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連載
傷痕7
しおりを挟むレイナが城を出て行く。
それはレイナがセリスにのみ話した事だが……どうやら、セリスの部屋に入り浸っている間にエルトリンデもセリスに聞いたのだろう。
「ええ、そのつもりですが」
「……何故だ。お前はこれからにこそ必要な人材だろう」
「いいえ、私はこれからのキャナル王国に最も不要な人材です」
今すぐ、という話ではない。しかし遠くは無い話だ。
すでにセリスがアルヴァに殺される危険性は消え、ルビアも側についている。
更には今後ライドルグの降臨により……といってもライドルグがどちらの大陸にいるつもりなのかは不明だが、キャナル王国は更に発展の時代を迎えるはずだ。
それはキャナル王国が大きく成長する時であり、レイナという「補助」が居てはならない時期でもある。
いわばセリスも一人の女王として巣立ちの時であり、もはやレイナに「保護」される必要など無いのだ。
「ルビアがいる。貴女がいる。セリスを慕ってやって来た国民がいる。ならば私はもう必要ありません」
「お前を慕っている者もいるだろう。それに……セリスが苦しい時に支えてやれたのはお前だ。あの子には、まだ」
お前が必要だ……と言いかけるエルトリンデを制し、レイナは首を横に振る。
「あの子が必要とするものは、私以外であるべきです。たとえば……貴女とか」
そう、セリスは家族に愛されなかった。
母からは蛇蝎の如く嫌われ、父親からは存在を無かった事のように扱われ。
姉であるナリカからも忌み嫌われていた。
その中で唯一気にかけていたエルトリンデは遠ざけられていたが……今となっては、そんな障害も存在しない。
ならば絆を取り戻すべきはこれからであり、そこにレイナが介在する理由は無い。
「……だが、お前がいてはならない理由にはならないだろう」
「私の存在は平時においては混乱を招く要因にしかなりません。すでに兆候は見え始めています」
そう、「伝説のメイドナイト」であるレイナの名前は非常に重い。
彼女こそが全てのメイドナイトの祖であるとする研究者は多く、またメイドナイトを目指す者達にとっての憧れの人物でもある。
そうした人々にとってキャナル王国という地は内乱で荒れていた地故に中々踏み込みにくい場所であり、それ以降も治安の悪化を懸念し中々足を踏み入れにくい場所ではあったのだが……それでも、来たいと思う者はやってきていた。
そしてアルヴァ戦役が終わりほとんどの懸念が消えた今、そうした者達はレイナに会おうとある者は旅に出たり、またある者は「本物のレイナであるかどうか」を確かめようと情報を集めたりしている。
彼等がキャナル王国に集まるのも時間の問題であり……そうした者達の中には「まともでない」目的を持った者も当然いるだろう。
実際、中小国レベルではあるがレイナを招こうとしている国もあるという噂もあり……四大国の一角であるキャナル王国に何を出来るわけでも無いだろうが、この国の諜報部隊が未だ再建途中な以上、絡め手でこられた場合に面倒なことになる。
また、そうしたレイナの信奉者が集まるという事自体が結構な面倒事を招く可能性もあり……下手をするとレイナに会いに現役のメイドナイトが集まったり、それを従えたい貴族なりがやってくる可能性すらある。
そしてそれは「平穏」が見えてきた現状、いつでも……いつまでも起こりうるのだ。
「だが……何処に行くというのだ? その理屈では、お前は」
「それが私の宿命です」
そう、故にレイナはこれまで永遠に近い時を流離っており……それはこれからも変わりはしない。
この国に長居していた事自体が、レイナにとっては一つのイレギュラーに近い気紛れであったのだ。
「……そうですね。一度、暗黒大陸にでも行ってみましょうか。その後はまたあちこちを……」
そこまで言いかけて、レイナは弾かれたように右へと振り向く。
だがそこには何も無く……エルトリンデは「もしやアルヴァか」と剣に手をかけ……しかし、レイナにそれを制される。
「いいえ、アルヴァではありません。この魔力は……」
「知り合いか?」
「……恐らくですが、ザダーク王国の国王殿が来たようですね」
「んなっ!? そ、そんな先触れは受けていないぞ!?」
ヴェルムドールがそんな事に気が回らないわけが無い。
となると、ヴェルムドールでも御しきれないような「何か」を帯同しているのは確実だ。そして、そんなものは恐らく世界でも一人しか居ないだろう。
「まあ、使者はすぐに来るでしょう。彼が行く所といえば一つしかないでしょうしね」
「……復興計画本部か」
ふうと溜息をつくエルトリンデに、レイナは気付かれぬように笑う。
散々政治には不向きと言われてきたエルトリンデだが実際宰相などという地位を任されてみれば、未だ頼りないセリスをサポートしようと頑張っている。
その中には今までほとんど何も出来てこなかった「姉」としての不器用なコミュニケーションもあるのだろうが……その「私の背中を見て育て」的な手法は、実に彼女らしいと言わざるを得ないだろう。
「とにかく、そうなると迎え入れる準備を……おい、誰か! すぐに歓待の準備をしろ!」
慌てたように駆けていくエルトリンデを見ながら……レイナは身を翻し廊下から姿を消した。
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