6 / 77
プロローグ
出逢い⑥
しおりを挟む
「あの……お風呂と服、ありがとうございました……」
「いえいえ。温まりましたか?」
「はい……」
お店に着いてすぐ、お風呂場に連れて行かれた。
変な事されたらどうしよう、とちょっと不安になったけど、なんかもうどうでも良くて、寒かったし言われるがままにお風呂に入らせてもらった。
それに、このおじさんはそんな事をしないだろう、と言う変な確信があった。
なんでかは分からないけど。
服も下着もびしょびしょだったから、乾燥にかけて貰っている間、シャツとズボンを借りて着た。
「こちらへどうぞ」
おじさんは4席ほどあるカウンターの一つの椅子を引いて手招きをしてくれた。
「あ、はい……」
カタン……と腰を下ろすと、フワッと甘い香りが鼻をついた。
「ミルクティーはお好きですか?」
「は、はい」
「それは良かった」
私の返事に満足した様で、丸眼鏡の奥で目を細めて笑った。
キッチンに戻って行くおじさんを目で追う。
さっきはよくよく見てなかったから分からなかったけど、おじさんは凄く整った顔立ちをしていた。
腰まである長い髪を後ろで一つに縛り、金縁の丸眼鏡をかけている。背がスラッと高く、白いシャツと細身のジーンズがよく似合っていた。
手際よく紅茶を淹れる所作をボーッと眺めていると、不意に目が合い、慌てて俯いた。
「……どうぞ」
目の前に、ミルクティーが淹ったカップが置かれる。
そのカップから漂う紅茶とミルクの優しい香りが、すさんだ心に少しばかり癒しをくれた。
「美味しそう……」
「温かい内にどうぞ」
「あ、はい」
いただきます、とお辞儀をして一口飲んだ。
紅茶の渋味がミルクでまろやかになっていて、飲みやすい。
かと言って紅茶本来の風味が無くなった訳ではなく、ミルクと調和されていて、とても――、
「美味しい……」
ボソッと呟く。
「それは良かった」
おじさんが優しく微笑む。
ミルクティーの温かさと甘さ、笑顔の優しさがじんわりと心に広がって行く。
なんだか妙に切なくなって、ポロポロッ……と、涙が零れた。
一度流れ始めた涙は、待ってました!と言わんばかりに後から後から零れ落ち、ポタポタとミルクティーの表面に波紋を作る。
……悔しい。
泣きたくなんかないのに。
「ニャーン……」
さっきの子猫が、カップに添えている私の手に擦り寄って来る。
雨で濡れていた体はすっかり乾き、ふわふわと温かい。
おじさんがそっとハンカチを差し出してくれて、
「……今度はハンカチで大丈夫そうですか?」
と、言った。
「いえいえ。温まりましたか?」
「はい……」
お店に着いてすぐ、お風呂場に連れて行かれた。
変な事されたらどうしよう、とちょっと不安になったけど、なんかもうどうでも良くて、寒かったし言われるがままにお風呂に入らせてもらった。
それに、このおじさんはそんな事をしないだろう、と言う変な確信があった。
なんでかは分からないけど。
服も下着もびしょびしょだったから、乾燥にかけて貰っている間、シャツとズボンを借りて着た。
「こちらへどうぞ」
おじさんは4席ほどあるカウンターの一つの椅子を引いて手招きをしてくれた。
「あ、はい……」
カタン……と腰を下ろすと、フワッと甘い香りが鼻をついた。
「ミルクティーはお好きですか?」
「は、はい」
「それは良かった」
私の返事に満足した様で、丸眼鏡の奥で目を細めて笑った。
キッチンに戻って行くおじさんを目で追う。
さっきはよくよく見てなかったから分からなかったけど、おじさんは凄く整った顔立ちをしていた。
腰まである長い髪を後ろで一つに縛り、金縁の丸眼鏡をかけている。背がスラッと高く、白いシャツと細身のジーンズがよく似合っていた。
手際よく紅茶を淹れる所作をボーッと眺めていると、不意に目が合い、慌てて俯いた。
「……どうぞ」
目の前に、ミルクティーが淹ったカップが置かれる。
そのカップから漂う紅茶とミルクの優しい香りが、すさんだ心に少しばかり癒しをくれた。
「美味しそう……」
「温かい内にどうぞ」
「あ、はい」
いただきます、とお辞儀をして一口飲んだ。
紅茶の渋味がミルクでまろやかになっていて、飲みやすい。
かと言って紅茶本来の風味が無くなった訳ではなく、ミルクと調和されていて、とても――、
「美味しい……」
ボソッと呟く。
「それは良かった」
おじさんが優しく微笑む。
ミルクティーの温かさと甘さ、笑顔の優しさがじんわりと心に広がって行く。
なんだか妙に切なくなって、ポロポロッ……と、涙が零れた。
一度流れ始めた涙は、待ってました!と言わんばかりに後から後から零れ落ち、ポタポタとミルクティーの表面に波紋を作る。
……悔しい。
泣きたくなんかないのに。
「ニャーン……」
さっきの子猫が、カップに添えている私の手に擦り寄って来る。
雨で濡れていた体はすっかり乾き、ふわふわと温かい。
おじさんがそっとハンカチを差し出してくれて、
「……今度はハンカチで大丈夫そうですか?」
と、言った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。


愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる