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9巻
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人類領域四大国の一つ、キャナル王国。
第三王女セリスが父である国王の罪を暴き、打倒したことから始まった内乱は、未だ収束の気配を見せない。
第一王女ナリカは、首都エルアークのフィブリス城を占拠しているセリスを反逆者とし、たびたび攻めてきていた。
これまでは門前の防備を崩しきれず退却を繰り返していたが、今回、謎の魔族アルヴァの襲撃と機を同じくしてエルアークに現れた第一王女軍は、様子が違った。アルヴァに襲われる住民たちには、「正統な王位継承者たる第一王女ナリカに従えば、光の神ライドルグの加護により救われる」と説き、第三王女には「こちら側に従いたいという者がいれば引き渡せ」と要求してきたのである。
セリス側は第一王女軍の要求を呑んで東門を開き、エルアークの一部の住民が第一王女軍に合流することとなった。無論、セリス側が素直に応じたのは狙いがあってのことであるが、第一王女軍にはそれを知る由もない。
首都エルアークから、希望者を伴い出発した第一王女軍。
しかし彼等は、副首都――第一王女ナリカが仮首都と定めるカシナートへ、まっすぐ向かったわけではなかった。途中で幾つかの町や村に寄り、演説をして希望者を集め同行させる……という手順を繰り返していたのである。
しかも、「卑劣なる第三王女軍の待ち伏せを防ぐ」という理由で、複雑なルートを進んでいた。
「む、あんなところに村があるな」
「地図にはない……な。ということは、新しくできた村か」
「そうなるな。チッ……丁度、地図改訂の直前だったからな。他にもあるかもしれんぞ」
第一王女軍の騎士達が、先頭で何事かをボソボソと囁き合っている。
彼等が手にしているのはキャナル王国の地図である。しかし、長引く内乱によって改訂作業が滞り、実際と異なる部分が出てきてしまっていた。
先頭で囁き合っていた騎士達は振り向くと、部隊や同行者達に叫ぶ。
「諸君、この先に村がある! 本日はあそこで場所を借りて休もうと思う!」
その声に、幾つかの安堵の声が漏れた。
エルアークとカシナートは距離があり、一般人の足で歩くと相応に疲労する。しかも野宿の場合、野生の獣を警戒しなければならないため、十分に休めないのだ。
しかし、村にあるはずの集会所なら、屋根の下で安心して寝られる。
騎士達について村へと行くと、斧を担いだ村の者らしき男が先頭の騎士へと声をかけた。
「おやあ、立派な装いの方だ。こんな小さな村に何の御用で?」
「うむ。我々は正統なる王位継承者、第一王女ナリカ様のもとに集う近衛騎士団と……我らが保護した正しき国民達である」
騎士の自己紹介を聞き、村人は「はあ」と頷く。
「それで、何の御用で?」
「聖なる任務の途中であるが、今日はもう日が暮れるので一夜の宿を頼みたい。村長の家にご案内願えるか?」
「はあ。村長なら街に取引に行くとか言って、家族と出とりますが。不在中は好きにしろって言われてますし、いいんじゃないですかねえ」
「ほう、取引に……」
「ええ、もう三月くらいは戻っておらんですのう。余程取引に熱中しとるんでしょうなあ。まあ、色々、馬車に山盛り積んで行ったから仕方ないですけどのう」
それは村の財産を持って逃げたのではないだろうか、と言いそうになり、騎士はぐっと抑える。
ここで余計なことを言っても村が混乱に陥るだけだ。
「分かった。では、我々はその村長の家とやらを利用させていただくが、他の同行者を休ませることのできる場所はないかな?」
「はあ。集会所がありますが」
「それでよい。それと、対価は払うので食料をお譲り願いたい。あと村の広場に人を集め……」
長々と騎士と村の男が話し込んだ後、第一王女軍に同行した者達は村の集会所に通された。簡素な造りの建物の中には物がなく、だだっ広い。同行者達は、各々の場所を定めて寝転がり始める。
「……さっきの話、絶対村長逃げてるよね」
「だろうな」
集会所の比較的入り口に近い場所に陣取ったカインとアインは、そんなことを囁き合った。
人類領域の大国、聖アルトリス王国の第二王女エリアに頼まれ、キャナル王国第三王女セリスに協力することになった、冒険者カイン。そして、魔王ヴェルムドールからの命令でカインに同行することになった、ザダーク王国の諜報員アイン。
二人は先のエルアーク襲撃の混乱に乗じて、第一王女軍への同行希望者の中に紛れ込んでいた。
現在村に滞在している第一王女軍には、肝心の第一王女ナリカも、内乱を操る黒幕と思しき宮廷魔法使いマゼンダもいない。
率いているのは、近衛騎士団の副団長補佐ザクリットという男であった。
彼はナリカに随分心酔しているらしく、事あるごとにナリカの素晴らしさを説いていた。
今も、この集会所の外にある広場から、ザクリットの大声が聞こえてくる。
「……つまり、第三王女は万人を騙し権力の座を簒奪せんとしているのだ! 今こそ正統なる王位継承者ナリカ様の下に正しく統治されねばならぬ時! それを望む者は、いつでも受け入れる!」
ザクリット得意の演説である。
要は第三王女セリスがいかに悪辣であるか、そして第一王女ナリカがどれほど高潔で素晴らしく、正統でありながら首都を追われた悲劇の姫であるかを涙ながらに説いているのだ。
集会所の入り口からカインが外を覗くと、広場にいるザクリットの周りに村人達が集まっていた。
拍手が起こっているところを見るに、共感を得られたのか……あるいは、とりあえず騎士様の演説だから拍手したのか。それは不明だが、どうやら演説会は終了したらしい。
続いて外から漂ってきたのは、何かを煮込むスープの匂い。騎士達が交渉して用意してもらった炊き出しだ。
村や町に立ち寄るのはこうしたまともな食事を取るためでもあり、そのおかげか、今のところ脱落者はいない。これも人心掌握術の一環である。俺達を本当に救ってくれるのか……などと疑問に思わせては終わりだから、当然の処置とも言えた。
「あー、皆さん。食事ができたんで取りに来てくださいな」
村の男が集会所にやってきてそう言うと、皆はゾロゾロと広場に出ていった。
アインとカインも、目立たぬよう後に続く。
しかし炊き出しの列には並ばず、広場の隅に座って携行食の干し芋を取り出し、腹に収めた。
これは炊き出しに問題があるわけではなく、所謂「共感」を防ぐためである。
「同じ釜の飯」という言葉があるように、共同生活では仲間意識が芽生えやすい。
カイン達の任務の目的上、そうした感情を下手に抱けば失敗に繋がる。
特にカインは他者に入れ込みやすい性格であるため、アインが釘を刺していた。
そのアインは、第一王女軍一行に気取られぬように森の中へと消える。近くにいる仲間の諜報員と情報交換をするためだ。
余計な邪魔が入らないよう、カインはアインを隠すような位置にさりげなく移動し、星を見上げるフリをしている。
アインが姿を消したことを視界の隅で捉え、カインはその場に座り込んだ。
広場に目を向けると、食事を終えた者が騎士達と和やかに話し込んでいた。
共同生活によってすっかり仲良くなった彼等を見ていると、カインはぞっとする。
エルアークを出発するまで、彼等は「第一王女側」と「第三王女側」に分かれていたはずなのだ。さらに言えば、互いに見知らぬ者同士という関係がほとんどだった。
しかし、今の彼等はまるで十年来の親友のようである。
これが共同生活による共感効果だというのであれば、恐るべしというほかない。
「……ねえ、こんなところでどうしたの?」
突如、カインに声がかけられた。
その声にカインは視線を向け……思わず、息を呑む。
「イ、イース……?」
そう呟き、すぐに違うと気がついた。
軽くウェーブのかかった、長い髪。宝石を思わせる美しい目。
その顔はもう長い間会っていない友人の少女、イクスラースに似ていた。
けれど目の前の少女はイクスラースと違い、髪は白く、瞳は金色に輝いている。装いもあのドレスのような服に比べると格段に地味で、しかし良い生地で仕立てられた旅装であった。
旅行者用のローブと呼ばれる中でも高級品であろうそれを纏った少女は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、カインを見下ろしている。
「イース? 誰、それ? 恋人? あんな可愛い彼女さんがいるのに、いけない人なのね?」
イースを思わせる口調で、少女はやはりイースそっくりの笑顔でそう言った。
「隣、いいかしら?」
「え? う、うん」
カインが答えると、少女はカインの側へ優雅に座った。その動作もイースによく似ている。
「ねえ、貴方って他の人と何か違うわね」
「違う?」
少女の言葉に、カインは思わず聞き返す。
「ええ、違うわ。……そうね、何かは分からないけど……目に力を感じるわ」
「……他の人は力がないの?」
「ええ、皆は死んだような目をしてるもの。分かるでしょ? アレは自分を放棄した目よ」
なるほど、それは確かにカインも感じていたし、アインも話していたことがある。
エルアークから第一王女軍についてきた人達の目は、死んでいる。
長く続く内乱に疲れ、安定を望んでいるのだ。
自分以外の誰かに確かな基準を求め、それに従うことで希望を見出している。
例えばそれは第三王女であり、今は第一王女なのだろう。
そうして他人の理想に全てを託す――聞こえのよい言葉でいえば「信じる」ことで、責任を押し付けてしまっている。それが結局は、自己の放棄であることに気づかないままに。
「それで、僕に何か?」
「面白そうなんだもの。貴方みたいな人がどうして、こんなところにいるのかなって」
「そういう君だって、同じことが言えるでしょ?」
カインが返すと、少女は肩を竦めてみせる。
「まあね。でも私は家族と一緒だから。貴方は違うでしょ?」
「……うん。僕は根無し草だからね」
冒険者、という言葉を使わずに、あえてカインはそう表現した。
すると、少女は首を傾げる。
「根無し草……要は一定の住居を持たない旅人のことよね。そういう風に見えないけど」
「そうかな?」
「ええ。彼等は……もっとこう、粗暴でギラギラした目をしてるもの。貴方の目は、理知的な色をしてる。全然違うわよ」
カインは少女に、やはりイースの影を見出す。
彼女もまた、こうして人の内面にズケズケと入ってくる人物であった。
「きっと、何か目的があるのね。騎士になりたいとか?」
「どうだろうね」
曖昧に誤魔化すカインを見て、少女はますます興味の色を深める。
「貴方、きっと強いと思うの。ナリカ様のところに行ったら、必ず活躍できるわ」
「そうかな……買い被りだと思うけど」
気のない返事を繰り返すカインに、少女は苦笑しつつも身を寄せる。
そんな少女からカインが少し離れると、少女は不満そうな顔をした。
「……ねえ。名前、教えて?」
「カイン。ただのカインだよ。君は?」
「私? 私は……リースよ。よろしくね、カイン」
リースはカインの手を取って握手した。
「これで私達、お友達ね?」
カインが何かを答えようとしたその時、アインが背後から現れる。
「どうした、カイン……何だ、その女は」
「あら、邪魔が入っちゃった。またね、カイン」
手をひらひらと振って何処かへ行くリースを訝しげに見送ると、アインはカインに視線を向ける。
「……ナンパか?」
「違うよ」
「では、また何処かで助けた女か」
「アインは僕をどういう目で見てるのさ……」
言われて、アインは「そうだな……」と呟く。
「知り合う女全てと仲良くなる男……といったところか?」
「……そんなことないよ……」
「自覚がないのは問題だぞ?」
言われてカインは深い溜息を吐き、それをアインは黙って見下ろす。
「で、あの女は結局何なんだ?」
「よく分かんないけど、向こうから話しかけてきたよ。僕は他の人と目が違うんだってさ」
「ほう?」
カインが答えると、アインはリースの消えた方向をじっと見る。
「……まあ、程々にしておけ」
「言ってる意味が分からないよ」
「詳しく言ってやろうか?」
「遠慮しとく」
カインがアインから目を逸らした直後、頭にコンと木の実がぶつかった。
「ん?」
見上げてみれば、そこには木の枝に止まった黒鳥の姿。
アインと同じザダーク王国の諜報部隊に属する魔族、ツヴァイだ。
カインが黙って木の実を投げ返すと、黒鳥はヒラリと避けて翼を馬鹿にしたように広げてみせた。
「ぐっ! こ、このお!」
地面の石を拾い上げたカインの頭を、アインが軽く小突く。
「そのくらいにしとけ。まったく……どうして仲良くしない」
「だってアイン。あいつが毎回……」
「私がよく言っておく。だが……そうだな、一度何処かで殴り合えばいいかもしれんな」
「何で!?」
思わず叫ぶカインに、アインはうむと頷く。
「相互理解には殴り合いが一番だ。私達の間で古来続く友情確立の方法だぞ」
「……殴り合った後、夕日を見て仲良くなるのかな」
「そういった風習はないな。だが、こっちにも似たようなものがあるなら話は早い」
頬を掻くカインに、アインは再び頷いてみせる。
「この件が一段落したら、是非そうするといい。互いに分かり合えるだろう」
「そうかなあ……」
「ああ、そうだとも」
自信満々に言うアインに、カインはあまり納得のいっていない表情をしながらも曖昧に頷いた。
「でもそうなると、僕とアインは分かり合ってるのかな?」
「私とお前がか? だが殴り合っていないだろう?」
「何で殴り合うのが前提なのさ……」
深く溜息を吐くカインに、アインはわけが分からないといった顔をする。
「で、カイン。あの女は結局、お前の目とやらについて話をしに来ただけか?」
「えーっと……お友達だってさ」
アインはそれを聞いてしばらく考え込んだ後、ぽつりと呟く。
「しかし、あの顔……」
「うん、イースに似てた」
「調和の魔王」を名乗り、暗黒大陸に攻め込んできたイクスラース。
命の神フィリアに利用されていたことが判明し、魔王ヴェルムドールが生命の核といえる命の種に干渉してその呪縛から解放した少女である。
そんな事情など知らないカインが、イクスラースを――イースを一人の友人として扱っていたことはアインも知っている。
彼女が今何処で何をしているかも当然把握しているが、カインにそれを話していいという許可は受けていない。
「……でも、あれはイースじゃない」
「そうだな」
カインは、ある時を境にイースについて話すことが少なくなった。イースとの間に何があったのかは不明だが、彼女を忘れていないことは今の態度からも明らかだ。
肝心のイクスラース本人は当時の記憶に混乱が見られ、カインとのやりとりなど、あまり詳細には覚えていないようである。
……何か、手を打つべきではないのか。
そう考えたアインは、木の枝に止まっている黒鳥に視線を向ける。
黒鳥はそのまま森の中へと消え去り……代わりに、一匹のネズミがやってきた。
やけに毛並みのいいネズミはそのまま木の上に登り、カインとアインをじっと見下ろし始める。
「……」
黙り込む二人の視線の先では、人々が広場で焚き火を囲んで談笑している。
「行かなくていいのか」
「アインこそ」
「……ああいうのは嫌いでな」
「僕もだよ」
社交的でない、というわけではない。
だが、あれは歪んでいる。薪から立ち上る火の揺らめきのように。
皆で一つのことを行って生まれる共同幻想。作為的なその歪みが、二人の目には見えているのだ。
「こうして第一王女のもとに向かう……か。着く頃には希望に満ち溢れているのだろうな」
それは根拠のない希望だ。
この仲間となら、やっていける。この人達なら、信じられる。
カシナートまでの旅は、そんな心を醸成させていく儀式なのだ。
「冒険者学校でも、連帯感を育むために似たようなことはするけど……これはもう、洗脳だよ」
この儀式は、会ったこともない第一王女ナリカの幻想を抱かせるために行われている。
ちょっとした会話の合間にさりげなく、あるいは、先程の演説のように堂々と。
あらゆる手段で「素晴らしい王女ナリカ」を刷り込み、同時に「悪辣なる王女セリス」も植え付けていく。対比することで、価値観をどんどん塗り替えていくのだ。
考え方の変化といえば聞こえはいいが、要は洗脳でしかない。
一歩離れてみるとこんなによく分かることが、一体感という網の中では誰も気づかない。いつの間にか絡め取られているというのに。
「……」
まるで、緩やかに毒を盛られているようだ。
そんなことを考えるカインの耳に、突如、悲鳴が聞こえてくる。
「ビ、ビスティアだああ! ビスティア共が来たぁあ!」
俄にざわつく広場で、騎士達が落ち着くように、と叫ぶ。
「大丈夫だ! 我々がいる! 悪しき魔族共など、この剣で斬り捨ててくれる!」
朗々と叫ぶ騎士達を見て、カインは、いつか見た旅の一座の役者のようだ……などと考えていた。
2
「ガアアアアア!」
「かかってこい、魔族め!」
棍棒のようなものを持った豚のビスティアに、一人の騎士が斬りかかる。
滅茶苦茶に振り回される棍棒をアッサリとかわして放たれた一閃は、豚のビスティアの腹を斬り裂き、続けざまの一撃が首を刎ね飛ばした。
ドウと音を立てて無様に転がった死体を蹴飛ばすと、騎士は次のビスティアへ向かっていく。
「俺に続け! 民を守るんだ!」
「おう!」
掛け声とともに豚のビスティア達に向かう騎士達を、カインとアインはぼうっと眺めていた。
騎士の奮闘に歓喜する民衆の声すらも、遠く聞こえる。
「……お前は真っ先に飛び出すと思ったが」
「こんなところで目立てないよ。それに……たぶん、これは仕込みだ」
「仕込み?」
アインが聞き返すと、カインは頷く。
「あのビスティア達……一匹も刃物を持ってる奴がいない」
言われてアインは、確かにと思う。
武器は棍棒らしきものばかりで、刃物を所持しているビスティアはいない。
しかし、それがどうしたという程度のことではある。加工の必要な刃物と比べて、入手しやすい棒などに武器が偏るのは、ある種当然だからだ。
「まあ、そういうこともあるだろう。いかに手先の器用なビスティアといえども、刃物の調達は容易ではあるまい」
「……そうだね。でも、ビスティアは狡猾でもある。武装した騎士のいるところをこんなタイミングで襲うなんて、おかしい」
人類領域であるシュタイア大陸に棲息するものに限っていえば、ビスティアは狡猾だ。
敵を見つけたらすぐに突撃するゴブリンと違い、襲うタイミングを慎重に計る。相手が寝静まったところを大多数で襲うなど、とにかく少しでも有利な状況で戦おうとするのが基本だ。
しかし、今回はどうか。
談笑こそしていたが、騎士の警備があるところに大したことのない数で現れた。
これでは、殲滅してくれと言っているのと同じだ。
カインが飛び出さなかったのは、民を守る意識よりも、そんな違和感が勝ったからであった。
そして予想通り、豚のビスティア達はあっさりと全滅し、騎士達の勝利の声と歓声が響く。
「見よ、光の神のご加護は我等にあり!」
高々と剣を掲げる騎士達を取り巻く歓声は大きくなっていく。
感動して涙を流す人すらいる中で、それと対照的にカインの頭はさらに冷えていった。
「……まるで、倒されるために出てきたみたいじゃないか。あまりにも奇妙すぎる」
「……つながっている、と?」
「つながっている必要はないよ。ゴブリンやビスティアをけしかける方法なんて、いくらでもある。とにかく、このタイミングで仕掛けた奴がいるんだ。その目的は……」
カインとアインの視線は、熱狂する同行者達を捉えた。
光の神とナリカの名を叫ぶ彼等の瞳には、濃い希望の色のみが宿っている。
「危機を乗り越えたという共有心理の形成。それで間違いないと思う」
「洗脳の最後の仕込みというわけか?」
「たぶんね。このあとはもう、カシナートまで最短ルートを進むんじゃないかな」
そう、ナリカ王女に会わせるための下準備は全て完成した。
幾多の困難を乗り越え、希望の都にたどり着く……という筋書きだったのだろう。
「……実にくだらんな。茶番とでもいえばいいのか?」
吐き捨てるアインの足元で、ネズミが小さく鳴いた。
何かを伝えるように何度か鳴くネズミを見下ろすと、アインはカインの肩を叩く。
「……少し離れる。お前はその洗脳とやらにやられるなよ」
「うん、分かってる」
森の中へと消えていくアインに視線を向けず、カインは答える。
カインは広場の人々を眺め、口元を引き結んだ。カシナートに着いてからが本番だ。自身の役割を果たすためにも、あの波に呑み込まれるわけにはいかない。
「どうしたの。考え事?」
「ん? うん、まあね」
不意に顔を覗き込んできたのは、あのリースとかいう少女だった。
イースそっくりの笑みを浮かべた少女に気づいて、カインは照明の魔法を頭上へと展開させる。
「あら、そんなに暗かった?」
「暗いのは目に良くないからね」
「そうなの?」
「うん」
答えるカインにリースはおかしそうに笑う。
そんなリースをカインがじっと見つめていると、リースは苦笑した。
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