猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

咲良緋芽

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第一章

好きな人の最愛の人

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三毛さんには、最愛の人がいた。


私なんか入り込む事なんて出来ない、そんな隙間なんて微塵みじんもない二人。

その人は三毛さんの後ろで今も微笑んでいる。しかしそれは、キラキラと光るビーズや色とりどりのガラスが散りばめられている写真立ての中で。

写真立ての前には、三毛さんとお揃いの指輪とコップに入った可愛いお花が飾られていた。


三毛結子みけゆいこさん。享年32歳』


交通事故だった、と、以前三毛さんが話してくれた。

切れた茶葉を買いに行っている途中での、痛ましい事故。信号無視の車が歩道に突っ込んで来て、それに巻き込まれてしまった。病院に運ばれた時すでに息は無く、即死だったらしい。

8年の月日が流れても、三毛さんは「昨日の事のようだ」と力無く笑っていた。

そんな三毛さんを見て、泣いた。

『もう、恋はしないんですか?』

と、尋ねた事がある。

すると三毛さんは、誇らし気にこう答えた。

『恋?してますよ、奥さんに。だから、もうしなくて良いんです』

――と。

その時に、『あぁ、私はまた失恋したのか……』と悟った。

でも、半年かけて膨れ上がった私の恋心はもう自分でもどうする事も出来なくて。

距離を置いて諦めようともしたんだけど、無理だった。(会いた過ぎて情けないけど体調不良になった)

だから、『別に今のままでもいい』と無理やり心に折り合いを付けた。

本当は三毛さんに新しい恋をしてもらいたいけど、それは私の我がままだから口にはしない。

それに、そんな事を言って困らせたりしたい訳じゃない。

(だから、今のままで良いんだ……)

新しく淹れてもらったチーズケーキによく合うミルクティーを、スプーンでかき混ぜながらクルクル回る水面をボーっと眺めていた。

「ニャーン」

アールが手に擦り寄って来て、ハッと我に返る。

「……どうしたの?」

「ニャーン……」

頭を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細めた。

慰めてくれてるのかもしれない。

「あ、そうだ。アールにお土産があったんだ!」

不意に思い出し、沈んだ気持ちを切り替えるように無理やり笑顔を作る。鞄をゴソゴソと漁り、「あ、あったあった」と呟いて紙袋を取り出した。

「お土産、ですか?」

「はい!こないだ友達と猫カフェに行ったら、そこの猫ちゃんが首に可愛いリボンを付けていたんです。店員さんに聞いたら、そこのオリジナルのリボンで……」

紙袋から中身を取り出し、アールに見せた。

「ジャーン!どお?アール。可愛いでしょ?」

振って見せると、チリン――と赤いリボンの中央に付いている鈴が鳴った。

それを見たアールは目をらんらんと輝かせ、そのリボンにじゃれようとする。

「こらこら。おもちゃじゃないわよ。ここに……ホラ、可愛い♡」

カチッ……と首にそのリボンを着ける。

アールには少し違和感があるのか、最初は首を振ったりしていたけどそれも数分で、その内何事もなかったかの様に毛繕いをし始めた。

「うん、大丈夫そうだね!アール、よく似合ってるよ!」

私の声に、アールが尻尾をパタパタと振って答えてくれる。

「ありがとうございます」

三毛さんが頭を下げた。

「あ、いえいえ!私こそ勝手に……ご迷惑じゃありませんか?」

何も考えずにアールに似合うなって買って来ちゃったけど、よくよく考えたら出過ぎた真似だったかも……。

「とんでもない。アールも嬉しそうですよ」

三毛さんがアールを指差す。

アールは自分の姿を窓ガラスに映し、ピシッと姿勢を正して尻尾をパタパタと振っている。

「……それなら良かった」

私はアール本人が気にっているなら、とホッと胸を撫で下ろした。

雲の隙間から顔を覗かせた太陽が、お店の中を照らす。

その光に反射して、写真立てがキラキラ光りチラチラと目の端に映る。

私は痛む心に気付かない振りをして、残りのミルクティーを飲み干した。
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