勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
上 下
580 / 681
連載

世界会議の前に9

しおりを挟む

 ちなみに、キースが頭を抱えている理由は単純である。
 通常外交の場とは、そうした外交担当かあるいは自国の国政において影響力のある者が来るのが常識である。
 それは外交の場での円滑な進行の為であり、逆に言えばそうした実務的な会合が外交というものなのだ。
 つまり、通常王族が来ることはないのだが……王族を連れてくるということは、意気込みの表明であると共に相手へのプレッシャーでもある。
 何しろ、他国の王族相手に失礼など働けない。王族を相手取るには、当然同じだけの格が必要とされるのが外交上の礼儀であるからだ。
 しかし同時に相手国への信頼という意味もある。王族が安心して来る事が出来るほど貴国を信頼してますよ……と、こういうわけである。
 斯様に王族が来るということは様々な意味を相手に推測させる、外交上の必殺技であり……人格者として人気の高い第二王女エリアを送り込んでくる辺り、この世界会議という場で存分に効果を発揮させる気なのは明らかだった。

「……あー、まあ。そっちは俺が考えてもしゃあねえな。所詮俺ぁ雇われだ。お国の事情は関係ねぇや」

 だがすぐにキースは気を取り直すと、自分をじっと見上げていたレンファの背をバンと叩く。

「よし、行くぜレンファ。厄介な連中は倒したし、もう何もねえとは思うが……一応警戒しねえとな」
「あ、は……はい!」
「しっかり案内頼むぜ」

 元気に頷いて先行するレンファの後についてキースは更に奥へと歩き出し……そこでキースは振り返る。

「あ、アインの姉ちゃんはついてこなくていいぜ。そっちの仕事もあるだろ?」
「そうか」

 アインの返事を聞くとキースは再び歩みを再開し……その後ろを、アインが歩き出す。
 レンファ達がサクサクと草やら何やらを踏んで歩く音の後ろを、音も気配も無くアインがついていく。
 アインが要所要所で姿を隠す為にキース達はアインに気付かぬまま、「その場所」に辿り付く。
 それは、鉱山入り口の広場の横手。立派な石造りの建物の影になったその場所は、木々の影響もあって丁度見えにくい位置になっている。
 しかし、それでも万が一を考えてキースとレンファは体勢を低くしてしゃがむように物陰から気配をうかがう。

「……静かだな」

 小さく呟いたキースに、レンファも頷く。
 普通ゴブリン達がたむろしていれば耳障りで甲高い嬌声が響いているはずであり、それが聞こえないということはゴブリンは居ないか、あるいは眠っている、離れている……などのパターンが考えられる。

「さ、さっきので最後だったんでしょうか……」
「どうだろうな」

 その可能性は、無いわけではない。
 たとえば此処を守備していた防衛戦力がゴブリンの大群と相打ち、残った者達が建物内に篭り……残ったのがゴブリンアサシンだけ、という可能性もある。

「私としては、あのゴブリン共がお前を狙っていた理由の方が気になるがな」
「なっ、お前……」
「静かにしろ。ついでに私が見てきてやる」

 キースの頭越しに跳んだアインが音も無く建物の屋根に上り……そこから辺りを見回した後に降りてくる。

「建物の中に気配があるな」
「まあ、想定内か」
「あ、あの。それじゃ」
「中にいるのがゴブリンじゃなけりゃ、無事ってことになるが……な」

 囁き合うと、キースは意を決したように足を踏み出す。

「あ、ど、どこへ……」

 キースはレンファに答えず建物の表にまわると、入り口のドアをドンドンと叩く。

「おーい、無事か? 無事なら返事しろ」

 一見無謀にも思えるキースの行動にレンファがおろおろとしながらアインを見るが、アインは溜息をつきながらキースの方へと向かっていくだけだ。
 そうすると、レンファも慌てたようにその後をついてくる。

 このキースの行動だが、実際ここからアクションを起こすとしたらこのくらいしかない。
 たとえば、もし鉱夫達がゴブリンから逃げて閉じこもっているのだとしたら「扉を叩き壊す」のは問題だ。
 助けが来たどころか盗賊の襲撃と誤認させる可能性もあるし、そうなったら冷静に話をするどころではない。
 もし中にいるのがゴブリンだった場合は、話は簡単になる。全部斬り殺して、改めて鉱夫を探せばいい。

「おーい」

 再度キースが扉を叩くと、中から扉がガチャリと開けられて一人の男が顔を出す。
 それは鉱夫用の丈夫な服に身を包んだ、ひげもじゃのメタリオの男であった。
 男はキースを見ると目を輝かせ、祈るように手を組む。

「お、おお。キース! 助けに来てくれたのか!」
「アンタだけか? 他の連中はどうした?」
「え、あ、ああ。中にいる。さあさあ、それより早く中へ! またゴブリン共が来るかもしれん!」

 キースの腕をとって中へ入るように促す男の手を払い、キースは落ち着けと告げる。

「この近くにゴブリンはいねえよ、落ち着け」
「だ、だが……あ、そういえば! お前一人なのか!? お前の仲間達は……」
「落ち着けって」
「おお、あれか! ん? どちらも女のようだが、あれで全部か?」

 キョロキョロと辺りを見回してアイン達を見つける男の前で、キースは溜息をつきながら剣を抜き……男の首へと突きつける。

「だから落ち着けってんだろうがよ……んな事よりおっさん、お前なんで俺の名前知ってやがる。俺ぁ教えた覚えはねえぞ」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。