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連載
アルヴァ戦役8
しおりを挟むザダーク王国軍の陣地の設営は順調に進み、建てられたテントの中にも荷物が運び込まれ始めている。
ラクターなどはすでに堂々と野外で鎧を脱いでいるが、ああなると鎧を着ていた意味があるのかすら不明だ。
サンクリードは鎧を着たままなのか、その姿は見えない。
ヴェルムドールとしてもこれ以上この鎧を着ている意味はあまり無い。
どうせこの後、……いや、ひょっとすると別働隊のメンバーとしてヴェルムドールの名前がもう出されているかもしれないからだ。
対外的には此処に一国の王がいるのは少しばかり問題だが、ヴェルムドールはザダーク王国の最高戦力の一つなので言い訳としては問題ない。
更にヴェルムドールに発言力の面で対抗しようと他の国が王族を担ぎ出そうとしても今更間に合わないし、そもそもヴェルムドールは口を出すつもりも無い。
無い……が、そう言ったところで信じない者は絶対に信じないので「別働隊のメンバー」を各国が秘密兵器ぶって当日まで公表しない流れに乗っていたりしている。
「……俺もそろそろ鎧をどうにかするか」
「ちょっと」
ヴェルムドールが言いながら歩いていると、背後から聞き慣れた声がかけられる。
振り向けば、そこには見慣れない格好の少女が立っている。
白の厚手のワンピースと、黒のタイトなズボン。
鎧は肩と胸元を守る部分鎧と関節、足元を守る各所の最小限の防御で構成されているようだ。
正直に言って「可愛らしい」デザインだが、突き抜けるような赤色の鎧は何処か妖艶な印象もあるだろうか。
ウェーブがかった紫の長い髪がさらりと揺れ、その髪と同じ色の瞳がヴェルムドールを見上げている。
「……なによ」
「意外と似合っているな」
「えっ」
ヴェルムドールがイクスラースにそう感想を言えば、イクスラースは明らかに引いた顔でヴェルムドールから数歩後ずさる。
「……ありえない。ヴェルムドールが誰かの服装を誰に言われるでもなく褒めるなんて。まさか偽者!?」
「タチの悪い冗談だ」
「冗談なんかじゃないわよ。ヴェルムドールがそんな気遣いのできる男なわけがないでしょう」
結構な割合で本気に聞こえるイクスラースの台詞にヴェルムドールは思わず額を指で押さえ……その様子をじっと見ていたイクスラースは信じられないものを見る目でヴェルムドールを見上げる。
「……といってもまあ、どう考えても本物よね。なによ、何処で気遣いを拾ってきたの。まさか自分の命の種を弄ったの?」
「本当に酷い言い様だ。思った事を言っただけだろう」
ヴェルムドールが苦々しい口調でそう言うと、イクスラースは空を見上げるようにして先程のヴェルムドールの言葉を反芻し……やがて、納得したようにヴェルムドールへと視線を向ける。
「そういえば、そうね。意外と似合っているっていうのは褒め言葉とは言えないわね」
やっぱり貴方は貴方だったわ、などというイクスラースにヴェルムドールは反論する気力さえ持てずに溜息をつく。
「ていうか、なによ。似合わないと思ってたのかしら?」
「イクスラースといえば紫ばかり着ている印象があったからな」
「……まあ、そうね」
イクスラースはそう答えると、ヴェルムドールの目の前まで歩いてきて手を上へと伸ばす。
その手はヴェルムドールの兜のバイザーに触れ、それを少しだけ上げる。
「む、むむ……」
全て上げなかったのは単純に手がそこまで届かなかったせいであり、イクスラースはヴェルムドールの肩に手を乗せてなんとかバイザーを上にあげようとする。
結果としてヴェルムドールに身体をほぼ預ける形となり鎧同士がガチャガチャと音を鳴らすが、それでも中々バイザーは上がらない。
「……何がしたいんだ」
ヴェルムドールがイクスラースの両脇の下に手を差し込んで持ち上げるとバイザーは一気にガチャンと上がるが、イクスラースの「きゃあ」という声もあがる。
「は、離しなさい!」
「それは別に構わんが。本当に何がしたいんだ」
ヴェルムドールがイクスラースを下ろすと、イクスラースはヴェルムドールの手を払いのけて赤い顔でそっぽを向く。
「フン、その中に入ってるのが本当にヴェルムドールか見てあげようと思ったのよ」
「そうか。見ての通り本物だ」
「どうだか」
そうしてそっぽを向いたままのイクスラースをどうしたものかとヴェルムドールは悩み……やがて、思い出したように「そういえば」と呟く。
「最初呼び止めたのは、なんだったんだ?」
「別に。貴方もその似合ってない鎧をさっさと脱いだら? って言いにきたのよ。さっきのテントももう空いたわけだしね」
ヴェルムドールの問いにイクスラースはそう答え、ヴェルムドールは自分の格好を軽く見回す。
「そんなに似合ってないか?」
「致命的よ。服に着られてるっていう表現があるらしいけど、そういうのを通り越して鎧に食べられてる感じだわ」
「……そうか。残念だ」
本当に残念そうに言いながらイクスラースの横を通り過ぎようとするヴェルムドールの腕を、イクスラースがその寸前で掴んで止める。
「えっと……そんなに気に入ってたの?」
「そうでもないな」
即答するヴェルムドールに、イクスラースは力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
「どうした。疲れたなら」
「いいから。貴方はさっさと着替えてきてちょうだい」
ヴェルムドールを追い払うと、イクスラースはふらふらと立ち上がる。
「分からない。ほんっとうにあの男だけは分からないわ……」
「王は会った頃からああだったぞ」
目の前に現れて手を差し出すもう一人の赤鎧……サンクリードの手をはたくと、イクスラースは「アンタもさっさと着替えてきなさいよ」と多少怒ったように言い放つのだった。
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