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プロローグ
出逢い⑥
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「あの……お風呂と服、ありがとうございました……」
「いえいえ。温まりましたか?」
「はい……」
お店に着いてすぐ、お風呂場に連れて行かれた。
変な事されたらどうしよう、とちょっと不安になったけど、なんかもうどうでも良くて、寒かったし言われるがままにお風呂に入らせてもらった。
それに、このおじさんはそんな事をしないだろう、と言う変な確信があった。
なんでかは分からないけど。
服も下着もびしょびしょだったから、乾燥にかけて貰っている間、シャツとズボンを借りて着た。
「こちらへどうぞ」
おじさんは4席ほどあるカウンターの一つの椅子を引いて手招きをしてくれた。
「あ、はい……」
カタン……と腰を下ろすと、フワッと甘い香りが鼻をついた。
「ミルクティーはお好きですか?」
「は、はい」
「それは良かった」
私の返事に満足した様で、丸眼鏡の奥で目を細めて笑った。
キッチンに戻って行くおじさんを目で追う。
さっきはよくよく見てなかったから分からなかったけど、おじさんは凄く整った顔立ちをしていた。
腰まである長い髪を後ろで一つに縛り、金縁の丸眼鏡をかけている。背がスラッと高く、白いシャツと細身のジーンズがよく似合っていた。
手際よく紅茶を淹れる所作をボーッと眺めていると、不意に目が合い、慌てて俯いた。
「……どうぞ」
目の前に、ミルクティーが淹ったカップが置かれる。
そのカップから漂う紅茶とミルクの優しい香りが、すさんだ心に少しばかり癒しをくれた。
「美味しそう……」
「温かい内にどうぞ」
「あ、はい」
いただきます、とお辞儀をして一口飲んだ。
紅茶の渋味がミルクでまろやかになっていて、飲みやすい。
かと言って紅茶本来の風味が無くなった訳ではなく、ミルクと調和されていて、とても――、
「美味しい……」
ボソッと呟く。
「それは良かった」
おじさんが優しく微笑む。
ミルクティーの温かさと甘さ、笑顔の優しさがじんわりと心に広がって行く。
なんだか妙に切なくなって、ポロポロッ……と、涙が零れた。
一度流れ始めた涙は、待ってました!と言わんばかりに後から後から零れ落ち、ポタポタとミルクティーの表面に波紋を作る。
……悔しい。
泣きたくなんかないのに。
「ニャーン……」
さっきの子猫が、カップに添えている私の手に擦り寄って来る。
雨で濡れていた体はすっかり乾き、ふわふわと温かい。
おじさんがそっとハンカチを差し出してくれて、
「……今度はハンカチで大丈夫そうですか?」
と、言った。
「いえいえ。温まりましたか?」
「はい……」
お店に着いてすぐ、お風呂場に連れて行かれた。
変な事されたらどうしよう、とちょっと不安になったけど、なんかもうどうでも良くて、寒かったし言われるがままにお風呂に入らせてもらった。
それに、このおじさんはそんな事をしないだろう、と言う変な確信があった。
なんでかは分からないけど。
服も下着もびしょびしょだったから、乾燥にかけて貰っている間、シャツとズボンを借りて着た。
「こちらへどうぞ」
おじさんは4席ほどあるカウンターの一つの椅子を引いて手招きをしてくれた。
「あ、はい……」
カタン……と腰を下ろすと、フワッと甘い香りが鼻をついた。
「ミルクティーはお好きですか?」
「は、はい」
「それは良かった」
私の返事に満足した様で、丸眼鏡の奥で目を細めて笑った。
キッチンに戻って行くおじさんを目で追う。
さっきはよくよく見てなかったから分からなかったけど、おじさんは凄く整った顔立ちをしていた。
腰まである長い髪を後ろで一つに縛り、金縁の丸眼鏡をかけている。背がスラッと高く、白いシャツと細身のジーンズがよく似合っていた。
手際よく紅茶を淹れる所作をボーッと眺めていると、不意に目が合い、慌てて俯いた。
「……どうぞ」
目の前に、ミルクティーが淹ったカップが置かれる。
そのカップから漂う紅茶とミルクの優しい香りが、すさんだ心に少しばかり癒しをくれた。
「美味しそう……」
「温かい内にどうぞ」
「あ、はい」
いただきます、とお辞儀をして一口飲んだ。
紅茶の渋味がミルクでまろやかになっていて、飲みやすい。
かと言って紅茶本来の風味が無くなった訳ではなく、ミルクと調和されていて、とても――、
「美味しい……」
ボソッと呟く。
「それは良かった」
おじさんが優しく微笑む。
ミルクティーの温かさと甘さ、笑顔の優しさがじんわりと心に広がって行く。
なんだか妙に切なくなって、ポロポロッ……と、涙が零れた。
一度流れ始めた涙は、待ってました!と言わんばかりに後から後から零れ落ち、ポタポタとミルクティーの表面に波紋を作る。
……悔しい。
泣きたくなんかないのに。
「ニャーン……」
さっきの子猫が、カップに添えている私の手に擦り寄って来る。
雨で濡れていた体はすっかり乾き、ふわふわと温かい。
おじさんがそっとハンカチを差し出してくれて、
「……今度はハンカチで大丈夫そうですか?」
と、言った。
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