568 / 681
連載
しあわせですよ5
しおりを挟む「はぁー……」
見下ろしたサシャがヴェルムドールを見上げる目はしかし、ヴェルムドールの予想とは異なり輝いていた。
まるで尊敬の目にも似たそれにヴェルムドールが首を傾げると、サシャは手をぶんぶんと振り回しながら興奮したように叫ぶ。
「凄いです! シオンさ……ええっと、王様の記念館なんですね!?」
「あ、ああ。正確には一般的にこの国の始まりとされている事項に関連する……というだけだがな」
「凄いです! 行きたいです! うわあ、楽しみです!」
楽しそうにヴェルムドールの周りを飛び回るサシャに、ヴェルムドールは多少困惑しながら頬を軽く搔く。
何がそんなに楽しいのかは分からないが、まあ本人が納得しているならいいか……と思いなおす。
「なら、早速行くとするか。転移……」
「歩いていきましょう!」
転移魔法を使うぞ、と言おうとしたヴェルムドールの言葉を、サシャの声が遮る。
ヴェルムドールがサシャを見つめると、先程と同様にキラキラと輝く目でベルムドールを見つめ返している。
「一気にびゅーんと行くのも楽しかったですけど、一緒に歩くのも楽しいですよっ」
胸の前で手を組んだサシャはそう言って、それから「あ、私は飛んでましたね」と恥ずかしそうに笑う。
しかし、なるほど。
確かに外を出歩くという滅多にない機会を時間短縮とはいえ転移魔法で省略するのは、風情に欠けると言わざるを得ないだろう。
「……ふむ、それもそうだな。元はといえばお前を街に連れて行くのも目的だったか。少し遠いが、歩いていくとしよう」
「はい!」
頷くサシャを捕まえると、ヴェルムドールはその手の上に乗せてポンと軽く叩く。
「ほへ?」
「動き回るお前を気にしながらでは充分に案内できるか分からんからな。嫌か?」
「嬉しいです! えへへ、いいんですか?」
「構わん。行くぞ」
「はーい! きゃー、揺れます! わーい!」
どういう理屈かやはり分からないが、ヴェルムドールが歩く度に水晶珠の中で身体をポンポンと跳ねさせているサシャにチラリと視線を向け、すぐにヴェルムドールは辺りへと視線を巡らせる。
「先程も言ったが、この辺りは古いからな。使っている石材も相応に古い」
「はー、そうなんですか」
「ああ。だから……歪だろう?」
言われてサシャが壁を見ると、確かに表面がデコボコしていたり微妙に角に隙間があったり欠けていたりするものが多い。
色も、白い石の隣に茶色い石を配置したり、かと思えば黒い石が混ざっていたりと微妙に統一感に欠けている。
そういうデザインと言う事も出来るだろうが、どちらかというと足りない部分に仕方なく違う石を嵌め込んだ……という感じだろうか。
「言われてみると……そんな気もするような気も……うーん」
「まだ技術力の半端だった頃だからな。輸送力も今ほどでは無かったし、妥協している部分も随分とある」
今ならば作り直す事も容易だが、「これはこれで味がある」と住んでいる本人達が納得してしまっているのでそのままになっている事情がある。
今ではノルム達がキッチリと四角く平らに石を切り出すので、こういうデコボコした表面の石材はわざとそうしなければ出来ない。
しかもそうしたらそうしたで、中々「味のある」仕上がりにはならないのだという。
「難しいんですねえ……」
「お前の故郷は石の家はないのか?」
「うーん……記憶が曖昧なのでよく覚えてないんですけど、木の家だった気がします」
「ふむ、なるほどな」
シュタイア大陸でも木の家というものは少なく、小さな村でも石の家が主流である。
この辺りは重要な文化の違いではあるだろうか。
「でも、本当に人がいませんねえ」
「そうだな」
人と出会わないままにヴェルムドール達は道を進み、適当な会話を交わしながら歩いていくが……その最中、サシャがじっと空を見上げているのにヴェルムドールは気がついた。
「そういえば……この国って、お空がいつでも暗いですよねえ」
「……そうだな」
そう、サシャの言うとおりザダーク王国……暗黒大陸はいつも曇天だ。
この国に住む者は慣れてしまっているが、やはり知らぬ者から見れば不思議に映るのだろう。
調べてはいるが、別に困っていないので優先度も低く何も分かっていないに等しい。
「王様は、青いお空は好きですか?」
「……どうだろうな。美しいとは思うが、この曇天にも愛着がある」
むしろ今となっては、青い空に違和感すらある。
「私は好きですよー! 本物の海はいつも荒れてますし怖い魔力で満ちてますけど、お空には綺麗な海が広がってますから!」
「ほう?」
「ずーっとずーっと……誰も知らないくらいずうぅぅっと昔は、本物の海も青いお空みたいに綺麗だったそうなんです。だから私は、青いお空を見上げるのが大好きでした!」
青い空のように美しい青色をした海。
そんなものは、ヴェルムドールにはとても想像が出来ない。
僅かにヴェルムドールの中に残る「リョウ」の欠片からも、やはりそんな光景は出てこなかった。
だが、海が今の最果ての海となる前……水の歪神が封じられる前は、あるいはそんな光景が広がっていたのかもしれない。
「青い海、か。それは美しいだろうな」
「はい! きっと凄く……すっごぉく綺麗ですよ!」
それを叶える為には水の歪神を滅ぼすしかない。
だが、そんな現実を語る事など無粋以外の何物でもない。
「ああ、そうだな」
だから、ヴェルムドールは優しくサシャを撫でて歩みを再開した。
************************************************
ここしばらくのドロドロ成分を洗い流すかのように、もう少しサシャのターンが続きます。
0
お気に入りに追加
1,740
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。


勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。