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連載
しあわせですよ7
しおりを挟む「な、なんですか!?」
サシャがキョロキョロと辺りを見回していると、目の前にあったテントの中からゴブリン達がバタバタと駆け出してくる。
手に木の棒を持ったゴブリン達が十数人と、立派な棒を持ち格好も少し立派なゴブリンが一人、杖らしきものを持ったゴブリンが一人、そして如何にも村長といった風体のゴブリンが一人。
どのゴブリンも仕立ては段違いだが黎明期のものを思わせる格好をしており、そのうちの杖を持ったゴブリンが地面に杖をついて叫びだす。
「おお、おお! 聞くが良い皆の者! 本日運命の出会いありと占いに出た!」
「運命の出会い!?」
「一体何と出会う!?」
サシャは「おー」と言いながら何が始まるのかとワクワクしているようだが、ヴェルムドールは早速渋い顔である。
あの杖を持ったゴブリンはどうやらゴブリンシャーマンの役のようだが……そもそもゴブリンシャーマンとはそれっぽいインチキ儀式で誤魔化しながら村長に助言をする、ほんの少し頭が良かったりほんの少し魔力が高かったりするゴブリンのことである。
占いとやらも当たれば「どうだ」と胸を張り、外れれば「信じない者がいるから結果が変わった」と言い放つインチキ儀式の一つであり、しかしまあ多少の演出は必要なのだろうと黙り込む。
そうしている間にも、ゴブリンシャーマン役のゴブリンは杖を高々とあげて叫んでいる。
「分からぬ! 分からぬが……我等では推し量る事が出来ぬような素晴らしい出会いである!」
「お、あのごまかしっぷりはそれっぽいな……」
「ほへ?」
芝居に集中するあまり聞いていなかったサシャがヴェルムドールを見上げるが、ヴェルムドールは「気にするな」と言い放ち再び黙り込む。
「一体何者が来るというのか!」
「我等にとって、どう素晴らしいのだ!」
叫びシャーマンと村長、それと……恐らくは戦士の役割だろうが、その三人の周りを歌うように叫びながらグルグルと回り始めるゴブリン達を、ゴブリン戦士役のゴブリンが立派な棒を地面にドンと突く。
同時に音の表現なのか太鼓がドンと一回鳴らされ、それと同時にグルグル回っていたゴブリン達がぴたりと動きを止める。
「静まれ! 分からぬものは分からぬ! しかし、何が来てもいいように備えるのだ!」
「おお、偉大なる戦士アグー!」
「アグーよ、我等の導き手!」
「準備だ、準備をするのだ!」
そして準備の表現なのか前後へと動いて踊り始めるゴブリン達を見て、ヴェルムドールは「ああ、やっぱりアレがアグー役なのか……」と心の中で溜息をつく。
ヴェルムドールの知っている「アグー」とは一人しか居ないが、当時のアグーはあんなに威厳のある台詞も吐かなければ落ち着きもなかった。
ついでに言うと、もう少し統率もなかったはずだ。
しかしまあ、多少の演出は必要なのだろう。
そんな事を考えヴェルムドールが頷いていると、ドンドコドコドンと複数の忙しげな太鼓の音が鳴り始める。
すると、今まで一言も喋っていなかった村長役のゴブリンが天に腕を突き上げて叫び始めた。
「おお、おお! 何かが来るぞ! 強大な……あまりに強大な何かが!」
どんどん速くなっていく太鼓の音が一際大きな一音で止まると、石造りの建物のある柵の向こうから一組の男女が歩いてくる。
そのうちの一人を見て、ヴェルムドールは激しい頭痛に襲われる。
「……あれは、ひょっとして俺か?」
「え? あ! ムキムキです!」
そう、それは「ヴェルムドール」と「イチカ」の二人であるようだった。
流石にゴブリンではなく魔人の役者を使っているようだが、「ヴェルムドール」は筋骨隆々で眼光鋭く、顔の輪郭もゴツゴツの岩のようである。
目が青いのは赤い目が真似できなかったからであろうが、髪は何かの獣の毛か何かを集めて作ったカツラのようで……正直、あまり似合っていない。
「あっちは黒い怖いメイドさんです?」
サシャの言うとおり、もう一人は「イチカ」のようであったが……こちらも筋肉モリモリである。
メイド服っぽい黒服とそれっぽい鎧を組み合わせたようだが、メイドナイトというよりは普通に歴戦の女魔族である。
こちらは地毛のようだが、ヴェルムドールの感想としては「人類領域の用心棒とかいう連中のようだ……」であった。
背負っている盾は鉄製のようで、実に重量感がある。
腰に差した剣も大き目のもので、イチカのものよりは大分大きい。
その「イチカ」はゴブリン達の前まで歩いてくると、手をバッと前に突き出して朗々とした声で叫ぶ。
「静まれ、ゴブリン達よ! これより魔王ヴェルムドール様が貴様達にお言葉を伝える! 平伏して一言一句漏らさずに聞くが良い!」
ビリビリと響く大きな声にサシャが「ひゃー」と叫び、ゴブリン達は一気に平伏する。
ゴブリン達がひれ伏して動かなくなったのを確認すると、「ヴェルムドール」が前へと進み出る。
「ゴブリン達よ! 今からお前達はこのヴェルムドールの配下である! 異論のある者は進み出よ!」
そう「ヴェルムドール」が叫ぶと、ひれ伏したゴブリン達の中で「アグー」が唯一立ち上がる。
「おお、おお! 我等では敵わぬ力を持った方よ! 貴方は魔王と名乗り我等に忠誠を求められた! それに異存は無いが、どうか証を頂きたい!」
ああ、なるほどとヴェルムドールは思う。
確かにヴェルムドールは旧魔王城の崩れた柱から削りだした棍棒をアグーに与えた。
どうやら、それはこの流れのようだが……正直、見ていてヴェルムドールは遠い目になりそうなのを堪えるのに必死である。
しかし、目をキラキラさせているサシャの前では「帰るか」とも切り出し辛い。
目の前で展開されている盛りすぎな劇を見ながら、ヴェルムドールは心の中だけで深い……深い溜息をついた。
************************************************
サシャの感想:たのしかったです!
ヴェルムドールの感想:イチカの目に入らないように周知徹底しておく必要がある。同じ理由でニノも近づかないような策を講じる必要があるだろう。
その間に劇の改善も必要と思われるが、その前に一般客の反応について早急に調べなければならない。
なお、人類の英雄譚でもしばしば見られる例だが時の権力者による介入の(以下略)
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