猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

咲良緋芽

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第一章

言ってしまったー三毛さんの涙ー⑤

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「このお店の『milk tea』と言う名前の由来は、結子さんがミルクティーが好きだったからなんです」

(あ…やっぱりそうなんだ……)

初耳だったけど、色んな話を聞いていてそんな気はしてた。

「開店間近だって言うのに、お店の名前にもなっている看板商品のミルクティーがなかなか納得の行く味に出来なくて、何度も失敗していたんです」

「三毛さんでも失敗するんですね」

今の三毛さんからは想像が付かない。

「そりゃ、しますよ。たった今もしました」

鼻の頭を掻きながら、ハハハと笑う。

「最初の頃なんて、失敗続きでした。結子さんが店の看板商品をミルクティーにしたいって言い出してからは何度も何度も試行錯誤を重ねて。でも最初から上手くなんて淹れられないから、大量のミルクティーが作られる。流石に飲みきれないとそれを廃棄しようとしたら、先程の実森さんの様に結子さんに止められたんです。『捨てるなんて勿体無い!ミルクティーが泣くわよ!』って……」

「ああ……」

確かに、さっき私も同じこと事を言った。

「そんな事を言われたら廃棄出来なくなってしまって、それからしばらくは二人でミルクティーを嫌と言う程飲みました。それこそ、もう一生分ってくらい」

その時の事を思い出しているのか、三毛さんがクスクスと笑う。

「でも、なんとかオープンの前日に納得の行くミルクティーが出来て、今こうして皆さんや実森さんに提供出来ている訳です」

「そうだったんですか……」

ミルクティーは、三毛さんにも結子さんにも特別な物なんだな。

「あ、すみません。長々とこんな話……」

「あ、いえ……」

三毛さんがちょっとバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。

「こんな話、誰にもした事無かったのにどうしたんだろう……?」

と言いながらブツブツ呟いている。

「結子さんの事、本当に愛しているんですね」

「はい。勿論です」

三毛さんは、私の問いに一つの曇りもない瞳で何も迷いもなく力強く頷く。

それを見た瞬間私には、心がジリジリする様なヒリヒリする様な何とも言えない感情がこみ上げて来て、咄嗟に「でも……」と突っ掛かってしまった。

「はい?」

「それで良いんでしょうか?」

「……どう言う事ですか?」

私の言葉に三毛さんの表情が曇る。瞬時に「あ、やめておけば良かった……」と後悔したけどもう遅い。

私は止まらなかった。

いや、『止まれなかった』の方が正しいかもしれない。
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