上 下
17 / 99

ストーカー笹木の強行①

しおりを挟む
キーンコーンカーンコーン――。


終業を知らせるベルが鳴る。

時計を見ると、いつもの様に17時を指していた。

「もう終わりか」

私は「んん~」と唸りながら伸びをする。

「っ……あ~!さてと、今日は残業もないし、帰ろっかな」

カバンを手に取り、いそいそと帰りの身支度を整える私の元に、

「あ、そう言えば」

と、急に何かを思い出した様に、カラカラとキャスター付きの椅子ごと咲希子がやって来た。

「なによ」

「さっき、アンタがお昼から帰って来るちょっと前に、アイツ来てたわよ」

アイツ、と言った咲希子のその言葉に、身支度を終えようとしていた私の手が止まる。

「……マジ?」

「マジマジ」

「何しに?」

「津田部長との事、聞きに来た」

「マジか……」

私は机に手を付いて、ガクッと項垂れた。

来るかな?と多少は予測をしていたものの、まさか数十分後にやって来るなんて……。早過ぎはしないか?

「あっと言う間に広まったみたいね、アンタと津田部長の事」

咲希子は、持っていたボールペンを鼻と上唇に挟み、椅子の背もたれをキコキコと揺らしている。

私はそれを見ながら、「呑気でいいな、コイツは……」と思った。

「ケータイに電話とかなかったの?」

「今日、慌てて家出て来て忘れた」

「あー……。じゃあ、着信凄い事になってるかもねぇ」

「やーめーてー」

咲希子の言葉に、背筋がゾッとする。

「気を付けなさいよ。早く帰らないとまた来るかもよ」

咲希子の台詞に、ガバッと時計を見た。

17時を10分程過ぎている。

笹木は営業課で、秘書課から離れた位置にオフィスがある。しかし、終業のベルと共に仕事が終われば、そろそろここに着く頃だった。

ヤバイかもしれない。

「お先っ!」

カバンを掴み、挨拶もそこそこに私は勢いよく廊下に飛び出した。

「わっ!」

「キャッ!」

なんの確認もせずに飛び出した為に、廊下にいた誰かとぶつかって私はおもいっきり尻餅を付いた。

「……っ、た~……」

うっすら涙を浮かべながら、打ったお尻を擦る。

めっちゃ痛い……。

「大丈夫!?」

聞き覚えのある声に、パッと顔を上げる。

そこには、尻餅を付いた私に手を差し伸べてくれている津田部長が居た。

「え?なんで……?」

「急に飛び出したりしたら危ないでしょ!ホラッ!」

私は、差し伸べられた手を掴む。

と、津田部長は軽々と引っ張り起こしてくれた。

「ありがとうございます。すみません」

私は、起こしてくれたお礼と、ぶつかったお詫びを言った。

「まったく……」

津田部長が呆れ顔で、スカートに付いたホコリをパンパンと叩き落としてくれる。

「ねえ、凄い音したんだけど、大丈夫??」

物音にドアからひょこっと顔を出した咲希子が、私の隣にいる津田部長を見て、あっ……と少し驚いた顔をする。

「……なぁんだ。ちゃんとお迎えがあるんじゃない」

状況を瞬時に察知した咲希子が、今度はニヤニヤし出した。

「え?あ、ちがっ……」

私は慌てて否定しようとしたけど、

「いーからいーから!その方が安全安心だし!津田部長。その子の事、宜しくお願いしますね。何があっても守って下さいよ!江奈、今度ゆっくり話聞かせてもらうから!じゃあ、ごきげんよう」

勘違いした咲希子が、おほほほと笑いながらオフィスへと戻って行った。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イケメンエリート軍団の籠の中

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:66

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:2,607

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:19,457pt お気に入り:13,930

カジュアルセックスチェンジ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:569pt お気に入り:41

悪役令嬢の幸せは新月の晩に

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:568

緑の指を持つ娘

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:17,154pt お気に入り:2,067

処理中です...