勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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6巻

6-2

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「……結論から言えば、問題ない。先程魔王様がやってきて対処された」
「そうか。今、王は何処どこに?」
「南部だ。こいつらの仲間とおぼしき赤い騎士を捕らえたそうでな」

 赤い騎士……サンクリードに視線で問われ、イクスラースはうなずいてみせる。

「たぶん、私の騎士の一人……オルレッドだと思うわ」
「だ、そうだ」
「そうか。それで、そろそろ何をしに来たか教えてもらえるのだろうな」

 ゴーディが話を戻した。
 確かに、彼らは対処済みで思考制御が解けているならば、すでに危険性はないとも思える。それでもやはり、万が一を考えればイクスラースと彼らを会わせるべきではない。
 何しろ、恐らくイクスラース達を操っていた相手は、命の神フィリアなのだから。
 命の神フィリアは人間にあがめられている女神で、命の種を扱うとされている。
 かつて勇者リューヤの召喚に力を貸して聖剣を与え、魔王を倒すために神託を授けたのも彼女だ。
 まだ何かがあるかもしれないと警戒するに越したことはないだろう。

「なに、簡単な話だ。すでに戦いは終わった。それを主人から伝えれば、その二人も大人しくなるだろう?」

 そう、ファイネルは知っている。
 目覚めた騎士二人が暴れたのは、主人の安否が不明であるからだ。
 何をおいても、仕える主人の身の安全を最優先する。
 真の騎士とは、そういう生き物であるらしい……と、いつだったかルーティに聞いたことがあった。
 昔、勇者リューヤとともに前魔王グラムフィアを倒した、ジオル森王国の英雄ルーティ・リガス。ファイネルは彼女がリューヤとともに暗黒大陸に乗り込んできたときからの知り合いであり、今となっては良き友人である。
 ルーティの言う通りなら、二人の騎士の目の前にイクスラースを連れてくれば、目覚めても暴れるようなことはないだろうと考えていたのだ。

「まあ、筋は通っているな」

 サンクリードがうなずくのを見て、ゴーディはさん臭そうな顔をする。

「……そう上手うまくいくか?」
「いかなければ別の手を考えればいいではないか。そうだろう?」
「それで責任をとるのは誰だと思っているのだ……」

 ブツブツとつぶやきながらも、ゴーディは二人の騎士を起こすべく両手を小さく振り始めた。



 3


「シロノス、ブルータス。起きなさい」

 イクスラースの呼びかけで、ゴーディに振られていた二人の騎士は覚醒する。
 目覚めると同時に、自分達が巨大な石像に握られていることに気づいて暴れようとしたが、すぐに主人の声の聞こえた方へと視線を向けた。

「イクスラース様、ご無事でしたか!」
「ええ、無事よ。どちらかというと、今の貴方あなた達の状態のほうが心配かしら」
「……私達は問題ありません。しかし……!」

 巨像の掌中にとらわれた白騎士シロノスは、自分を握りしめるゴーディと、イクスラースを抱え上げているファイネルを交互に見る。
 自分の置かれた状況が分からないのだろう。
 それを察したイクスラースは、静かな、それでいてよく通る声で告げる。

「戦いは終わったわ。そして、もう戦う理由もなくなった」
「それは、どういう……こと、ですか?」
「そのままの意味よ。私は私自身を取り戻した。だからこそ、ヴェルムドールと戦う意味はもうないのよ」

 その言葉に、シロノスとブルータスは無言のまま自分の主を見下ろしていた。
 しばしの沈黙の後、口を開く。

「……こころのままに」

 それに合わせたかのように、この場に新たな声が響く。

「これで戦いは完全に終結というわけだな」

 魔王ヴェルムドールである。

「魔王様……いつお戻りに?」

 驚いた顔で振り向くファイネルに、裏口から現れたヴェルムドールは肩をすくめてみせる。

「ほんの少し前だな。ああ、ゴーディ。二人を下ろしてやれ」
「はい」

 ゴーディから解放された二人は、すぐにファイネルに抱えられたイクスラースに駆け寄っていく。

「イクスラース様! ……申し訳ありませんが、主をこちらに渡していただけますか?」
「ああ、構わん。ほれ」

 シロノスに促されるまま、ファイネルはシロノスの腕の中にイクスラースを移動させる。
 そこに、先ほどまでの石像から魔人形態へと変化したゴーディがやってきて、ファイネルの頭をパコンとはたいた。

「な、何をする!?」

 とつじょはたかれたファイネルは驚き、ゴーディをにらみつける。

「何をする、ではないだろう。お主はほうか? 敵に首領を渡せと言われて素直に渡す奴が何処どこにいる」
「し、しかし! 魔王様も戦いは終結したと! 戦いが終わったなら、もういがみ合う理由はないだろう!」
「そういう問題ではない! 少しは頭を使えと常々言われているだろう!」

 いらつゴーディはファイネルの頭を小突き、パコン、パコンと軽快な音を響かせる。
 その様子を苦笑しながら眺めていたサンクリードであったが、ゴーディはこれをギラリとにらみつけた。

「お主もだぞ、サンクリード! すぐそばにいながらほうを止めぬもまた同罪だ!」
「ああ、すまん。だが敵意は感じなかったしな。特にそういうのにさといファイネルが気を許していたわけだし、あまり心配もしていなかった」
「感覚でモノを語るな!」

 なぜかゴーディの手はサンクリードではなくファイネルに向かい、パコーン、というひときわ軽い音が鳴り響いた。
 少し涙目になったファイネルが、たまらずゴーディに突っかかる。

「ええい貴様! 先程から私の頭をパコンパコンと……私は私なりに考えて行動している!」
「嘘をつくでないわ! お主が動く前に考えたことなど、それがしが知る限り一度もない!」
「あー……そのくらいでな?」

 ヴェルムドールが咳払いをし、目を丸くしているイクスラース達を指し示す。
 すぐさまゴーディは何事もなかったかのように直立不動に、ファイネルは涙目のままヴェルムドールにすがりついた。

「しかし魔王様! ゴーディが私を馬鹿にするのです!」
「ああ、うんうん。分かっている。俺は分かっているから大丈夫だぞ」
「そ、そうですよね!」
「ああ、そうだな」

 何を分かっているのかは一切言わないヴェルムドールだが、ファイネルはそれを聞いて落ち着いたのか、涙をぬぐった。

「フッ……見たかゴーディ。魔王様は分かってくださっている!」
「ああ……うん、そうだな。それがしが悪かった」

 目を逸らすゴーディと、すっかり調子を取り戻したファイネル。
 ヴェルムドールはその二人から視線を外すと、イクスラースに向き直った。

「さて、あー……本題を忘れそうになったが、これで俺達の戦いは終結だ。元々得るもののない戦いだ。これ以上は色んな意味で無駄だしな」

 その言葉に、イクスラースがピクリと眉を動かす。

「次元城は、貴方あなた達に制圧されたと思っていたのだけれど。あれは得るものに入らないのかしら?」
「ん?」

 それを聞いて、ヴェルムドールは意外そうな顔をする。
 きょとんとした様子のイクスラースを見て、頬を軽くいた。

「……なるほどな。するとアレもフィリアのわざか……?」
「どういうことかしら」
「いやな、その次元城とやらだが……突然魔力が消失したらしくてな。俺も見たが……あれは、どう見ても普通の城だぞ?」

 その言葉に、イクスラースもシロノスも、そしてブルータスも驚いたような顔をする。
 次元城は戦いが終わるより前に、西方軍によって制圧されていた。
 そしてすぐに内部の調査が始まったのだが、そのときすでに次元城を覆っていた全ての魔力が消え去っていたのだという。
 城が奪われるのを防ぐためにイクスラース達がそうしたトラップを仕掛けていたと推測していたのだが、この反応ではそれもまた違うということだろう。

「まったく……魔王城がここまで壊れたなら、いっそ全部壊して次元城を持ってくるのもアリかと思ったんだがな。上手うまくいかないもんだ」

 落胆した様子のヴェルムドールに、サンクリードが疑問を呈する。

「魔力を注ぎ込めば動くとか、そういう仕掛けではないのか?」
「それに該当するような機能を持った魔法具はないそうだ。一応ロクナにも見てもらったんだが、私は建築家じゃねーぞって嫌味を言われたくらいだ」

 その光景を想像して、サンクリードは思わず噴き出す。
 ロクナは魔王軍の参謀役で、とくに魔法に関しては魔族一詳しいと言っても過言ではない。口は悪いものの、こういうときは頼りになるのだが。
 サンクリードの反応をヴェルムドールは半眼でにらみ、イクスラース達へと視線を戻す。

「ああ、でもアレだ、完全に得るものがなかったわけじゃない。お前の持っていた模造聖剣とやらは勝手にもらったからな。ちなみに、何処どこで手に入れたかは覚えてるか?」
「気がついたら持っていたわ」

 だろうな、と言ってヴェルムドールは溜息をついた。
 元々、そこにはあまり期待してはいない。
 思考制御をされていたため、特に意識することなどなかったのだろう。
 何か命の神フィリアに繋がる情報を持っていたとしても、敵がみすみすそれを放置しておくとは思えなかった。
 何しろ、イクスラースの命の種に接続したヴェルムドールに直接干渉してくるような仕掛けを施す、タチの悪い相手なのだ。

「……それよりも、いいのかしら」
「何がだ?」
「私達を、殺さなくていいのかしらと聞いているのよ。最低でも拷問くらいはされると覚悟していたわ?」

 淡々と言うイクスラースに、ヴェルムドールは訳が分からないと首を振る。

「それをやって、俺に何の得があるんだ?」
「戦いに負けた者の結末とは、そういうものでしょう。勝者は得られるだけの情報を得て、敗者を悪として断罪する。それで全てはめでたし、よ」
「そんなものは知らん。馬鹿馬鹿しい」

 確かに、それはある意味真実だ。
 戦いとはつまり、悪の責任の押しつけ合いである。
 大義という名の拳で殴り合い、勝者には正義という名のトロフィーが与えられる。
 それは遥か昔から、変わることのない一つの真実だ。
 人と人との戦争。
 人と獣との闘争。
 そして、人と魔族との戦いも同じ。
 それは自らを正義と定義するがゆえに起こる争いである。

「俺は正義を名乗った覚えはない。無論、悪を名乗った覚えもないがな」
「……なら、貴方あなたは何なのかしら」

 その問いに、ヴェルムドールは迷いなく答える。

「魔王だ。故に、正義を名乗ってさつを貫くつもりはない。だが、悪を名乗ってぎゃくさつをするつもりもない。ただそれだけだ」

 もし必要だと思えば、暗黒大陸を統一する際にしたように、邪魔な者をぎゃくさつすることもいとわない。
 勇者にしても、もし自分を殺そうとするならば全力で受けて立とう。
 だが、そうでないなら勇者などどうでもいいのだ。
 自分の知らないところで、勝手に世界を救ってくれればいい。
 ヴェルムドールは本気でそう思っている。
 しかし、そうはならないだろうとも考えていた。
 だからこそ、人類領域のあちこちにちょうほう部隊を放ち、一方で人類との友好も進めているのだ。
 全ては勇者を召喚させない状況を作るために。

「……さて、そこでだ。確かにお前達は敵だったかもしれないが、お前達三人が直接あやめた者は今のところいない。黒幕は命の女神だというのも分かっている。そもそも論で言えば、やはり奴のわざだ。となれば、お前達を断罪する理由はない」
「でも、貴方あなたを殺そうとしたわ?」
「そうだな。だが、俺が魔王として最初に出会った魔人は俺にいきなり飛び蹴りしてきたからな。アレも後から聞いたら、俺に殺されてもいい、とか考えてたらしいしな」

 懐かしそうに、ヴェルムドールは目を細める。
 魔人オルエル。今ではヴェルムドールの忠実な部下である彼も、元々は敵だったのだ。

「……それともまだ俺を殺したいか? そうだな、お前は部下を一人殺されている。その仇討ちという理由はあるか」

 クロードのことを言っているのだと、イクスラースは理解する。
 だが、それを恨むのはそれこそおかどちがいというものだろう。
 彼に時間稼ぎを命じたのはイクスラースだ。
 その結果クロードが死んだのも、やはりイクスラースの責任である。
 イクスラースは静かに首を横に振った。

「……私にはもう、貴方あなたを殺す理由なんて何一つないわ。むしろ、貴方あなたに恩を返さなければならない立場よ」

 殺されて当然だった。
 しかし、ヴェルムドールは殺さないどころか、イクスラース達を思考制御から解放したのだ。
 それだけではない。
 イクスラース自身はもっと根深いものから解き放たれている。
 いけにえおり
 自分自身ですら知らなかったそのかせを、イクスラースは壊してもらった。
 それ以外にも、ヴェルムドールに感謝したいことは、まだたくさんあるのだ。
 暗黒大陸を混乱させたという後ろめたささえなければ、涙を流して抱きついていたかもしれない。

「恩返し……か」
「ええ、この身体を差し出せと言うならば……それでも構わない。貴方あなたにはその権利がある」
「必要ありません」
「必要ないね」

 イクスラースが言い終えた直後、ヴェルムドールの背後に現れた二人のメイドが口を揃えて申し出を拒否した。
 ヴェルムドール直属のメイドナイト、イチカとニノである。
 ニノはヴェルムドールの腰に抱きつき、イチカはヴェルムドールを覆い隠すようにすっと前に出た。
 早くも何やらけんのんふんが漂い、ヴェルムドールは遅れて口を開いた。

「あー……権利はともかく、そんなことは言わん。安心しろ」
「いいえ、そんな権利も必要ありません。ヴェルムドール様がけがれます」
「そうだよ。ニノがいれば魔王様はいつでもパーフェクトだもの。他の奴なんていらないよ?」
貴方あなたもですよ、ニノ」

 にらみ合いを始めるイチカとニノに挟まれたヴェルムドールは、溜息をついて空を見上げた。
 ふと思いついたように壊れた魔王城を振り返ると、イクスラースに告げる。

「ああ、なら……そうだな。あの魔王城の修復と改装をな、お前達に任せよう。サポートはファイネルと東方軍をつける。どうだ、いい考えだろう?」
「……それは、何と言うか……いいのかしら。いえ、やれと言うならやるけども……」
「構わん、俺が許す。やってみろ」

 何か言いたげなゴーディもイチカも、ヴェルムドールがそこまで断言してしまっては口を挟むこともできない。
 こうして、魔王城修復計画はスタートしたのだった。



 4


「……ご説明頂けますか」
「ええ、説明を要求します。あれは如何いかなる理由からでしょう」

 椅子に座るヴェルムドールに、イチカとゴーディが詰め寄る。
 城の執務室が壊れたため、ヴェルムドールは私室を仮の執務室として、そこで書類の処理をしていた。机の上にはいくつかの書類が載っているが、イチカとゴーディに両側から迫られている状況では、そちらに意識が向くはずもない。
 相手がヴェルムドールでなければ胸ぐらをつかんできそうな勢いの二人に、ヴェルムドールは涼し気な顔で答える。

「どうもこうもな。アイツ等が壊したものをアイツ等に修復させるのは当然だろう?」
「敵ですよ?」
「元、な」

 気楽な調子で答えるヴェルムドールに、ゴーディはまだ何か言いたげな表情で黙り込む。
 確かに筋は通っているので、反論の材料が見つからないのだ。
 そんな様子を見てイチカは溜息をつき、ヴェルムドールを無表情でにらみつけた。

「ヴェルムドール様。一体、何をアレの中で見たのですか?」
「……それは何の話だ、イチカ殿」
「ヴェルムドール様の能力の話です。ヴェルムドール様はあのとき、イクスラースの命の種に接続していたはず。そのときに、何かを見たのですね? イクスラースへの今の対応は、それが理由なのでしょう?」

 ゴーディに短く返すと、イチカはヴェルムドールに一層詰め寄った。
 顔の間近まで迫ったイチカにえられ、ヴェルムドールは仕方ないといったように口を開く。

「……まあな。だが見たのは命の種に接続したときじゃない。その後だ」

『その後』――この言葉が指すのが、ヴェルムドールが倒れた後だとイチカは理解する。
 ヴェルムドールはイクスラースの命の種に接続して改変を加えたとき、自身の魂にダメージを受けて倒れてしまった。
 意識のない間、身体はヴェルムドールのかつての人格である「リョウ」が動かしていたので、ヴェルムドール本人は眠ったまま魂を修復していたのだと考えていたのだが……どうやら今のヴェルムドールの様子を見る限り、そうではなかったようだ。

「実はな、あのとき俺の魂の情報の一部を別の場所に保管していたんだ」
「そのようなことができるのですか……いや、しかし。魂の保管など、一体何処どこに?」

 理解がなかなかついていかないゴーディとは違い、イチカはその意味を自分なりに真剣に考える。
 そして、すぐに思い当たった。

「イクスラースの中、ですか」
「その通りだ。アイツの中に、俺を一時的に保管した。まあ、俺もやってみた後で実際できると理解したんだがな」

 ほぼ無意識でやっただけに、再度意図的にやれと言われてもかなり難しいものがある。
 しかし、できたものはできたのだ。

「それで、まあ……アイツの魂に刻まれた情報を色々と読んでな? いや、わざとやったわけじゃない。そもそも魂の情報の公開度なんてものは外部向けであって、内部に潜り込んでしまうと意味がないというかだな」
「……ヴェルムドール様。私達にそれ以上込み入ったことを説明されましても、理解が届きません。概要と結論だけで結構です」

 難しい顔をして考え込んでしまったゴーディを横目にイチカが言うと、ヴェルムドールはうなずいた。
 簡単に言えば、一時的にヴェルムドールはイクスラースの一部になったのだ。
 当然の話だが、他人に対してならともかく、自分自身に隠し事をすることなどできない。
 たとえ本人が忘れたことでも、それらは魂に情報として刻まれている。
 故に、ヴェルムドールは色々と知ってしまったのだ。
 イクスラースの魂に絡みついていたいけにえおりの詳細も、イクスラースの真実も何もかもを、である。
 命の神に関する事項は消されたのか元々ないのか分からなかったが、それでもイクスラースが何者であるかは概ね理解できてしまった。
 ヴェルムドールがそう一通り説明すると、ゴーディが口を開く。

「……あー……それがしにはよく理解できませぬが、つまり本人の了承なく色々のぞいてしまったことを申し訳なく思っているが故の温情である、と?」
「ちょっと違う。むしろ、あのイクスラースという魔族をこれ以上ないくらい理解したが故の処置だな」

 そう言って、ヴェルムドールは笑う。
 ヴェルムドールはイクスラースの真実を理解した。
 そしてその情報を少しだけいじり、イクスラース自身が真実を知るように仕向けた。
 だからこそ、イクスラースは自分達の味方になると確信しているのだ。

「……なあ、お前達。疑問に思ったことはないか?」

 ヴェルムドールは机をコツン、と叩く。

「神話によれば、最初に命の神フィリアが人間を創った。そして、その後に別種族が生まれた。これらの種族は、何らかの神を信仰し加護を受けている。いや、種族そのものが影響を受けていると言ってもいい。これは何を意味している?」

 たとえば、シルフィドだ。水の神アクリアと風の神ウィルムを信仰する彼等だが、実際には風の神ウィルムの加護を受ける者が多い。動きが素早く、自然と風とともに生きる種族だ。
 そして、メタリオ。火の神アグナムと土の神アトラグスを信仰する彼等もまた、どちらかの加護を強く受けているだろう。
 さらに言えば、聖アルトリス王国の大神殿では、命の神の加護を受ける人間が神官を務めている。

「俺はこう考えている。影響を受けた神の種類によって、種族が変わっているんじゃないか……とな」
「し、しかし……それだとハーフやクォーターの説明がつきませぬ」

 ゴーディの反論に、ヴェルムドールはうなずく。

「そうだな、その通りだ。だがそれも、たった一つの推論で説明がつく。つまり、神が関わったのはその種族の最初の誕生のときだけだということだ」

 その後は、それぞれの種族に任せるままになっている。
 そうであれば、ハーフやクォーターが生まれる説明もつく。
 そして何よりも、現在は同じ種族でありながら、違う神の加護を受ける者がいることにも納得できてしまうのだ。
 原始以降は神の加護に関しては自由――ということなのだろう。
 何とも無責任な話だが、風の神ウィルムが魔族であるニノに加護を与えようとしたことからも、その推論が間違っているとは思えない。

「しかし……それが先程のイクスラースの話とどう関係してくるのですか?」
「ん……まあ、あわてるな。話は此処ここからだ。つまりな、神の影響で種族が分かれたとする。しかし、それにしては少ないと思わないか?」
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