猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

咲良緋芽

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最終章

結子さんに会った①

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(あれ?ここ、どこ……?)

私は今まで見た事のない場所に立っていた。

空は晴れ渡り、周り一面に色とりどりの花が咲き誇って絨毯じゅうたんの様になっている。

メルヘンな童話の世界にでも迷い込んでしまったのだろうか?

(キレイだな……)

明かりが差し込み、太陽の光りではない気がするけど心地好い暖かさ。

ん~?とグルッと見回し後ろを振り向くと、そこにはどこかで見た事のある女性が微笑んで立っていた。

私は、なんの迷いも躊躇ちゅうちょも不信感も抱く事なくその女性に話し掛ける。

(あの、ここ、どこだか分かりますか?……それと、どこかでお会いしてませんか?)

そう尋ねるとその女性はニコッと笑って、

「初めまして、三毛伸一郎の妻の三毛結子です」

と、言った。

(あ、そうなんで……え!?三毛さんの奥さん!?)

「はい」

もう一度優しく微笑むこの人を見て、いつも見ていた写真の中で微笑んでいる結子さんと合致した。

(は、初めまして!藤堂実森と申します!あの、三毛さんには大変お世話になっておりまして――)

ここはちゃんと挨拶をしておかねば!と私は慌ててお辞儀をした。

「ふふ。知ってます。ここから色々見てましたから」

(あ、そうなんですか、色々……)

結子さんの言葉に、ガバッ!と顔を上げる。

(色々って、もしかして……)

じゃあ、昨夜の事も……?

「もちろん」

(!?)

私がなんの事を言っているのか素早く察知したみたいで、結子さんは「全部ね♡」とにっこり笑った。

私は、ひえ~!と顔が赤くなり、咄嗟とっさに「すみません!」と謝った。

「あ、あの、アレは私も予想外の事でして、不測の事態と言いますか何と言いますか……」

慌て過ぎてしどろもどろになっていると、結子さんがクスっと笑い、

「謝らなくて良いのよ。むしろ、こっちが謝らなければならないの」

となぜか結子さんが頭を下げて来たので私は何がなんだか分からなくなった。

(あの、どう言う……)

「ホラあの時、写真立てが落っこちて割れちゃったじゃない?」

(は、はい)

そんな事はあり得ない、と思いつつ、私も三毛さん(特に三毛さん)もあれは結子さんが怒って倒したんじゃ?と少し疑っていたけど……。

結子さんの話は違った。

「あれね、割ったのはアールなのよ」

(……へ?アール?)

急にアールの名前が出て来て私は首をひねった。

「そうなの。良いところなんだから邪魔しないの!って言ったんだけど、写真立てのガラスがどうも気になるみたいでジャレて倒してしまったのよ。だから止めなさいって言ったのに、当の本人は驚いて逃げちゃうし」

ふぅ……と頬に手を当て、結子さんはやれやれとため息をいた。

(そう、だったんですか)

なるほど。写真立てが倒れたのは、アールが弄っていたせいだったのか。

確かに、あのキラキラが気になるのかたまにアールが写真立てを弄って三毛さんに怒られている所を目撃した事がある。

(あの、じゃあ……怒ってたんじゃないんですか……?)

「怒る?どうして?」

私の質問に、今度は結子さんが首を捻った。

(その……三毛さんと私が……その……)

モジモジしていると、

「ああ、キスしてた事?」

と、顔色も変えずにサラッと口にする。

(!?……あ、まあ……そう、なんですけど……)

「構わないわよ!むしろ、どんどんしちゃって」

(へぇっ!?)

余りに開けっ広げな態度に、変な声が出てしまった。
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