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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
23.モンスターからの着想
しおりを挟むお買い物を終えた俺たちは、門をくぐり、街の外に出発した。
本当なら遠征をするときは1日よく寝て体力を溜めてから、馬車に乗って早朝に出発するのが冒険者にとっての常識らしいのだが「マコトがいれば大丈夫だ」とのファナさんの言葉で、その日中に即刻出発することになったのだ。
ファナさんの信頼が嬉しい。確かに一般的な冒険者は遠征をしようと思ったら無駄に大荷物になるし、馬車は必須だろう。野営をして夜の間も警戒するとなればなるべく体力を消費しないように馬車に交代で乗ったりするのだろうし、日中に沢山移動ができるように早朝に出発する。宿泊日数はなるべく少ない方がいいだろうからな。
なるほど道理である。
しかし、俺がいれば『無限収納』に遠征に必要なものはすべて収納できるし、念動力で巨大蜘蛛にも負けない強度の建物をその場で作ることができるので、寝ずの番も馬車も必要ないのだ。
馬車を借りて進もうにも、馬鹿にならない費用であるし、2人しかいない旅だと、交代もできないので、モンスターの襲来があったときに詰んでしまう。
「まあ、だから、歩きで行くしかないのはちょっと大変だけどな。全然、楽な旅だ」
街が見えなくなった辺りで小休止。
草原にしょぼしょぼ生えている木の陰に隠れながらちょっと休憩することにしたのだ。念動力で地面を動かして空飛ぶ絨毯的な感じにできないかななんて試してみたが、『動く歩道』よりゆっくりすぎて全然使えなかったので、結局ここまで徒歩だったのである。ファナさんはほかの冒険者よりマシだと慰めてくれるが、疲れるもんは疲れる。ぐったりさんである。
「冒険者ってたいへんな職業ですね……。もうクタクタですよ。これで夜も見張り番しなきゃいけないとか。絶対無理です。……俺、体力なさすぎでしょうか」
「……なんというか、いまさらな感想だな。ま、私も疲れていることには疲れてるからな、慣れだろう」
ファナさんが背中に括り付けていた大剣をドカリと地面に刺してその横に胡坐になった。
ショートパンツをはいているのでそんな恰好をするとパンツが見えそうなんですが。
引き寄せられそうになる視線をなんとか引きはがしながら、空を見上げる。まごうことなき晴天だ。
ぶっちゃけあまり障害物のない草原を歩くのは日が照っており、つらい。この世界に来てから結構体力はついたと思うが、相当へばっている。
ピーヒョロロロロ……。
トンビに似た独特の声が聞こえる。この近くには海はなかったように思うが。
トンビに似たモンスターらしき影が遠くの方を飛んでいくのが見えた。風を切って空を進む姿は清々しい。
いいなぁ、俺も空飛びたいなぁ……。
「ちょっといいこと思いついちゃったんですけど」
「なんだ?」
「試してみますので、ファナさんは休憩しててください」
「お、おう」
スタッと立ち上がって両手を体の脇で握りしめて気合を入れる。
俺はいつか『防衛拠点』の強化に使おうと思っていた、素材群を『無限収納』から取り出す。うん、これいいね、使えそう。これもあれに使えそうだな。
素材を吟味していき、ずらっと地面に並べた。
幌にしようと思っていた頑丈な巨大な布と、竹のようによくたわんでくれる木材、後は鉄だ。鉄を芯にして、木材で枠組みを作っていく。勿論念動力でウニウニと素材を動かしてである。イメージは三角形の一枚の翼。
木製の枠組みにこれまた念動力で、くるむように布を取り付けて完成。
――ハンググライダーである。
「いいかんじ」
完成品を見て、自画自賛。実際良い感じだ。
念動力で布をしゅるしゅると身体に巻き付け、背中にハンググライダーを固定して、と。
俺は自分の身体とハンググライダーを一緒にぐんぐん斜め上に持ち上げていった。
速度は、うん、やはり『動く歩道』あらためエレベーターくらい。
だが、上にさえ上がってしまえば位置エネルギーさんが、重力さんが俺の味方をしてくれるはずである。
寒くない程度の上空に飛び上がった俺は、地面と垂直になっていた身体の向きを平行に変え、スーパーマンスタイルで構えた。
そして、空の一点に固定させるようにかけていた念動力を一瞬で解除。
「いっけええええ! べべべべべ!」
俺は滑空した。
気分はモモンガ。気分よく叫んだら、口に空気が入って大変なことになったが、目的は達成である。身体を傾けて旋回し、念動力の力を借りながら進みたい方向に進めることを実験した俺は満足した面持ちで、ファナさんのもとへと戻った。
「ファナさん!」
「見てたぞ! まさか空を飛ぶ日がくるとは! 行こう!」
ハイテンションのファナさんはすでに大剣を腰に引っ提げて準備万端だった。
いつものように背負わないのは、ハンググライダーをつけるためだろう。俺はすぐさま『無限収納』からさっき使った材料たちを取り出して、もう一つのハンググライダーを作成した。すぐ横でキラキラした目でファナさんが見つめてくるのがちょっとやりづらいが、焦らず、慎重に。
実験で、空気抵抗で息がしづらかったことと目が乾いたことも鑑みて、ガラスっぽい何らかの素材を取り出して、顔の前に取り付けるカバーも作っておく。「べべべべ」なってるファナさんなんて、面白光景すぎる。
「しかし、結構スリリングな移動方法だと思うんですが、ファナさんは少しもビビったりしないんですね」
さすが男前。とは口には出さずに思っておく。
ちょっと気にしているらしいのだ。
「冒険者たるもの、未知なる世界を冒険し、楽しむ職業だからな!」
今日一のニパッとした笑顔をいただいた。
そうだな。冒険者は、冒険しないと。
俺も、小さい頃に空を飛ぶことを夢見て、うちわを持って椅子から飛び降りるとかしていた気持ちを思い出さなきゃ。
そう考えていると、なんだかワクワクしてきた。
「それじゃあ、ファナさんにも装着するのでじっとしててくださいよ」
布をファナさんに巻き付けていく。ショートパンツをはいているので、脚の付け根のところで布を締めると、なんだか変な気持ちになりそうだが、人命優先であって、やましい気持ちはない。付け根で止めておかないと、ずり落ちちゃうからね。
リュックのように、肩周りに巻き付けた布を前方で繋げて、それを腰と足の付け根で連結した布に括り付ける。
念動力って便利。たぶん布の繊維ごと動かしているようで、つなげようと思って動かせば布が最初から一体であったようにくっつくのだ。裁縫が必要ない。千切れる心配もないので、安心できる。それに――
「何かあっても、絶対に俺の念動力が支えますから落ちることもありません。暴れないで、待っててくださいね」
もし千切れたり抜け出しちゃったりしたとしても、俺が念動力で持ち上げることができる。早い速度で動かすことはできないが、それはできるのだ。下手に抵抗されると、操ることはできないが、おとなしく受け入れてくれれば生き物を動かすことも可能である。
「わかった! 早く! 行こう!」
「了解です」
いつになくはしゃぐファナさんに苦笑しながら、念動力を意識する。
俺とファナさんの重心をずらすような感覚で、もやっとした念動の力を背中の裏の方から引き出して使う。掴み上げた重心をスーッと動かす感じで、斜め上の方向に身体を持ち上げていく。
「ファナさん! 進む方向は指示してくださいね! 滑空している間も俺が方向を若干制御していきますから!」
「わかった!」
上空まで到達したら、滑空。滑空の際にも緩く、横方向への念動の力を送ることで横移動が速い速い。
ぐんぐん上がるスピードに、ファナさんのテンションもぐんぐん上がっている。ファナさんが大爆笑しているのが隣から聞こえる。
上に上がって、滑空、上に上がって滑空。という動作を繰り返すことで移動が速くなった。ただ、めちゃくちゃ疲れる。
滑空している間は楽しいのだが、高度が低くなってくると一気に落としすぎないくらいに緩やかに落下速度を落としていって徐々に斜め上への上昇へと切り替えるという念動力の使い方が結構疲れるのだ。
そんなわけで昼頃には疲れ切って休憩。
「楽しかったな」
ファナさんは上機嫌である。
「俺は気疲れしました……。身体はあんまり疲れていないのが幸いですが……」
「お疲れ! まあ、かなり距離は稼げた。今日中に狩場にたどり着けるぞ」
気を取り直して歩き移動することになった。
街から離れたところで空を飛び始めたから気が付かなかったが、森とは違う、草原が広がる辺境の地はいつもと生息する生物が異なる。
徒歩で行動するようになって、はじめてモンスターと遭遇した。
「ファナさん」
「ああ、あいつは自分の身体を投げつけてくるんだ、マコトは下がってろ」
前方の小さな茂みから現れたのは、人体模型。ゲームとかでいう、スケルトンだった。
自分の身体を投げつけるって、骨を投げてくるの?
俺が犬だったら喜んでしまうところだが、あいにく俺は人なので慌ててバックステップする。ファナさんが大剣を背中の鞘から引き抜いて、骨と対峙した。
「オラァァ!」
ファナさんが大剣を横に振るうと、骨が吹っ飛ぶ。しかし骨の身体が軽かったこともあって、あまりダメージを負ったようにも見えない雰囲気ですぐさま立ち上がった。
しかも、骨は若干罅が入った、自分の肋骨をペシッと引き抜くと、ダーツを投げるようなフォームでファナさんに向かって投げつけてきた。
もっと緩い感じかと思ったけど、折られた骨の断面は結構とがっていて痛そうだ。しかし、残念ながらその骨はファナさんに軽くキャッチされて、投げ返された。しかも、それが足元にあたって骨はこけた。
こけている間に距離を詰めたファナさんの大剣によりプレスされた骨は、あっけなく殺された。
ファナさんつおい。
「骨が出てきたな。もう少し進めば猛進牛の縄張りに入るぞ」
もう骨について眼中にないファナさんが先の方向を指差した。
「あ、はい。行きましょう」
なんだか可哀想な気持ちになって、心の中で骨に合掌する俺だった。
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