勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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神の条件2

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 この次元の狭間を極彩色に彩るのは、フィリアが長年をかけて溜め込んだ魔力。
 極彩色であるのは、謎の存在である魔神を確実に倒す為に様々な属性を混ぜ込んだ結果だろうが……「魔力の神」になろうというヴェルムドールには、実に丁度いい話であった。

「あの魔力を貴方に……?」
「出来ないとは言わせん。イクスラースから力をアルヴァクイーンに移し変えたのも、その逆をやったのもお前なのだからな」

 ヴェルムドールの言葉にフィリアは考えるように黙り込み……「出来ないわけではありませんが」と前置きする。

「貴方の提唱する理論が正しいならば、それで貴方は神になるのかもしれません。ですが……肉体の限界を超える魔力を詰め込んだ生物が辿る道は大抵が自滅。それは肉体が魔力を内包しきれずに放出しようとするからです」

 たとえば、体内に溢れ出ようとする火の魔力が現象と化し本人の身体を焼く発火現象や、地上に居ながらにして溺れた魔法使いの変死事件など……「限界を超えよう」という試みはその大抵が失敗であった。
 その中で「成功」と言えない事も無い失敗例がチェスターの行ったソウルイーター化だが、ソウルイーターが魔力を補給しようと生物を捕食するのは魔力体を構成する魔力が本人の限界よりも大きく、自己で安定供給できない為だ……とも言われている。

「貴方がそうならないという保証はありませんし、それをどうにかしようと貴方の肉体が歪神化しないという保証すらありません」

 そう、かつて自分を限界を超えて強化したグラムフィアは歪神へと堕ちた。
 その責任の所在はさておいて、ただ単純に自分に魔力を詰め込めば神になるというのであれば、チェスターもまたそうなったはずだろう。
 あるいは彼の言っていた「パーフェクター」の理想系は神であったのかもしれないが……今となってはそれを確かめる術は無い。

「貴方の望む事が「肉体の限界を超えた魔力を詰め込む」事であるというのならば、私には魔力体化以外に安定化させる術がありません。しかし、それが望みではないのでしょう?」
「そうだ。むしろ安定化などされては困る。意図的に肉体の限界を超えようというのだからな」

 それはつまり、暴走を厭わないということだが……フィリアはヴェルムドールの真意を確かめるようにじっとその目を見つめる。
 まあ、当然だろう。
 もしヴェルムドールがこの場にある全ての魔力を吸収して歪神化してしまえば、その被害は以前現れた歪神とは比べ物にならないものになるかもしれない。
 当然成った協力関係どころか全ての計画もご破算になり……下手をすれば、世界自体が今度こそ滅んで消えるかもしれない。
 だが、結局はそれ以上何かを言う事を諦めたのだろう。
 小さく溜息をつき、指をパチンと鳴らす。

「ならば仕方がありません。時間も惜しい……始めましょう」
「ああ。そろそろ他の連中も来るだろうしな……舞台は整えておきたい」

 頷くヴェルムドールの頭上で、極彩色の空間の輝きが渦を巻き始める。
 それは次元の狭間の魔力が一点に向けて降りてこようとしている前兆であり……そのあまりにも巨大で濃厚な気配にイチカ達が警戒の様子を見せるが、ヴェルムドールがそれを手を振り押し留める。

「お前も離れろ、魔神」
「なんだよ、つれないなあ。僕がいるかいないかでどうにかなるものでもないだろう」

 あくまで離れる気のない魔神をヴェルムドールがぐいと押しのけ……押しのけた分だけ魔神は近寄ってきて、あげくの果てには腰に手を回して抱きついてしまう。

「いいから始めたまえよ。こんな面白そうなモノの現場にいるんだ。かぶりつきで見なきゃ失礼というものだろう」

 絶対離れないぞと腕に力を込める魔神を再度引き剥がすのを断念し、ヴェルムドールは「もういいからやれ」とフィリアに伝える。
 普通に考えれば巻き込まれる位置なのだが、魔神がそんな阿呆な事にはならないという確信もあるが故だ。
 むしろ無理矢理引き剥がして機嫌を損ねた事で邪魔をされても困るのだ。

「では……今度こそ始めますよ、ヴェルムドール。貴方の中にこの空間に集めた魔力を注ぎこみます」
「ああ」
「じらすんじゃねーよ」

 魔神のヤジを無視して、フィリアが上げた腕を振り下ろす。
 すると上空で渦を巻いていた極彩色の空間が剥がされる様に光の渦となってヴェルムドールへと落下し……ヴェルムドールと、その身体に絡みついた魔神を包む。
 まるで滝壺のような轟音と共に降る極彩色の魔力の柱は周囲にも光を撒き散らしながら、それでも魔力の余波は全く無い。
 それは僅かの魔力も逃すまいとする意思がそこに働いているかのようで……しかし、同時にあんな膨大な魔力の中でヴェルムドールは無事なのかという言い知れぬ不安がイチカ達の中に浮かぶ。

「……念の為に言っておきますが、近づかないように。ヴェルムドールの中に注ぎ込んでいる最中ではありますが、ソレは魔力の塊です。触れればどうなっても保証はできませんよ」

 身体から白く輝く魔力を放出させたフィリアの言葉に、嘘は無い。
 収束できるギリギリまで収束させた魔力の柱は間違いなくヴェルムドールへと注ぎ込まれている。
 だが、その結果ヴェルムドールがどうなるのかはフィリアにも予想できない。
 何より、一緒に「中」にいる魔神が何を考えているのか……これから何が起こるのか。
 何一つ、予想などつくはずもなかった。
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