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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい
21.スキルが活かされるとき 4
しおりを挟むそれからギルドに行くと、時々指名依頼が入るようになった。
ギルドからの指名もあるし、俺たちの評判を聞きつけた街の住人の方からの依頼もある。
木材の調達だったり、鉱石の荷運びだったりと資材運搬がメインだが、たまに変わり種で『引っ越しの手伝い』なんて依頼も入ったりする。街中の依頼のときは俺一人で受けることもあるが、外に出る依頼のときは必ずファナさんと一緒だ。
逃げて回るくらいなら俺でもできるんだけど、ファナさん曰く心配すぎて何にも手が付けられないので一緒に行った方がマシとのこと。信用ないなぁ……。
『引っ越しの手伝い』は、普通に引っ越し屋さん的なお仕事かなと安易に受けてびっくりした。
家具や持ち物を運ぶのではなく、家ごと引っこ抜いて運ぶことになるとは……。
依頼主はダメ元で頼んだらしいのだが、念動力で土台ごと引っこ抜くことができたので、すごく驚いていた。無理だと思うなら頼むなと言いたいところだが、できてしまったのでそれを言うのも憚(はばか)られる。
それ以降、家の引っ越しレベルの変わった依頼は入っていない。
しっかし、好きなときに働けて、明日の飯の心配をしなくてよくて、美女といっしょに暮らせるとか、まじ異世界にきてよかったなぁ……。しかも、大抵が達成困難な依頼だから、達成するだけでとても感謝される。
褒められて、調子に乗って、嬉しくなって、俺はまた次の仕事を受けようという気になるのだ。お金も欲しいけど、そういうモチベーションがあるというのはいいよな。
と、ひとりベッドに転がりながらここ何ヶ月かのことを思い出していると、目がしょぼしょぼして、身体がふわふわと浮いているような感覚に包まれてきた。
あー眠い。寝よう。
扉の向こうから漏れてくる、ファナさんが筋トレをしている音をぼんやりと聞きながら俺は素直に夢の世界へと旅立った。
◆
ああ、これは夢だ。
目を開けた瞬間気が付いた。俺は、俺の姿を上から見下ろしていた。神の目線というのだろうか、まるで映画を見ているように俺は自分の姿を観察していたのだ。
その俺は、まだきっちりしたスーツを身にまとってデスクに向かっていた。パソコンにはたぶん表計算のソフトと、何らかの資料が映っているのだが、ぼやけていて判別ができない。
フロア内は、俺のいるエリア以外はもうすでに電気が消されていて、薄暗い。
みんな帰ってしまったんだな。
「……失敗したなぁ」
デスクの前に座る俺は小さく呟いた。あの頃はいつもそう思っていたっけな。
ちょっとできるやつとできるやつの間には隔絶たる差がある。俺はせいぜいちょっとできるくらいのやつだったのに、自分をできるやつなのでは? なんて思いあがった行動をしたせいで、今自分の首を絞めているのだ。
先輩や上司に「すごいな! こんなこともできるのか!」なんて褒められて調子に乗って。
気が付くとどんどん仕事が増えていた。
たぶん、世の中の大多数の人は、めちゃくちゃできないふりが上手いのだと思う。そして、一握りの本当の「できるやつ」が上手く下々の人たちを扱うのだ。俺みたいな中途半端なやつは、できないふりが上手いやつに使われる。
そういうことに気が付くのがちょっと遅かった。それで俺は便利な使いッ走りの称号を得てしまったのだ。
そんなこんなで今日も残業。――ちょっとできるやつなんて言ったが、それは言いすぎだった。全然できない、さえないリーマン。それが俺だった。
今日は彼女と約束があるからだとかいう意味がわからない理由で先輩の仕事を俺は引き継いでいるらしい。夢のなかなんて、そうやって勝手に自分の置かれた状況がわかるようになっているもんだ。そういう状況は結構あったしなぁ……。
家に帰ってもだれもいないし暇だろ? なんて言われて。
暇なわけがない。家に帰って、ご飯を食べて、趣味のゲームをして、いろいろやりたいことがある。
こんな仕事やめて、心行くまで眠りたい。
旅に出たり、本読んだり、映画観たりしたい。
だけど、先立つものは金なわけで。転職すりゃいいじゃんと冷静な自分は言うが、日々の仕事をこなすだけで精一杯だ。残業を終えて、家に帰ったら何もする気が起きない。
そうやって、身も心も少しずつすり減らされていく。それに気が付きながら、俺は何もできずに目的もなく、ただ日々をすりつぶしていく。窮屈で先が真っ暗で息がつまり――……。
◆
「ハァ……ハァ……」
目が覚める。俺は息を切らしていた。
窓の外は日が昇り始めたところのようで、うっすらと白み始めていた。
久々に前の世界のことを夢に見た。嫌な夢だ。幸せな異世界生活に慣れてきて、気がゆるんだなぁ……。
うつぶせになって深い溜息を吐いてから、むくりと起き上がる。
首を鳴らしながら、部屋の扉を開けると、リビングでファナさんが筋トレしていた。
「おはようございます、ファナさん」
「おはよう、マコト。今日は早いな」
起きたらだれかいて、俺だけでも大丈夫な仕事でも一緒にやってくれる人がいる。
非効率な気もするけど、俺は今の生活をとんでもなく気に入ってしまっていた。
振り返ったファナさんと目が合う。
「うふふ……幸せだなぁ」
だから思わずそう呟いてしまうのも仕方がないと思う。幸い、その不気味な笑い声と言葉はファナさんには聞こえていなかったようだ。
「なんだかご機嫌だな。マコト、そろそろ久々に遠征依頼でも受けようと思うんだが、一緒にどうだ?」
「俺がいて、足手まといになりませんか?」
「なるもんか、マコトがいてくれるとすごく助かると思う」
「じゃあ、行きます!」
「よかった! では、今日はまずギルドに行って、手ごろな遠征依頼を受けよう。その後遠征の準備を市場でして、明日くらいには出発するか」
「いいですね」
ゆったりした朝の時間を過ごしつつ、ゆったりとした今後のスケジュールが決まった。
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