652 / 681
連載
アルヴァ戦役37
しおりを挟むそれは、紛れも無くライフソードであった。
恐らくは相当の魔力を込めたであろうそれは先程までフィリアが使っていたものとは比べ物にならない程の輝きを放ち、魂ある者が見ればそれだけで畏怖するであろう威圧をも放っていた。
「命の力」という生命の根源に近い魔力を凝縮したグレートライフソードとでも呼ぶべきそれは魔神に振り下ろされ……避けも防ぎもしない魔神を、一閃した。
「……なっ……」
そう、一閃した。
確かに魔神の頭部から足元までを断ち切る一撃は繰り出され、グレートライフソードはその身体を間違いなく通り抜けた。
「魔力体……いや、それでは説明がつかんな」
説明を求めるようにサンクリードはイチカを見るが、イチカもまた首を横に振る。
イチカとて魔神と一緒に過ごしていた時期はあるが、あんな技を使った覚えは無い。
そしてヴェルムドールにも、今の現象は理解できなかった。
剣が対象を通り抜けるという現象はエレメントなどを普通の剣で斬った時に起こる現象ではあるが、それはあくまで普通の剣の話だ。
魔力を通した剣であれば魔力体は普通に斬れるし、斬れずとも干渉することは出来る。
だから、たとえ魔神が魔力の神であろうと……あんな風に剣という形で纏まった魔力に一瞬で干渉できたとしても、それは「ぶつかる」だけで通り抜けるということは有り得ないのだ。
「おっそろしい奴だなー。いきなり本気で斬りにくるのかよ」
「……今、何をしたのです」
「何したと思う?」
おどけるように言う魔神に、フィリアは再度斬り付ける。
縦、横、斜め。
数度の斬撃もやはり同じようにすり抜け、魔神の身体に触れることは全く無い。
無数の斬撃の中で肩を竦める魔神を、誰もが理解できないものを見る目で見る。
幻ではない。
確かに此処にいる。
なのに、全くフィリアの斬撃が幻にそうするかのようにすりぬけている。
「なんなら、アレ使ってもいいよ? ほら、この場所にご大層に溜めてるヤツ。ひょっとしたら僕を倒せるかもしれないぜ?」
「くっ……!」
再度振るわれたグレートライフソードを魔神は、今度は手の平で受け止める。
先程までとは違う感覚にフィリアは動きを一瞬止め……その一瞬で、グレートライフソードが弾けるようにして消え去ってしまう。
「ほーら、剣消えちゃった。どうするよ?」
「何故。何故本体でも無い貴方にこんな力が……!」
「そこだ。ヴェルムドールは君の計画が穴だらけだと言っていたけど、そもそも僕に関する認識が間違ってるんだ」
ヴェルムドールも間違えているけどね、と呟く魔神の手の中には先程消えたはずのグレートライフソードが現れ、その手の中で霞のように溶けて消えていく。
「ヴェルムドール。君の中には僕に関するヒントがあったはずだよ」
「……どういう意味だ」
「あ、やっぱ無理かな。君の材料になった彼は、もう残滓もほとんど残っちゃいないか」
魔神はそう言うと、辺りを見回し……カインを指差して微笑む。
「あるいは、そこの勇者君」
「え、僕!?」
「そうそう、君だ勇者カイン君。君なら分かるかな?」
言われたカインは助けを求めるように辺りを見回し……そして、困ったように「と言われても……」と答える。
ヴェルムドールとカインの共通点。
ヴェルムドールの中にかつて在り、今もカインの中にあるモノ。
「……異界の知識。そんなものがお前のヒントになると?」
そう、かつてヴェルムドールがヴェルムドールとなる前の材料になった男……「リョウ」の持っていた知識。
そして、異界に生まれこの世界に「転生」したカインの持つ知識。
だが……そんな魔神の正体に繋がるような知識を「リョウ」は持っていただろうか?
「神様の定義」
魔神の言葉にヴェルムドールは眉を潜め、カインは考えるように黙り込む。
「カイン君。君が居た世界における「神様の定義」を言ってみてくれるかい?」
「え、ええ? ええっと……祈ったりする存在で、宗教によってそれぞれで……」
「なるほど。どんな神様がいるのかな? 概要でいい。答えてくれないかい?」
フィリアの前から、カインの方へと歩いてくる魔神を見て後ずさりながらカインは「えっと……」と言いよどむ。
「僕の居た世界……っていうか国では、人間っぽい神様の話がありました」
「なるほどなるほど。たとえば、そこのアホ女神みたいに何かを司ったりする神様かな?」
「そ、そういうお話もあったけど……どっちかというと人間より凄い人達みたいな……」
「人を超えた人こそを神と定義したわけだね。他には? 他にはどんな定義がある?」
カインに迫る魔神を見ながら、ヴェルムドールは自分の中にほとんど残っていない「リョウ」の知識を探る。
神の定義。
何故そんなものを魔神が聞きたがっているのかは……恐らく、魔神を誰かが「魔神」と呼んだ理由がそこに在るからだろう。
ならば、魔神の望む答えは……「神の定義」は何か。
ヴェルムドールは記憶の中を探り……一つの知識の欠片を見つけ出す。
それはこの世界においては何の価値もなさそうな、そんな知識の欠片。
だが……恐らくは、これこそが。
「……そうか、そういうことか。なるほど、確かに俺の解答では足りなかった」
ヴェルムドールの呟きを聞きつけ……魔神が、期待の表情で振り返った。
0
お気に入りに追加
1,736
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります
ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□
すみません…風邪ひきました…
無理です…
お休みさせてください…
異世界大好きおばあちゃん。
死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。
すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。
転生者は全部で10人。
異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。
神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー!
※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。
実在するものをちょっと変えてるだけです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。