31 / 77
第二章
三毛さんのトラウマ➁
しおりを挟む
「いえ、大丈夫です。あ、信号青になりましたよ!行きましょう!」
三毛さんがそう言って歩き出そうとしても、足が全然前に進んでいない。
「三毛さん、本当に大丈夫ですか?……あ、あそこにベンチがあるんでちょっと休みましょう?」
辺りを見回したら、すぐ後ろにベンチがあったのでそこで休むように声を掛けた。
「あ……すみません……」
なんとか三毛さんを支えながらベンチまで辿り着き、腰を下ろさせた。二人掛けのベンチだったので、ついでに私も三毛さんの横に座る。
「どうしたんですか?歩けなさそうならタクシー呼びますか?」
「いえ、大丈夫です。もう落ち着きました」
「本当ですか?」
「はい……」
それ以降、三毛さんが黙ってしまったので私も特に何を話すでもなく居た。
信号を渡った向こうには昔ながらの美容室があって、あの赤と青のクルクル回るやつ(名前が分からない)をボーっと眺める。
「……結子さんが」
「え?」
突然、三毛さんが話始めた。三毛さんが率先して結子さん(亡くなった奥さん)の話をするなんて珍しい。
私はなにも言わずに聞いた。
「8年前のあの事故の時、僕現場を見たんです……。結子さんを含め、子供とお年寄りも巻き込まれていました」
それを聞いて、ドキッと心臓が跳ね上がる。子供まで巻き込まれていたとは……。
「交通事故の現場なんてテレビで見るくらいで、自分には縁のない事だと思っていました。……でも、実際に当事者になったらあの光景が目に焼き付いて離れないんです……特に、交差点は……」
震える両手で自分の顔を覆う三毛さんを見て、何を言いたいのか気付いた。
三毛さんは、さっき私が赤信号を渡ろうとした時に当時の場面がフラッシュバックしたのだろう。
(私はなんて事を……)
三毛さんの姿を見て、激しく後悔した。
「三毛さん」
私は三毛さんの手にそっと触れる。
「すみません。私、三毛さんとデートみたいな事が出来てちょっと浮かれていました。これからはもっと気を付けます」
そう言うと三毛さんは少し安心したのか、添えてある私の手をギュッと握って笑った。
「はい。そうして下さい」
儚く笑う三毛さんを見て、『この人のそばにいてあげたい』と言う思いがより一層強くなった。
強い様で弱い、三毛さんのそばに。
三毛さんがそう言って歩き出そうとしても、足が全然前に進んでいない。
「三毛さん、本当に大丈夫ですか?……あ、あそこにベンチがあるんでちょっと休みましょう?」
辺りを見回したら、すぐ後ろにベンチがあったのでそこで休むように声を掛けた。
「あ……すみません……」
なんとか三毛さんを支えながらベンチまで辿り着き、腰を下ろさせた。二人掛けのベンチだったので、ついでに私も三毛さんの横に座る。
「どうしたんですか?歩けなさそうならタクシー呼びますか?」
「いえ、大丈夫です。もう落ち着きました」
「本当ですか?」
「はい……」
それ以降、三毛さんが黙ってしまったので私も特に何を話すでもなく居た。
信号を渡った向こうには昔ながらの美容室があって、あの赤と青のクルクル回るやつ(名前が分からない)をボーっと眺める。
「……結子さんが」
「え?」
突然、三毛さんが話始めた。三毛さんが率先して結子さん(亡くなった奥さん)の話をするなんて珍しい。
私はなにも言わずに聞いた。
「8年前のあの事故の時、僕現場を見たんです……。結子さんを含め、子供とお年寄りも巻き込まれていました」
それを聞いて、ドキッと心臓が跳ね上がる。子供まで巻き込まれていたとは……。
「交通事故の現場なんてテレビで見るくらいで、自分には縁のない事だと思っていました。……でも、実際に当事者になったらあの光景が目に焼き付いて離れないんです……特に、交差点は……」
震える両手で自分の顔を覆う三毛さんを見て、何を言いたいのか気付いた。
三毛さんは、さっき私が赤信号を渡ろうとした時に当時の場面がフラッシュバックしたのだろう。
(私はなんて事を……)
三毛さんの姿を見て、激しく後悔した。
「三毛さん」
私は三毛さんの手にそっと触れる。
「すみません。私、三毛さんとデートみたいな事が出来てちょっと浮かれていました。これからはもっと気を付けます」
そう言うと三毛さんは少し安心したのか、添えてある私の手をギュッと握って笑った。
「はい。そうして下さい」
儚く笑う三毛さんを見て、『この人のそばにいてあげたい』と言う思いがより一層強くなった。
強い様で弱い、三毛さんのそばに。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説



愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。

お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる