異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍

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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

12.試験って久々に受けました

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 しばらくして乱闘騒ぎは収まった。ちぎっては投げちぎっては投げで大活躍のファナさんにより生み出されたしかばねたちが、ギルドの隅で山となっているが見ないようにする。

「ファ、ファナさん」
「おお、マコト、すまん。暴走して放置しちゃったな……」

 大剣を背中に装備し直しているファナさんに話しかけると、にこっと微笑んでくれた。いや、謝るところそこなんですね。まあ、しかし、失礼なこと言うおっさんにはそれくらいしてもいいと思います。正直、非モテを馬鹿にするリア充を殴り飛ばせたらと思ったことがないとは言えない。

「じゃあ、待たせちゃったけど、冒険者登録をしよう」

 ファナさんと一緒に受付に向かうと、受付には優しそうなお兄さんが座っていた。ここは王道的に美人な受付嬢がいて欲しかったと思わなくもないが、あのデリカシーのかけらもない冒険者群を見るに、女の子が受付していたら大変そうだ。

「ファナが男連れかと思ったら、新人の面倒をみてあげてるんだね。さすが姉御」

 あんな大乱闘があったのに、まったく動じないで微笑んでいるお兄さんを見ていると、あの程度の騒ぎは日常茶飯事だということが伺える。

「姉御ってな……お前」
「まあまあ。頼りにされてるってことでしょ。――じゃあ、そこの男の子は、新規登録でよかったかなぁ?」

 お兄さんが軽くファナさんが流して、俺に話しかけてきた。またも「男の子」と随分と若く見られているようだ。

「あの、男の子って年齢でもないかとは思いますが、新規登録で間違いありません」
「あれぇ? それは失礼をしたね。ちなみにいくつだった?」
「26歳です」

 年齢を答えた途端、受付のお兄さんもファナさんもびっくりしているようだった。

「……見えないねぇ。すっごく若く見られるでしょ」
「え!? マコト26歳!? 私より年上だったのか!?」

 ちょっとショックを受けなくもないが、日本人あるあるだよね……? そうだと言って。
 思わず遠い目になる俺にファナさんが「若さの秘訣はなんだ!? なんか秘薬でも飲んだのか!?」とか詰め寄ってきているが、「そんなもの飲んでません」と受け流す。そんなこんなやっているうちに、受付のお兄さんが受付台の上に紙を載せていた。

「新規登録受付用紙なので、空欄を埋めてね。それが終わったら、適性試験をやるよ」
「適性試験?」
「そう。マコトくんがどんな能力を持っているのか、こちらで把握しておくことで、依頼クエストのオススメやパーティーの斡旋ができるからね。後は緊急時に能力を見て、ギルドから依頼クエストをかけることもあるよ」
「あの、俺、たぶん冒険者に役立ちそうな技能はあまりなくて……能力がないと登録ができないといったことはないのでしょうか」
「それは安心して。あくまでギルドが能力を把握しておくために行うものだから、能力の有無によって登録ができないなんてことはないよ」

 お兄さんに微笑まれて、安心する。筋力がないとだめとか、攻撃力のある魔法が使えないとだめとかだったら俺はオワタだったからな。
 しかし、能力の把握が目的なら適性試験・・という言い方は誤解を招くと思うんだ。と、くだらないいちゃもんは心の中に留めておくとして、俺はお兄さんに連れられて、受付カウンターの奥へと進むのだった。保護者ファナさんも同伴である。
 カウンターの奥を進むと、そこはギルドの建物の中庭らしきところだった。
 芝生なのか、ちょっと芝生よりはぼさぼさした背の低い草が生えた庭だ。ところどころ削れたように土が見えているところがある。

「じゃあ、まずは体力測定からはじめよう」

 笑顔のお兄さんに促され、地獄の試験が始まった。


 ◆


「ぜえ……ぜえ……ハアァ……」

 高校生の俺は、なぜこんなことをして生きていられたのだろうか。
 久々にやらされた体力測定は見るも無残な結果だった。同じとは言わないが、学生のときにやらされた体力測定と行ったことは結構、かぶっていたのだ。
 反復横跳びやら、長座体前屈やら、シャトルランらしきものやら。
 そのどれもが過去最低記録を打ち出していた。……まぁ、そうだよな。社会人になってからまともな運動なんてしていなかった。
 そこに冒険者らしく、重いものを持たされてどれくらい持ってられるかとか、どれだけ重いものを持ち上げられるかだとか、ファナさんが持っているような大剣を振ってみるだとか、投擲とうてきや弓の命中率だとか、そういった類の試験も入って来た。そちらも結果は惨敗。
 俺ぁ、もうだめだ……。
 息を荒げながら、地面にひざと手をつき、まさしくorzオーアルゼットの恰好になっていた。体力の限界及び精神的打撃によるものである。
 そんな俺を、横に立っているお兄さんは相変わらずの笑顔で見守ってくれている。しかし、ここまで地獄の試験を微笑みながら淡々と進められてきた。がっかりされたり、怒鳴られたりするより、ここまでずっと笑顔だと一周回って逆に怖くなってくる。

「うん。じゃあ、息が整ったら次は魔法の適性に移ろうね」
「……は、はい」

 もはや俺は戦々恐々としながら、頷くほかなかった。

 魔法の適性試験?
 そんなもの、なかったのさ。

 俺は遠い目で青い空を見ていた。ああー鳥が飛んでる。綺麗だなあ。

「マ、マコト、なんだ、その、……きっと、何かできることがあるはずだ」

 ファナさんが気まずそうに目を反らしているが、なんのことだろう。
 俺はポケーと空を見ていた。
 なぜだか泣きたくなるのだが、なぜなのだろう。

「……うわぁあんっ……」

 ……まあ、わかってたんですけどね。俺に魔法の適性がないことくらい。だって、ステータス覧を見ても、俺のスキルに魔法が使えそうなものはなかった。治癒魔法や攻撃魔法には適性が必要とのことだから、俺じゃできるはずがなかったのだ。
 いつの間にか俺の様子を見に来ていた、周りの冒険者があまりのできなさに途中からひとつの試験が終わるたびに失笑をくれたもんだから、余計落ち込む。
 体力もなし、弓も使えない。魔法も使えない。
 そんなんじゃ冒険者として活動していくには、絶望的だ。初期費用さえあれば、徐々に力をつけていくことも可能なのだろうが、俺はスーツ姿のままいきなり異世界に放り出されてしまった。持ち物と言えば、スーツの胸ポケットに入れていた財布くらい。異世界で、日本の紙幣やポイントカードがなんの役に立つというのだろう。

「マコト、連れてきた手前、私が独り立ちできるようになるまではめんどうみてやるから、そ、そう気を落とすな。初期費用も出してやるし、武器や食事もおごってやるから!」

 しかし、あまりにも落ち込む俺を、健気に慰めてくれているファナさんに申し訳なくなってきた。そろそろ頑張って復活しような、俺。
 空を見るため上げていた視線をファナさんに向けると、ファナさんと目が合った。
 困ったように微笑むファナさんは相も変わらず美しい。しかも、優しい。拾ったペットならまだしも人間の俺の面倒を最後まで見てくれるなんて。マジ大天使。もはや女神かもしれん、いや、女神だ。
 女神の美しさで心が洗われ、何とか精神状態が復活してきた。

女神様ファナさん、ありがとうございます。たいへん申し訳ないんですが、俺にできることが今の状況だとなさそうなので、体力が付くまで少しサポートをしていただけるとありがたいです!」

 周りの冒険者からもさらに失笑をもらうが、仕方ない。異世界に来て、生きるか死ぬかの経験をしたことで俺のプライドはゼロに等しいものとなったのだ。だって、ここで助けてもらえなかったら絶対野垂れ死ぬ!
 だから、ひとまずは優しいファナさんの胸を借りることにする。

「でも、借りっぱなしじゃあ申しわけなさすぎるので、家事とか雑務とかは全部俺にさせてください。かかった費用もきちんと出世払いします! だから、女神様ファナさん、どうかよろしくお願いします!!」

 美女のすねをかじるしかないこの状況には情けなさしかない。
 俺は勢いのまま、土下座した。なんだかギルドがざわめいているような気がしないでもないが、この申しわけのなさと比べたら屁でもない。

「ま、マコト! やめろ! わかったから! 私が養うから、そのポーズをやめろ!」

 ファナさんに肩を掴まれて、無理矢理立たされる。至近距離で再び目が合って、俺は心臓が跳ねあがった。顔も真っ赤に染まる。

「本当、ありがとうございます。女神様」

 慌てて距離を取りながら、深々とお辞儀をする。

「め、めがみ?」

 あ、思っていたことを口に出してしまっていた。顔を上げると、今度はファナさんの顔が赤くなっていた。こんなに美人なのに、ちょっとした誉め言葉で照れるとか初心うぶすぎて、ご馳走様としかいいようがない。

「あのー、ちょっと僕、空気すぎない? 一応試験監なんだけどなぁ……」

 後ろで受付のお兄さんがポツリと呟いたのが、聞こえてきた。ごめんなさい、存在を忘れていました。

「それじゃあ、マコト君の体力と魔法部門の適性はなしということで、登録完了したよ」

 存在を忘れていたのは申しわけなかったけど、そんなはっきり言わなくてもいいじゃないか。
 改めて、実態を言葉で突き付けられて「うっ」となりながらも、受付のお兄さんから手渡されたものを反射的に受け取る。

「はい。それがギルドカード。まあ、能力の記載と死んだときにギルド側が判定できるくらいしか機能はないんだけど」

 思わずカードをまじまじと観察していたところで、物騒なことを言われて顔をあげた。お兄さんが珍しくちょっと困ったような、照れくさいような表情で手を差し出してきた。

「仲間になったんだから、簡単に死んだりしないでね、マコト君。冒険者ギルドへようこそ」

 おずおずと握手する俺に、お兄さんは笑顔に戻っていた。
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