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急展開―そして事件は起こった。➁

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「ふ~。お腹いっぱい」

秘書課に戻る道すがら、満腹になったお腹を擦る。

お腹はいっぱいになったけど、満足は出来なかった。

「一人で食べるご飯ってあんなに美味しくないものなんだな……」

そんな事を言いながら廊下を歩いていると、一人の男性作業員がとある部屋から出て来るのが見えた。

(お昼ご飯も食べずに作業、大変そうだな……)

その作業員はキャップを目深まぶかにかぶり、うつむき加減でこちらに歩いて来る。

顔は、見えない。

すれ違い様に「お疲れ様です」と声を掛けると、その作業員は目も合わさずペコッと頭だけを下げ、行ってしまった。


(…………ん?)


少し歩いて、私は頭に残る残像で何か違和感を感じ、立ち止まった。

振り返って見てみる。

ボサボサのロン毛にキャップをかぶり、繋ぎの作業服を着た男性。

(なんだろ……?)

何が?と言われると明確な答えが出せそうにないんだけど、なんだか違和感。

しかもあの人、どこかで見た事ある様な……。

過去の記憶から合致する人がいるか少し考えてみるけど、知り合いにヒットする容姿の人はいなかった。

「ん~?気のせい、か……?」

作業員だから、どこかですれ違っているのかもしれない。

うん、と頷き、そう結論付けて私はまた歩き出した。


――この時、見るからに怪しげなこの作業員に私がもう少しだけ不信感を抱いていれば、この後に起こる大事件の幕は上がらなかったのかもしれない。

起爆剤は、既に投じられていた――。
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