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世界会議の前に9
しおりを挟むちなみに、キースが頭を抱えている理由は単純である。
通常外交の場とは、そうした外交担当かあるいは自国の国政において影響力のある者が来るのが常識である。
それは外交の場での円滑な進行の為であり、逆に言えばそうした実務的な会合が外交というものなのだ。
つまり、通常王族が来ることはないのだが……王族を連れてくるということは、意気込みの表明であると共に相手へのプレッシャーでもある。
何しろ、他国の王族相手に失礼など働けない。王族を相手取るには、当然同じだけの格が必要とされるのが外交上の礼儀であるからだ。
しかし同時に相手国への信頼という意味もある。王族が安心して来る事が出来るほど貴国を信頼してますよ……と、こういうわけである。
斯様に王族が来るということは様々な意味を相手に推測させる、外交上の必殺技であり……人格者として人気の高い第二王女エリアを送り込んでくる辺り、この世界会議という場で存分に効果を発揮させる気なのは明らかだった。
「……あー、まあ。そっちは俺が考えてもしゃあねえな。所詮俺ぁ雇われだ。お国の事情は関係ねぇや」
だがすぐにキースは気を取り直すと、自分をじっと見上げていたレンファの背をバンと叩く。
「よし、行くぜレンファ。厄介な連中は倒したし、もう何もねえとは思うが……一応警戒しねえとな」
「あ、は……はい!」
「しっかり案内頼むぜ」
元気に頷いて先行するレンファの後についてキースは更に奥へと歩き出し……そこでキースは振り返る。
「あ、アインの姉ちゃんはついてこなくていいぜ。そっちの仕事もあるだろ?」
「そうか」
アインの返事を聞くとキースは再び歩みを再開し……その後ろを、アインが歩き出す。
レンファ達がサクサクと草やら何やらを踏んで歩く音の後ろを、音も気配も無くアインがついていく。
アインが要所要所で姿を隠す為にキース達はアインに気付かぬまま、「その場所」に辿り付く。
それは、鉱山入り口の広場の横手。立派な石造りの建物の影になったその場所は、木々の影響もあって丁度見えにくい位置になっている。
しかし、それでも万が一を考えてキースとレンファは体勢を低くしてしゃがむように物陰から気配をうかがう。
「……静かだな」
小さく呟いたキースに、レンファも頷く。
普通ゴブリン達がたむろしていれば耳障りで甲高い嬌声が響いているはずであり、それが聞こえないということはゴブリンは居ないか、あるいは眠っている、離れている……などのパターンが考えられる。
「さ、さっきので最後だったんでしょうか……」
「どうだろうな」
その可能性は、無いわけではない。
たとえば此処を守備していた防衛戦力がゴブリンの大群と相打ち、残った者達が建物内に篭り……残ったのがゴブリンアサシンだけ、という可能性もある。
「私としては、あのゴブリン共がお前を狙っていた理由の方が気になるがな」
「なっ、お前……」
「静かにしろ。ついでに私が見てきてやる」
キースの頭越しに跳んだアインが音も無く建物の屋根に上り……そこから辺りを見回した後に降りてくる。
「建物の中に気配があるな」
「まあ、想定内か」
「あ、あの。それじゃ」
「中にいるのがゴブリンじゃなけりゃ、無事ってことになるが……な」
囁き合うと、キースは意を決したように足を踏み出す。
「あ、ど、どこへ……」
キースはレンファに答えず建物の表にまわると、入り口のドアをドンドンと叩く。
「おーい、無事か? 無事なら返事しろ」
一見無謀にも思えるキースの行動にレンファがおろおろとしながらアインを見るが、アインは溜息をつきながらキースの方へと向かっていくだけだ。
そうすると、レンファも慌てたようにその後をついてくる。
このキースの行動だが、実際ここからアクションを起こすとしたらこのくらいしかない。
たとえば、もし鉱夫達がゴブリンから逃げて閉じこもっているのだとしたら「扉を叩き壊す」のは問題だ。
助けが来たどころか盗賊の襲撃と誤認させる可能性もあるし、そうなったら冷静に話をするどころではない。
もし中にいるのがゴブリンだった場合は、話は簡単になる。全部斬り殺して、改めて鉱夫を探せばいい。
「おーい」
再度キースが扉を叩くと、中から扉がガチャリと開けられて一人の男が顔を出す。
それは鉱夫用の丈夫な服に身を包んだ、ひげもじゃのメタリオの男であった。
男はキースを見ると目を輝かせ、祈るように手を組む。
「お、おお。キース! 助けに来てくれたのか!」
「アンタだけか? 他の連中はどうした?」
「え、あ、ああ。中にいる。さあさあ、それより早く中へ! またゴブリン共が来るかもしれん!」
キースの腕をとって中へ入るように促す男の手を払い、キースは落ち着けと告げる。
「この近くにゴブリンはいねえよ、落ち着け」
「だ、だが……あ、そういえば! お前一人なのか!? お前の仲間達は……」
「落ち着けって」
「おお、あれか! ん? どちらも女のようだが、あれで全部か?」
キョロキョロと辺りを見回してアイン達を見つける男の前で、キースは溜息をつきながら剣を抜き……男の首へと突きつける。
「だから落ち着けってんだろうがよ……んな事よりおっさん、お前なんで俺の名前知ってやがる。俺ぁ教えた覚えはねえぞ」
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