猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

咲良緋芽

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第二章

三毛さんのトラウマ➁

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「いえ、大丈夫です。あ、信号青になりましたよ!行きましょう!」

三毛さんがそう言って歩き出そうとしても、足が全然前に進んでいない。

「三毛さん、本当に大丈夫ですか?……あ、あそこにベンチがあるんでちょっと休みましょう?」

辺りを見回したら、すぐ後ろにベンチがあったのでそこで休むように声を掛けた。

「あ……すみません……」

なんとか三毛さんを支えながらベンチまで辿り着き、腰を下ろさせた。二人掛けのベンチだったので、ついでに私も三毛さんの横に座る。

「どうしたんですか?歩けなさそうならタクシー呼びますか?」

「いえ、大丈夫です。もう落ち着きました」

「本当ですか?」

「はい……」

それ以降、三毛さんが黙ってしまったので私も特に何を話すでもなく居た。

信号を渡った向こうには昔ながらの美容室があって、あの赤と青のクルクル回るやつ(名前が分からない)をボーっと眺める。

「……結子さんが」

「え?」

突然、三毛さんが話始めた。三毛さんが率先して結子さん(亡くなった奥さん)の話をするなんて珍しい。

私はなにも言わずに聞いた。

「8年前のあの事故の時、僕現場を見たんです……。結子さんを含め、子供とお年寄りも巻き込まれていました」

それを聞いて、ドキッと心臓が跳ね上がる。子供まで巻き込まれていたとは……。

「交通事故の現場なんてテレビで見るくらいで、自分には縁のない事だと思っていました。……でも、実際に当事者になったらあの光景が目に焼き付いて離れないんです……特に、交差点は……」

震える両手で自分の顔を覆う三毛さんを見て、何を言いたいのか気付いた。

三毛さんは、さっき私が赤信号を渡ろうとした時に当時の場面がフラッシュバックしたのだろう。

(私はなんて事を……)

三毛さんの姿を見て、激しく後悔した。

「三毛さん」

私は三毛さんの手にそっと触れる。

「すみません。私、三毛さんとデートみたいな事が出来てちょっと浮かれていました。これからはもっと気を付けます」

そう言うと三毛さんは少し安心したのか、添えてある私の手をギュッと握って笑った。

「はい。そうして下さい」

儚く笑う三毛さんを見て、『この人のそばにいてあげたい』と言う思いがより一層強くなった。

強い様で弱い、三毛さんのそばに。
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