勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連鎖崩壊10

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 それは突然だった。
 いきなり床が割れたかと思うと、ヴェルムドールの魔剣ベイルブレイドそっくりの何かが突き出し、続けてヴェルムドールの全身像が飛び出し天井に突き刺さったのだ。
 幸いにも本棚も何も無い地点だったので本に被害は無いが、下手をすると其処から色々と崩れてしまうかもしれない。
 簡単に言えば言語道断であり、突如響いた轟音にロクナは指示する手を止めて駆け寄っていく。

「おい、コラ! そんなとこでなにや……って……」

 見上げている杖魔とバッチリ視線があったロクナはピクリと眉を動かすと手を突き出し、無詠唱で火撃アタックファイアを連続で撃ち込む。

「各員に通達! 杖魔とかいう馬鹿が下にいるわよ! ゴーディの奴も呼んできなさい、ぶちのめすわよ!」
「くうっ!」
「何がくうっ、だ! 人の図書館にあんな像撃ち込んでバレないとでも思ったの!? アホなの!?」
「アレは私では……ちいいいっ!」

 ロクナが単体攻撃用としては比較的洒落にならない魔法を準備していると悟った杖魔は視界外に逃れるように走る。
 転移してしまえばいいことなのだが、存在がバレた以上は下手に転移しても追撃がかかる。
 あの小娘をさっさと殺してしまえばよかったと思うも、すでにサシャの姿はそこにはない。
 実は力を使いすぎて水晶珠少女に逆戻りし財宝の中に紛れて転がっているのだが……そんな事を知るはずも無い。

 予定の魔法はまだ準備が完全ではなく、発動することもできない。
 ……要は、サシャという計画外の存在を相手に遊びすぎてしまったのだ。
 かつて勇者リューヤと戦った時から全く治らぬ悪癖であるが、それは別の見方をすれば杖魔に実力が無かったが故に「遊びすぎ」などという事態が起こったとも杖魔は考えていた。
 だが、今は違う。違うのだ。
 杖魔は立ち止まり、追ってきているであろうロクナへと振り返る。

「……来るなら来るがいい。今の私は!」
「どぉでもいいけど。城の中でこれ以上暴れさせるわけにもいかんのよ」

 ロクナが音を立てて足踏みすると、そこから魔法陣が広がり、杖魔を飲み込んで転移する。
 杖魔が「転移に巻き込まれた」と気付いたときには、その姿は魔王城の上空へと投げ出されている。

爆烈轟弾ディ・ボルカノンショット!」
「ぐああ!」

 爆音と共に更に吹き飛ばされ舞う杖魔は、空にアルヴァ達の姿が無い事に気付く。
「ぐ、な、何故アルヴァ共が……」
「当然だ。このアークヴェルムの空を、いつまでも我が物顔で飛べると思ったか」

 杖魔の視界を塞ぐように空を舞う巨体の腕が、杖魔を思い切り殴り飛ばす。
 まるで破城槌が如き一撃を受けた杖魔の身体は空を舞い、更に一撃、また一撃と受ける度に遠くへ遠くへと飛ばされていく。
 それをやっているのは、羽持つ巨大な騎士像……マスターゴーレムのゴーディである。

「ちゃんとソイツぶっ飛ばすのよゴーディ! あたしはサシャを回収してくるから!」
「承知した!」

 ついでとばかりにゴーディは更に杖魔に一撃をいれ……杖魔の身体は、ついにアークヴェルムの外まで吹き飛ばされ落下する。

「ぐ、おお……馬鹿な。私の計画が、あんな小娘一人のせいで狂って……?」
「お主の計画など、その程度であったということだ」

 ゴーディの巨体が着地すると、地面が軽く揺れ……大の字に倒れた杖魔は動かず、そのゴーディの巨体を見上げる。

「巨体ゆえの破壊力……くふっ、実に美しくない。単純すぎて、馬鹿でも結果を出せる」
「言いたい事はそれで終わりか?」
「いいえ。こうなった以上、私も手段を選んではいられない……もう少し、お相手願いましょうか!」

 杖魔は跳ねるように立ち上がると、魔力を一気に集中させる。
 だが、ゴーディにわざわざ付き合う理由は無い。
 一気に踏み潰してやろうと足を動かし……だが、次に杖魔が何かを唱えた瞬間に爆発した魔力に吹き飛ばされるように後ろに下がる。
 そして、その言葉を……ゴーディは、確かに聞いた。

殲魔形態ベイルキラー……だと?」

 それは、イクスラースの配下たる四騎士の奥の手だ。
 巨大な鎧魔族に変化するその技を杖魔が使えるなど聞いた事は無い。
 無い、が……。

「く、くはっ! くははははは!」
 
 目の前で狂ったように笑う巨体。
 赤いローブの残骸をマントのように纏い、半身を黄金の鎧、もう半身を鋼色の鎧に包んだその姿。
 頭部を覆う兜は黒く、その上からつけた白い仮面は何処か滑稽ですらある。
 右手には剣、左手には槍。
 見る者が見れば、そこに剣魔、槍魔、クロード……そうした魔族達の特徴が混ざっている事に気付くだろう。
 その奇妙極まりない姿からはしかし、膨大な魔力が秘められている事が伝わってくる。

「どうです、未だ未完成ではありますが……これこそ最強の魔族たる者に相応しい身体。アルヴァという新しく素晴らしい力あってこそ為せる、極限への進化! こうなった私を滅ぼせる者など……居ない!」

 突き出された槍を、ゴーディは巨大な剣で受ける。
 なるほど、ゴーディに勝るとも劣らぬ凄まじいパワーである。
 最強の魔族を自称するだけはある、が……ゴーディは剣を手放すことで巨大杖魔がバランスを崩した瞬間に、その顔面に腕をカウンターのように叩き込む。
 いわゆる強烈なラリアットを受けた巨大杖魔は大地に後頭部をめり込ませ、痛みと驚愕で声をあげる。

「なあっ……ば、馬鹿な……っ!?」
「最強の魔族だかなんだか知らんが。技無しで私に勝てると思うなよ、阿呆が。巨大で硬く強い。ただそれだけで勝てるほど魔族の世界は甘くないということを教えてやろう」

 そうして、ゴーディの蹴りが巨大杖魔の身体を弾き飛ばす。
 ザダーク王国全土で巻き起こっている戦いの中でも最大最強の戦いは……こうして、ゴーディ優勢のまま始まるのだった。
************************************************
さて、世界の出来事はここまで。
次回、舞台は次元の狭間に戻ります。
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