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第1章 家をつくろうと思っていたら街ができてい

8.第一異世界人との遭遇

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「……へ?」

 ついには蟻に食べられようとしたところで、ちょうどその蟻の頭が落っこちた。
 ……た、助かったの……?
 俺は両太ももの間に転がっている蟻の頭を呆然と見つめた。

「おい、大丈夫か!」

 前方から声が聞こえた気がして、反射的に顔を向ける。
 そこには、目が醒めるような光景があった。少し癖のある赤毛を高い位置でポニーテールにしたアスリートのようにしなやかな筋肉のついた、美女がいたのだ。右側の頰には白く残った古傷があるが、褐色の肌と相まって生命力を感じさせるアクセントになっている。
 蟻の死体越しに目が合った。彼女の目は、海の中から水面を見上げた時のように煌めいて見えた。

「ふ、ふつくしい……」

 俺は呆然と呟いた。彼女は無反応だったので、幸い聞こえなかったのだろうと思ったが、地べたに座り込んだまま彼女を見つめていると、やはり彼女にも俺の発言は聞こえていたのだろう。やや遅れて徐々に顔を真っ赤に染めていった。

「な、何言ってんだオマエ……!」

 動揺してるのだろうか。美人だってくらい、言われ慣れてそうなのに。
 動揺をごまかすように、怒鳴るような口調で言われても嬉しいだけだ。

「美人だ、と思いまして……」
「だから何言ってんだオマエ!  この状況で!!」

 調子に乗って賛美を重ねると、詰め寄られてしまった。
 言われてみれば、確かに蟻の化け物にあわや殺されるところ助けられた男が発する第一声としては相応しくない。

 俺は座り込んだまま、まっすぐ彼女を見つめ深々と頭を下げた。

「ごめんなさい。腰が抜けてしまって立ち上がれないので、こんな格好で失礼します。……助けていただいて、ありがとうございます。貴方は私の命の恩人です」

 しまらないお礼になってしまったが、きちんと感謝の念を伝えることが重要なのだと自分に言い聞かせる。
 そう彼女は、自身の右手に持つ大剣で、蟻を後ろから強襲し、頭をぶち落としてくだすったのだ。
 腰は抜かすわ、こんな美人に情けなく逃げ回る姿を見られるわ、若干男として情けなくなってくるが、そんなことは命を救われた恩に比べればはるかにささいなことだろう。

「……ったく、仕方ねえな。頭を上げてくれよ……ほら」

 頭を下げ続ける俺に彼女がそう言ったので、言われたままに頭を上げると、目の前で彼女が不敵に笑いながら手を差し出していた。
 差し出された手を握ると、思ったよりずっと力強く引き寄せられ、俺は立ち上がったはいいが勢いが強すぎてよろめいてしまった。
 そして、そのまま転びそうになったところを彼女に抱き寄せられる。ヤダ、イケメン。

「あ、ありがとう……ございます……」

 さすがに情けなくなってきて、俺は大いに赤面した。

 ……異世界転移したらチート能力でヒロインを助けるというのがテンプレだと思うんだけど、これ、俺がヒロインだよね?
 普通逆だよね?
 ヒロイン、1週間もお風呂入ってないけど、臭くないかな。大丈夫かな。
 そんな心配をしながらも彼女に促されて、移動を始めた。……移動手段はオンブです。

 なんでもこの辺りは、この森の中でも化け物の支配する危険な地域に近い危険域らしい。有無を言わせぬ力で、俺は彼女に背負われた。そしていま抵抗する間もなく運搬されている。
 ちなみにさすがに大剣を振り回せる筋力を持った彼女の背中は逞しくて、安心感がやばかったです。ヤダ、イケメン……。

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