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アルヴァ戦役17

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「お、おお……すごっ」
「凄いなんてもんじゃないよ。何今の……」

 ラクターの背に乗っているカインの呟きに合わせるように、カインに右からしがみついていたセイラが驚きを通り越して呆れたように呟く。
 セイラからしてみれば、「真っ黒なドラゴンが黒いものを吐いたと思ったら無数のアルヴァが消し飛んでいた」としか見えなかった。
 しかしながら、その「黒いもの」が凶暴なまでの魔力を秘めた攻撃である事は理解できたし、恐らくはあれがラクターのドラゴンブレスであろうという理解も出来た。
 だが……理解できたのはそこまでだ。
 セイラは大貴族の娘でこそあるが、一冒険者として戦いの場に身を置き研鑽を重ねている。
 そして何かとトラブルに首を突っ込むカインと行動しているせいか強者を見れば「敵になった時に自分ならどうするか」を考えるクセがついている。
 今回もラクター相手にそれを考えていたが……「これだ」という手段が全く思い浮かばない。
 
「おお、なんかデケェのくるぜ!?」
「げ、迎撃を! 魔法部隊……」
「邪魔すんじゃねえや、掴まってろぉ!」

 キャナル王国の部隊が動こうとするのを、ラクターの一喝が押し留める。
 飛翔するラクターの前方から飛んで来るのは、先程とほぼ同数のアルヴァ。
 だが、その更に上空。無数のアルヴァ達を従えるように飛んでくるのは、ラクター同様の……すなわち、ドラゴン級の巨体を持つアルヴァ。
 それは他のアルヴァを置き去りにするスピードで接近し……鋭く長い爪を振りかざしラクターを切り裂こうとする。

「ギガゲアアアアアアアアアアアア!」
「うぅぅるせェェェんだよぉぉぉぉぉ!」

 ブレスを吐く事も無く巨大アルヴァと接近したラクターは迫り来るアルヴァの爪を砕き、腕をへし折り……そのまま、巨大アルヴァを力尽くで引き裂いてしまう。
 まともな生き物であったならばスプラッタな光景になったであろうそれも、倒せば黒い霧になってしまうアルヴァではそうはならない。

「そぉら、お前等も消しとべぇ!」

 再び放たれた魔のドラゴンブレスベイルブレスが残ったアルヴァ達を消し飛ばし、高笑いをあげながらラクターは巨大次元城へ向けて飛んで行く。

「ちょっと、ヴェルムドール。協調は何処行ったのよ」
「足並みを揃える事と出し惜しみをすることは違うからな。本隊でも別働隊でもこうして足並みを揃えている。何も問題はあるまい」
「いいのかしら……」

 イクスラースの言葉を聞き流しながら、ヴェルムドールは近くなっていく巨大次元城を眺める。
 巨大次元城。
 そう表現はしたが、イクスラースの使っていた次元城とはかなり異なるものだ。
 まず、城自体の大きさが比べ物にならないほど巨大だ。
 その周りに街のようなものが広がっており、一つの城下町のような姿を見せている。
 だが……その街の住人は当然、人ではない。
 次から次へと飛翔し向かってくるアルヴァの群れに巨大次元城は覆い隠され、見えなくなってしまう。
 だが、それも再びのラクターのブレスで残らず消し飛ばされていく。

「物凄く強いんだね、ドラゴンのおじさんは……」

 蹂躙としか言いようの無い一方的な展開に感覚が麻痺してきたか、セイラはラクターの背中にそう語りかける。
 黒い竜鱗で覆われたラクターの背中は上質の鱗鎧のようになめらかだが、不思議と滑り落ちるようなことはない。
 何故そうなのかは分からないが……今のセイラには、「そういうものだ」と納得できてしまっていた。

「おいおい、何言ってんだ」

 そんなセイラの呟きにラクターは笑い声をあげると、側面から飛んできたアルヴァを爪で斬り飛ばす。

「俺ぁ世界一強ぇ。魔王様を除けばだがな」
「へえ、そうなんだ」
「おうよ!」

 こんな会話の間にもラクターは近寄ってくるアルヴァを撃破し続けているのだが、もはやそんな緊迫した雰囲気は此処には無い。
 ラクターという絶対的な存在が味方であるという事実が、安心感を与えているのだ。

「次元城……勇者リューヤが乗り込んだという場所。あれがそうなのですね」
「なんとも邪悪な雰囲気が漂っている……腕が鳴るというものだ」

 キャナル王国の部隊の指揮官と闘国の特級闘士が前方の巨大次元城を眺めながらそう呟くが、ルーティは難しい顔で「違います」と答える。

「あれは……私達が乗り込んだ次元城ではありません。それに……前回乗り込んだ次元の狭間はこんな場所ではなかった」

 ルーティがかつてリューヤ達と共に乗り込んだ次元の狭間はこんな悪趣味に輝く空間ではなかったし、次元城もあんな巨大なものではなかった。
 それに何より……あの時は次元城の内部に、直接移動したのだ。

「あの次元城はどう見ても別物……あんなものが、何も知らないうちに出来ていたなんて……」
「そんなものだ。いつでもなんでも、気付けば抗いがたいものが出来ている」

 アルヴァの無限にも近い数があれば、短期間で城や街をこしらえる事などは難しくないだろう。
 もっとも、そうだとしたらアレが本当に「次元城」であるかどうかは謎だが……。

「そんなことより、突っ込めばこの快適な空の旅も終わりだ。準備をしておけ」

 ヴェルムドールの言葉通り、巨大次元城はどんどんと近くなってくる。
 別働隊の本当の戦いは、これからなのだ。
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