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連載
世界会議5
しおりを挟むシャイアロンドの視線に「めんどくせえのう」とは思いつつも、アルムは無邪気にも見える顔で微笑んでみせる。
「まあ、そうですのう。こちらの大陸で我等の事が日夜悪事の事しか考えていない頭の悪い種族のように語られているのも事実。こちらの広報不足といったところですかの?」
「そう卑下されるものではない。確かに貴国の窓口は狭いと言わざるを得ないが、どちらかといえば過去の歴史と現在のこちらの大陸の現状に理由はあろう」
こちらの大陸の現状……という言葉には幾つかの解釈がある。
まず一つ目は、亜人論という四大国間の交流を妨げる議論に対する聖アルトリス王国への非難。
そして二つ目は、シュタイア大陸のゴブリンやビスティアといった問題をどうにかしろというザダーク王国への牽制。
無論両方かもしれないが、ザダーク王国に何らかの牽制をしているのは間違いない。
間違いない、のだが。ここで何らかの明確な反応を示せば、それは「ザダーク王国側もそれを問題として認識している」というのが公式見解になってしまう。
実に阿呆臭い話なのだが、それが政治の世界の現実というものである。
ではどうするか、という話になるのだが……簡単である。
「なるほど、我々はこの大陸の事には詳しくありませぬが……様々な事情がありましょうなあ」
事情は知らないが同情はする、と。まあこうしたスタイルである。
そしてこれは「そちらの事情には踏み込まない」という意思表示だ。
半端に切り込めば余計なものを背負わされる恐れがあるし、このくらいとぼけた方が丁度良いのである。
実際、とぼけられたシャイアロンドは舌打ちでもしそうな顔である。
シャイアロンド自身がこっちの事情的な言い方をした以上、こう返されては打つ手がないのであろう。
まあ、そういうことを気にしない厚顔無恥な者であればつっこんでくるかもしれないが……。
「何が様々な事情だ! こちらの大陸で暴れているゴブリンやビスティア、オウガ……どれも貴様等の仲間だろう! 知らぬとは言わせんぞ、何故手を打たないのだ!」
いや、居た。闘国のアルスレイである。
シャイアロンドが黙っているのに……ついでに言えばルーティに先ほど釘を刺されたのに突っ込みを入れてくる辺り、どうにも空気が読めていない印象がある。
だが面倒な事に、何処か一国が何かを言い出せばそれに同調する者が出るのも会議である。
「確かに。アルヴァはともかく、他の魔族についてはそちらの管理責任があるのでは?」
「うむ。我々とて盗賊が出たときは責任を持って処断している。ゴブリン共を魔族の盗賊と看做すなら、ザダーク王国に責任があるのは道理」
「今すぐというのは無理であろうが、この戦いが終わった後にそれに関する議論をするべきでは?」
実に勝手極まりない理屈にアルムは閉口しかけるが、このまま黙っているわけにもいかない。
「我が国の責任と仰るが、それは少々理不尽というもの。こちらの大陸にいるゴブリンやビスティア共は、この大陸で生まれし者がほとんどでありましょう。そうした個々の犯罪は国ではなく種族に責を負わせるべきというのであれば、その主張もまた正しいのでしょうがな。その辺り如何ですかな?」
「だ、だが! 元はといえば」
「これはこれは。我々ですらシュタイア大陸の魔族の発祥には不明確な点が多いというのに、貴国はその全てをご存知であると? オウガなる連中がシュタイア大陸固有の連中である理由にも納得いく説明が?」
アルムの弁舌に、反論しかけた男はううと呻いて黙り込む。
説明できるはずが無い。
恐らくそうであろう……という推測ばかりで補強した伝説しか残っていないシュタイア大陸に、そんな詳細な記録など残っているはずがない。
なにしろ「魔族のせい」にするだけで全てを解決できたし誰も文句を言わなかったのだ。
それだけ暗黒大陸は未知の場所であったし、もっと言えば「何があってもおかしくない」場所というのが常識だったのだ。
だがその現実は崩れつつあり、それ故に「過去常識だった知識」で反論できようはずがない。
「単純に、暗黒大陸ではオウガが絶滅しているという可能性もありますな。勇者リューヤ様は暗黒大陸で激戦を繰り広げたという記録も残っております」
別の中小国から出た「意見」に、アルムはイラッとしながらも笑顔を形作る。
まだ言うかというのが正直な感想だったが、もう乗ってしまった以上仕方がない。
「これは面白い。勇者が一つの種族を女子供に至るまで絶滅せしめたと? 貴国の記録とやらにはそのような記述が?」
「え、いや、それは」
「だとすると、なるほど。こちらの大陸に残ったオウガは失われし血を現代に残した貴重な者達ということになりますな? また皆殺しにされる前に女子供から保護せねばなりますまい。まあ、勇者が女子供も皆殺しにしたというのが貴国の記録に残った事実であると言われるのであれば……ですがな」
全く目が笑っていないアルムの笑顔に、男は「いや、その……」などと言いながら座り込んでしまう。
ザダーク王国を責めるだけならともかく、「勇者」の話になっては強気になれるはずもない。
……しかし、とアルムは思う。
阿呆をやり込めたのはいいが、肝心の本題は全く進んでいないのである。
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