8 / 77
第一章
あれから半年➁
しおりを挟む
あの雨の日、失恋して恋に落ちた。
我ながらめちゃくちゃ単純だと思う。でも、失恋したてで優しくされて(しかもイケメンで)、笑顔がステキで大人のおじさま。これで恋に落ちない人っていないんじゃなかろうか。
あの時の三毛さんの笑顔とミルクティーの味は、一生忘れられない。
「お待たせいたしました。ミルクティーです」
出逢った時の思い出に浸っていると、甘い香りを漂わせたミルクティー入りのカップが置かれた。
「ありがとうございます……良い香り」
カップを手に取り、スゥッ……と香りを吸い込む。
猫舌の私に丁度いい温度のミルクティーを一口すすり、いつもと同じ優しい味に、ホッと溜め息が漏れた。
「……美味しいです」
「ありがとうございます」
三毛さんが、微笑む。
いつもと同じ会話。でも、なんだかとても幸せに感じてしまう。
半年前に「好きな人が出来た」と勝手言って別れたアイツとは違って、穏やかな三毛さんといるととても落ち着く。
もちろんアイツと付き合っていた頃はそれなりに楽しかったし、結婚したいとも思った。でも今思えば、付き合っているのに別な人を好きになる様なやつとは別れて正解だった。
(結婚して浮気に走られても困るしね)
その点を踏まえると、素直に別の人を好きになったと言って来た辺りは褒めるべき所か。
(いや……そうでもないか。そもそも彼女がいるのに他の女を好きになるなっつー話で)
……止めよう。
思い出すと段々腹が立って来るし、せっかくのミルクティーが不味くなる。
そう思い直しミルクティーを飲みながら三毛さんを見ると、他の常連さんとの会話を微笑みながら聞いている。
あの雨の日、三毛さんは涙の訳を無理に聞こうとはせず、泣き止むまでこうやって優しく微笑んでくれていた。
「アレでやられたのかなぁ……」
「え?」
ボソッと呟いただけなのに、耳ざといのか三毛さんがパッとこちらを振り向いた。
「あ、いえ、なんでもないです!」
私は慌てて首を振る。と、
「あ、そうでした!」
突然、三毛さんが思い立った様に声を上げて、ポンッと手を叩いた。
「どうしたんですか?」
「新作のチーズケーキを作ったんですが、試食をしてみてもらっても良いですか?」
「えっ!いいんですか!?」
パァァァッ!と、一気にテンションが上がる。
我ながらめちゃくちゃ単純だと思う。でも、失恋したてで優しくされて(しかもイケメンで)、笑顔がステキで大人のおじさま。これで恋に落ちない人っていないんじゃなかろうか。
あの時の三毛さんの笑顔とミルクティーの味は、一生忘れられない。
「お待たせいたしました。ミルクティーです」
出逢った時の思い出に浸っていると、甘い香りを漂わせたミルクティー入りのカップが置かれた。
「ありがとうございます……良い香り」
カップを手に取り、スゥッ……と香りを吸い込む。
猫舌の私に丁度いい温度のミルクティーを一口すすり、いつもと同じ優しい味に、ホッと溜め息が漏れた。
「……美味しいです」
「ありがとうございます」
三毛さんが、微笑む。
いつもと同じ会話。でも、なんだかとても幸せに感じてしまう。
半年前に「好きな人が出来た」と勝手言って別れたアイツとは違って、穏やかな三毛さんといるととても落ち着く。
もちろんアイツと付き合っていた頃はそれなりに楽しかったし、結婚したいとも思った。でも今思えば、付き合っているのに別な人を好きになる様なやつとは別れて正解だった。
(結婚して浮気に走られても困るしね)
その点を踏まえると、素直に別の人を好きになったと言って来た辺りは褒めるべき所か。
(いや……そうでもないか。そもそも彼女がいるのに他の女を好きになるなっつー話で)
……止めよう。
思い出すと段々腹が立って来るし、せっかくのミルクティーが不味くなる。
そう思い直しミルクティーを飲みながら三毛さんを見ると、他の常連さんとの会話を微笑みながら聞いている。
あの雨の日、三毛さんは涙の訳を無理に聞こうとはせず、泣き止むまでこうやって優しく微笑んでくれていた。
「アレでやられたのかなぁ……」
「え?」
ボソッと呟いただけなのに、耳ざといのか三毛さんがパッとこちらを振り向いた。
「あ、いえ、なんでもないです!」
私は慌てて首を振る。と、
「あ、そうでした!」
突然、三毛さんが思い立った様に声を上げて、ポンッと手を叩いた。
「どうしたんですか?」
「新作のチーズケーキを作ったんですが、試食をしてみてもらっても良いですか?」
「えっ!いいんですか!?」
パァァァッ!と、一気にテンションが上がる。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした
日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。
若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。
40歳までには結婚したい!
婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。
今更あいつに口説かれても……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる