上 下
21 / 55
第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

21.スキルが活かされるとき 4

しおりを挟む

 それからギルドに行くと、時々指名依頼が入るようになった。
 ギルドからの指名もあるし、俺たちの評判を聞きつけた街の住人の方からの依頼もある。
 木材の調達だったり、鉱石の荷運びだったりと資材運搬がメインだが、たまに変わり種で『引っ越しの手伝い』なんて依頼も入ったりする。街中の依頼のときは俺一人で受けることもあるが、外に出る依頼のときは必ずファナさんと一緒だ。
 逃げて回るくらいなら俺でもできるんだけど、ファナさん曰く心配すぎて何にも手が付けられないので一緒に行った方がマシとのこと。信用ないなぁ……。
 『引っ越しの手伝い』は、普通に引っ越し屋さん的なお仕事かなと安易に受けてびっくりした。
 家具や持ち物を運ぶのではなく、家ごと引っこ抜いて運ぶことになるとは……。
 依頼主はダメ元で頼んだらしいのだが、念動力で土台ごと引っこ抜くことができたので、すごく驚いていた。無理だと思うなら頼むなと言いたいところだが、できてしまったのでそれを言うのも憚(はばか)られる。
 それ以降、家の引っ越しレベルの変わった依頼は入っていない。
 しっかし、好きなときに働けて、明日の飯の心配をしなくてよくて、美女といっしょに暮らせるとか、まじ異世界にきてよかったなぁ……。しかも、大抵が達成困難な依頼だから、達成するだけでとても感謝される。
 褒められて、調子に乗って、嬉しくなって、俺はまた次の仕事を受けようという気になるのだ。お金も欲しいけど、そういうモチベーションがあるというのはいいよな。

 と、ひとりベッドに転がりながらここ何ヶ月かのことを思い出していると、目がしょぼしょぼして、身体がふわふわと浮いているような感覚に包まれてきた。
 あー眠い。寝よう。
 扉の向こうから漏れてくる、ファナさんが筋トレをしている音をぼんやりと聞きながら俺は素直に夢の世界へと旅立った。




 ああ、これは夢だ。
 目を開けた瞬間気が付いた。俺は、の姿を上から見下ろしていた。神の目線というのだろうか、まるで映画を見ているように俺は自分の姿を観察していたのだ。
 その俺は、まだきっちりしたスーツを身にまとってデスクに向かっていた。パソコンにはたぶん表計算のソフトと、何らかの資料が映っているのだが、ぼやけていて判別ができない。
 フロア内は、俺のいるエリア以外はもうすでに電気が消されていて、薄暗い。
 みんな帰ってしまったんだな。

「……失敗したなぁ」

 デスクの前に座るは小さく呟いた。あの頃はいつもそう思っていたっけな。
 ちょっとできるやつとできるやつの間には隔絶たる差がある。俺はせいぜいちょっとできるくらいのやつだったのに、自分をできるやつなのでは? なんて思いあがった行動をしたせいで、今自分の首を絞めているのだ。
 先輩や上司に「すごいな! こんなこともできるのか!」なんて褒められて調子に乗って。
 気が付くとどんどん仕事が増えていた。
 たぶん、世の中の大多数の人は、めちゃくちゃできないふりが上手いのだと思う。そして、一握りの本当の「できるやつ」が上手く下々の人たちを扱うのだ。俺みたいな中途半端なやつは、できないふりが上手いやつに使われる。
 そういうことに気が付くのがちょっと遅かった。それで俺は便利な使いッ走りの称号を得てしまったのだ。
 そんなこんなで今日も残業。――ちょっとできるやつなんて言ったが、それは言いすぎだった。全然できない、さえないリーマン。それが俺だった。
 今日は彼女と約束があるからだとかいう意味がわからない理由で先輩の仕事を俺は引き継いでいるらしい。夢のなかなんて、そうやって勝手に自分の置かれた状況がわかるようになっているもんだ。そういう状況は結構あったしなぁ……。
 家に帰ってもだれもいないし暇だろ? なんて言われて。
 暇なわけがない。家に帰って、ご飯を食べて、趣味のゲームをして、いろいろやりたいことがある。
 こんな仕事やめて、心行くまで眠りたい。
 旅に出たり、本読んだり、映画観たりしたい。
 だけど、先立つものは金なわけで。転職すりゃいいじゃんと冷静な自分は言うが、日々の仕事をこなすだけで精一杯だ。残業を終えて、家に帰ったら何もする気が起きない。
 そうやって、身も心も少しずつすり減らされていく。それに気が付きながら、俺は何もできずに目的もなく、ただ日々をすりつぶしていく。窮屈で先が真っ暗で息がつまり――……。





「ハァ……ハァ……」

 目が覚める。俺は息を切らしていた。
 窓の外は日が昇り始めたところのようで、うっすらと白み始めていた。
 久々に前の世界のことを夢に見た。嫌な夢だ。幸せな異世界生活に慣れてきて、気がゆるんだなぁ……。
 うつぶせになって深い溜息を吐いてから、むくりと起き上がる。
 首を鳴らしながら、部屋の扉を開けると、リビングでファナさんが筋トレしていた。

「おはようございます、ファナさん」
「おはよう、マコト。今日は早いな」

 起きたらだれかいて、俺だけでも大丈夫な仕事でも一緒にやってくれる人がいる。
 非効率な気もするけど、俺は今の生活をとんでもなく気に入ってしまっていた。
 振り返ったファナさんと目が合う。

「うふふ……幸せだなぁ」

 だから思わずそう呟いてしまうのも仕方がないと思う。幸い、その不気味な笑い声と言葉はファナさんには聞こえていなかったようだ。

「なんだかご機嫌だな。マコト、そろそろ久々に遠征依頼でも受けようと思うんだが、一緒にどうだ?」
「俺がいて、足手まといになりませんか?」
「なるもんか、マコトがいてくれるとすごく助かると思う」
「じゃあ、行きます!」
「よかった! では、今日はまずギルドに行って、手ごろな遠征依頼を受けよう。その後遠征の準備を市場でして、明日くらいには出発するか」
「いいですね」

 ゆったりした朝の時間を過ごしつつ、ゆったりとした今後のスケジュールが決まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

異世界で魔物と産業革命

どーん
ファンタジー
事業主とブラック企業に勤めるOLが異世界に転生! 魔物と会話するスキルを授かった主人公が魔物たちと社会を築き、集落を、街を、果てはお城まで作り上げる物語 魔物とホンワカ村づくりする内容を目指したつもりがどういうわけかシリアス気味になったり、先の方まで書き進めているうちに1話の内容が恥ずかしくなったりしている駆け出しです 続きが気になって頂けたらお気に入りして頂けると励みになります ※16万文字ほどの物語です

転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~

すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。 若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。 魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。 人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で 出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。 その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。

処理中です...