勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
593 / 681
連載

世界会議5

しおりを挟む

 シャイアロンドの視線に「めんどくせえのう」とは思いつつも、アルムは無邪気にも見える顔で微笑んでみせる。

「まあ、そうですのう。こちらの大陸で我等の事が日夜悪事の事しか考えていない頭の悪い種族のように語られているのも事実。こちらの広報不足といったところですかの?」
「そう卑下されるものではない。確かに貴国の窓口は狭いと言わざるを得ないが、どちらかといえば過去の歴史と現在のこちらの大陸の現状に理由はあろう」

 こちらの大陸の現状……という言葉には幾つかの解釈がある。
 まず一つ目は、亜人論という四大国間の交流を妨げる議論に対する聖アルトリス王国への非難。
 そして二つ目は、シュタイア大陸のゴブリンやビスティアといった問題をどうにかしろというザダーク王国への牽制。
 無論両方かもしれないが、ザダーク王国に何らかの牽制をしているのは間違いない。
 間違いない、のだが。ここで何らかの明確な反応を示せば、それは「ザダーク王国側もそれを問題として認識している」というのが公式見解になってしまう。
 実に阿呆臭い話なのだが、それが政治の世界の現実というものである。
 ではどうするか、という話になるのだが……簡単である。

「なるほど、我々はこの大陸の事には詳しくありませぬが……様々な事情がありましょうなあ」

 事情は知らないが同情はする、と。まあこうしたスタイルである。
 そしてこれは「そちらの事情には踏み込まない」という意思表示だ。
 半端に切り込めば余計なものを背負わされる恐れがあるし、このくらいとぼけた方が丁度良いのである。
 実際、とぼけられたシャイアロンドは舌打ちでもしそうな顔である。
 シャイアロンド自身がこっちの事情的な言い方をした以上、こう返されては打つ手がないのであろう。
 まあ、そういうことを気にしない厚顔無恥な者であればつっこんでくるかもしれないが……。

「何が様々な事情だ! こちらの大陸で暴れているゴブリンやビスティア、オウガ……どれも貴様等の仲間だろう! 知らぬとは言わせんぞ、何故手を打たないのだ!」

 いや、居た。闘国のアルスレイである。
 シャイアロンドが黙っているのに……ついでに言えばルーティに先ほど釘を刺されたのに突っ込みを入れてくる辺り、どうにも空気が読めていない印象がある。
 だが面倒な事に、何処か一国が何かを言い出せばそれに同調する者が出るのも会議である。

「確かに。アルヴァはともかく、他の魔族についてはそちらの管理責任があるのでは?」
「うむ。我々とて盗賊が出たときは責任を持って処断している。ゴブリン共を魔族の盗賊と看做すなら、ザダーク王国に責任があるのは道理」
「今すぐというのは無理であろうが、この戦いが終わった後にそれに関する議論をするべきでは?」

 実に勝手極まりない理屈にアルムは閉口しかけるが、このまま黙っているわけにもいかない。

「我が国の責任と仰るが、それは少々理不尽というもの。こちらの大陸にいるゴブリンやビスティア共は、この大陸で生まれし者がほとんどでありましょう。そうした個々の犯罪は国ではなく種族に責を負わせるべきというのであれば、その主張もまた正しいのでしょうがな。その辺り如何ですかな?」
「だ、だが! 元はといえば」
「これはこれは。我々ですらシュタイア大陸の魔族の発祥には不明確な点が多いというのに、貴国はその全てをご存知であると? オウガなる連中がシュタイア大陸固有の連中である理由にも納得いく説明が?」

 アルムの弁舌に、反論しかけた男はううと呻いて黙り込む。
 説明できるはずが無い。
 恐らくそうであろう……という推測ばかりで補強した伝説しか残っていないシュタイア大陸に、そんな詳細な記録など残っているはずがない。
 なにしろ「魔族のせい」にするだけで全てを解決できたし誰も文句を言わなかったのだ。
 それだけ暗黒大陸は未知の場所であったし、もっと言えば「何があってもおかしくない」場所というのが常識だったのだ。
 だがその現実は崩れつつあり、それ故に「過去常識だった知識」で反論できようはずがない。

「単純に、暗黒大陸ではオウガが絶滅しているという可能性もありますな。勇者リューヤ様は暗黒大陸で激戦を繰り広げたという記録も残っております」

 別の中小国から出た「意見」に、アルムはイラッとしながらも笑顔を形作る。
 まだ言うかというのが正直な感想だったが、もう乗ってしまった以上仕方がない。

「これは面白い。勇者が一つの種族を女子供に至るまで絶滅せしめたと? 貴国の記録とやらにはそのような記述が?」
「え、いや、それは」
「だとすると、なるほど。こちらの大陸に残ったオウガは失われし血を現代に残した貴重な者達ということになりますな? また皆殺しにされる前に女子供から保護せねばなりますまい。まあ、勇者が女子供も皆殺しにしたというのが貴国の記録に残った事実であると言われるのであれば……ですがな」

 全く目が笑っていないアルムの笑顔に、男は「いや、その……」などと言いながら座り込んでしまう。
 ザダーク王国を責めるだけならともかく、「勇者」の話になっては強気になれるはずもない。
 ……しかし、とアルムは思う。
 阿呆をやり込めたのはいいが、肝心の本題は全く進んでいないのである。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。