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偽装彼女④
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「はぁ……ごめんなさい」
私はひとしきり笑った後、呼吸を整え、オーナーさんの目の前に立ち上がった。
「申し遅れました。私、津田部長と同じ会社の秘書課に勤めております、美園江奈と申します」
スッと身体を斜め45度に傾け、お辞儀をする。これは、秘書課お決まりの挨拶のポーズだ。
それを見ていた津田部長が小さく溜め息を吐きながら言った。
「美園さん。こんな人にそんなバカ丁寧に挨拶なんてしなくても良いのよ」
「こんな人って、酷いっ!」
津田部長の言葉に、オーナーさんが瞬時に反応する。
「いえ、挨拶は基本中の基本です。それに、津田部長のご友人とあるならば、尚更です」
津田部長に向き直り、そう告げる。
すると、そのやり取りを見ていたオーナーさんが、
「んん~っ♡なんていい子なの!アタシ、礼儀正しい子大好き♡」
と、ガバッ!と勢い良く私に抱き付いて来た。
「キャッ!」
ちょっと…いや、かなりビックリして、咄嗟に声が出てしまった。
「ちょ、何やってるの!」
突然の行動に津田部長も驚いた様で、焦った様に私とオーナーさんを引き剥がした。
「いいじゃないっ。減るもんじゃないし!ねえ、江奈っち!」
「え、ええ……」
え、江奈っち……?
「そう言う問題じゃないでしょ!会って間もない人にいきなり抱き付くんじゃないわよ!アンタの悪い癖よ!」
抱き付かれた本人よりも、津田部長の方が怒っている。でもまあ、ビックリはしたけど、私は別に怒っていないんだけども。
しかし、このままにしておくとまた言い合いに発展しそうなので、間に割って入った。
「あ、あの!私、お腹空きました!」
ここに辿り着いて、もう10分は経過している。短いお昼休み。実際、悠長にお喋りをしている暇は無かった。
その言葉にハッとしたのか、
「あら大変!ごめんなさい!すぐに用意するわね!」
と、オーナーさんがパタパタと慌てて厨房に走って行った。
少ししてジュージューと何かを焼いている音が聞こえ始めたので、私はホッと胸を撫で下ろし、座り直した。
「……ごめんなさいね。あの人、あんなんだけどいい人だから」
津田部長がそう言いながらお水を一口飲んで、溜め息を吐く。
「あ、いえ、全然気にしてません!」
悪い人ではない事は、分かる。多分、人懐っこいだけなのだろう。
「そう……良かった」
津田部長が、ホッとした表情を見せる。昨日の夜と同じ、少し儚げに。
この笑い方、クセなのだろうか。
「……あの。聞いても良いですか?」
「なぁに?」
「あの、オーナーさんって……」
「ハナで良いわよ。本人もそう言っていたし」
「あ、はい…じゃあ、ハナちゃんとは……」
このお店に入った途端、『海外事業部の津田部長』の鎧を脱いだ様に見えた。
実際、口調はオネエ言葉丸出しだし、隠している風でもない。随分と親しい間柄だと言う事は、一目瞭然だった。
「……ハナと出会ったのは5年位前だったかしら。2丁目のゲイバーでね。たまたまその店がアタシ達の行き付けだったの。で、なんとなく顔見知りになって、なんとなく話が合って、なんとなくつるんでるって感じかしら」
津田部長はタバコに火をつけ、物思いに耽る様に煙を吐いた。
「そうなんですか……」
その動作が様になって、見惚れる。
私はひとしきり笑った後、呼吸を整え、オーナーさんの目の前に立ち上がった。
「申し遅れました。私、津田部長と同じ会社の秘書課に勤めております、美園江奈と申します」
スッと身体を斜め45度に傾け、お辞儀をする。これは、秘書課お決まりの挨拶のポーズだ。
それを見ていた津田部長が小さく溜め息を吐きながら言った。
「美園さん。こんな人にそんなバカ丁寧に挨拶なんてしなくても良いのよ」
「こんな人って、酷いっ!」
津田部長の言葉に、オーナーさんが瞬時に反応する。
「いえ、挨拶は基本中の基本です。それに、津田部長のご友人とあるならば、尚更です」
津田部長に向き直り、そう告げる。
すると、そのやり取りを見ていたオーナーさんが、
「んん~っ♡なんていい子なの!アタシ、礼儀正しい子大好き♡」
と、ガバッ!と勢い良く私に抱き付いて来た。
「キャッ!」
ちょっと…いや、かなりビックリして、咄嗟に声が出てしまった。
「ちょ、何やってるの!」
突然の行動に津田部長も驚いた様で、焦った様に私とオーナーさんを引き剥がした。
「いいじゃないっ。減るもんじゃないし!ねえ、江奈っち!」
「え、ええ……」
え、江奈っち……?
「そう言う問題じゃないでしょ!会って間もない人にいきなり抱き付くんじゃないわよ!アンタの悪い癖よ!」
抱き付かれた本人よりも、津田部長の方が怒っている。でもまあ、ビックリはしたけど、私は別に怒っていないんだけども。
しかし、このままにしておくとまた言い合いに発展しそうなので、間に割って入った。
「あ、あの!私、お腹空きました!」
ここに辿り着いて、もう10分は経過している。短いお昼休み。実際、悠長にお喋りをしている暇は無かった。
その言葉にハッとしたのか、
「あら大変!ごめんなさい!すぐに用意するわね!」
と、オーナーさんがパタパタと慌てて厨房に走って行った。
少ししてジュージューと何かを焼いている音が聞こえ始めたので、私はホッと胸を撫で下ろし、座り直した。
「……ごめんなさいね。あの人、あんなんだけどいい人だから」
津田部長がそう言いながらお水を一口飲んで、溜め息を吐く。
「あ、いえ、全然気にしてません!」
悪い人ではない事は、分かる。多分、人懐っこいだけなのだろう。
「そう……良かった」
津田部長が、ホッとした表情を見せる。昨日の夜と同じ、少し儚げに。
この笑い方、クセなのだろうか。
「……あの。聞いても良いですか?」
「なぁに?」
「あの、オーナーさんって……」
「ハナで良いわよ。本人もそう言っていたし」
「あ、はい…じゃあ、ハナちゃんとは……」
このお店に入った途端、『海外事業部の津田部長』の鎧を脱いだ様に見えた。
実際、口調はオネエ言葉丸出しだし、隠している風でもない。随分と親しい間柄だと言う事は、一目瞭然だった。
「……ハナと出会ったのは5年位前だったかしら。2丁目のゲイバーでね。たまたまその店がアタシ達の行き付けだったの。で、なんとなく顔見知りになって、なんとなく話が合って、なんとなくつるんでるって感じかしら」
津田部長はタバコに火をつけ、物思いに耽る様に煙を吐いた。
「そうなんですか……」
その動作が様になって、見惚れる。
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