には1週間はかかるでしょうし、間に合いません。冒険者である、マコト様たちのお力をお貸しいただけると、非常に助かります」
「承知しました。森から『採取』してくるということですね」
「はい、追ってギルドには『指名依頼』を出しておきますので、お願いいたします。私はこの作業部屋で『回復薬』の精製をしておりますから、採取してきた食料は『納屋』に直接持って行って、その後は『冒険者ギルド』に行っていただけますか」
「了解です」

 そんなわけで俺たちはクレト様から『食料調達』の依頼クエストを受け、教会を後にした。



 森に向かう途中の街の中、大通りから外れて裏通りに行った。
 道の脇に設置されたベンチに腰掛ける。促すとファナさんも俺の隣に座った。
 そして、俺は教会で『朔の日』の話を聞いてから、ずっと深刻そうな顔をしているファナさんに向き合った。

「ファナさん」
「……なんだ、マコト?」

 少し間を開けて、ボーっと地面を見つめていたファナさんが顔を上げて俺を見た。
 目が合う。が、すぐにスッと目を逸らされた。いつもあれだけ陽気で豪胆なファナさんがこれだけの反応をしている。やはり、それだけ『朔の日』というのは大変なことなのだろう。
 同意してくれたとは言え、神父様からの依頼を安請け合いしてしまったのは失敗だったのだろうか。雰囲気的に断りづらかっただけで、本当はファナさん、この依頼を受けるのは反対だったのではないだろうか。
 不安が沸き上がってくる。

「やっぱり、この依頼を受けるのは反対でしたか?」
「いや、大賛成だ。こういう時こそ、冒険者が活躍できる」

 しかし、きっぱりそれは否定された。でも、深刻そうな表情は変わらないし。

「では、何か悩みがあるのでしょうか。俺でよければ、相談に乗ります」
「いや……その」

 これから大変な局面を迎えるというのに、もやもやした感情のままでは最高のパフォーマンスを引き出せないかもしれない。そう思って、あえて一歩踏み込んで尋ねると、ファナさんは顔を俯かせてしまった。

「俺では、不足、でしょうか」

 そうとう深刻なことなのかもしれない。
 そうだ、約二十年前にも『朔の日』でこの街は壊滅したというし、もしかして――可能性に今更ながら思い当って俺は顔を青ざめさせた。もしかしてファナさんやその周りの人が被害にあったのではないかと。
 思い出してしまったなら、それを口から語らせるのはあまりに酷だ。つらいなら、言わなくていい、と口を開きかけた時だった。
 ファナさんが話し始めたのだ。

「……全然手を出してこないし、もしかして……と思っていたが、やっぱりマコトはその、女性より男性の方が好きなんだなと……」

 な、なんですと。
 俺はギギギと、油が切れた機械のようなぎこちない動きで俯くファナさんのご尊顔を覗き込んだ。
 その表情は真剣そのものだった。
 マジで言ってる、マジで言ってるよ、俺が同性愛者だって、本気で思ってる!?

「いや、なんで、ちが……」

 動揺のあまり、片言な言葉で反論しようとするとファナさんはより一層深刻そうな表情になっていた。

「だって、マコト、あのクレトとかいう神父に惚れたんだろ? ずっと一緒にいて、あれだけアピールしていた私に惚れてくれてないのに、一瞬で、それも、男に、恋に落ちるなんて、私に勝ち目なんてないじゃないか!」
「――え?」

 つらそうにそう叫んで立ち上がったファナさんに、俺は間抜けな声を漏らした。
 今、ファナさん、なんて言った? ――私に勝ち目なんて、ない。
 それって……それって……ファナさんが、まるで俺のこと、好き、みたいな……。

 気が付いた瞬間、俺の顔はやかんを沸かしたように一瞬で茹った。

「……あの、ファナさん、気が付かなくて、ごめんなさい。でも、俺、男は好きじゃないです」

 俺も立ち上がって、ファナさんと向き合う。ここまで言われて黙るようじゃ男じゃない。
 しっかり目を見て、想いが伝わるように、そう願いながら、つばを呑み込んだ。

「俺、ファナさんのことが、好きです」
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