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連載
アルム、頑張る6
しおりを挟む魔王城に入ると、そこは大広間である。
広々としたその空間にはずらりと鎧が並んでおり、その威容を感じさせる。
装飾としても中々に美しい鎧達ではあるが、その全ては魔操鎧達である。
中身が空っぽの「動く鎧」である魔操鎧達は微動だにしない状況であれば普通の鎧と見た目は変わりなく、しかしいったん動き出せばフル装備の騎士となんら変わりない。
魔操鎧達はアルム達が入ってきても何の反応も見せず、そこに飾り物のように立っているだけだ。
そこからは一切の気配は感じられず、まるで本物の置物のようである。
この辺りは「幻想系」と呼ばれる特殊な魔族の本領発揮であるが、そうでなくてはこんな警備の仕方は無理であるだろう。
「相変わらずのガッチガチ警備じゃのう」
「仕方ないですよー。魔王城ですから……あ」
モカは言いながら、ふと空中へと視線をさまよわせる。
何かを追うようなその視線の動きは、部屋の隅で止まり……そこでキラリと光る「何か」を見つけて、モカの目もキラリと光る。
「おや……おやおやあ?」
抜き足差し足でその場所へと歩いていったモカは、その「何か」に覆いかぶさるように飛び掛る。
「みーつけたあっ!」
「きゃー! 見つかりましたぁ!?」
小さな少女が入った水晶珠……としか表現しようのないモノを捕まえて戻ってきたモカは、嬉しそうな顔でアルム達のもとへと戻ってくる。
ジタバタと水晶珠の中で暴れる少女を幸せそうに眺めているモカと、その手の中の水晶珠の少女を交互に見つめてアルムは不思議そうな顔をする。
オルエルはすでに「いつものこと」なのでどうでも良さげだが、アルムはこの水晶珠に入っているように見える少女……サシャとは初対面なのである。
「……なんじゃ、それ。新しい魔族かえ?」
「違いますよー。ちっちゃくて可愛いサシャちゃんです。こう見えて人類なんだそうですよ? なんかこう、守ってあげなきゃって気になりますよね」
「はなしてー!」
ジタバタと暴れるサシャをしっかりと押さえているモカを見ながら、アルムは「そういうものかのう……」と呟く。
どう見ても嫌がられているが、モカも他の魔族に負けず劣らず自分本位主義の魔族だ。
その穏やかな性格からあまり露見しないが、サシャという弱々しい存在を目の前にすることでそうした部分が大爆発しているようだ。
まあ、その結果が「守ってあげたい」ならば、サシャにとってはある意味で幸運……なのかもしれない。
まあ、見る限りでは「構われすぎて迷惑」なようにしか見えないのだが。
「サシャちゃん。私達これから魔王様のところに行くんです。一緒に行きません?」
「はーなーしー……え、王様のとこですか?」
魔王様、という単語を聞くなりサシャは暴れるのをやめ、考え込むように腕を組む。
時折自分を捕まえているモカをちらちらと見上げているのは、色々なものと天秤にかけているのだろう。
そんなサシャの様子を見て、アルムは心の中だけでふむ、と頷く。
人類のことならば、アルムもある程度学んではいる。
シュタイア大陸に存在する人類は身体の一部に獣の特徴を持つ「獣人」、耳の長い「シルフィド」、身体の小さい「メタリオ」、そして言わずと知れた「人間」の四種だ。
このサシャという妙な小さいものはどの特長にも当てはまりはしないが……人類だというのは、恐らく真実だろう。
モカはそんなつまらない嘘はつかないし、モカが「こう見えて人類なんだそうですよ」と言っていたことが重要である。
つまり誰かからそうであると伝え聞いたということだが、サシャが人類でありながら魔王城に滞在していることを考えるに、恐らくそれを彼女に伝えたのは相当立場が上……それこそイチカや魔王ヴェルムドールのような存在であると推測できる。
勿論サシャが自己紹介でそう言ったという可能性もあるが、あの嫌われっぷりを見るに自己紹介を和やかにする関係だとも思えない。
……だが、そうなるとサシャは「未知の人類」ということになるが、ヴェルムドールはそれを探るつもりでサシャを側に置いているのだろうか?
そんなことをアルムが考えていると、目の前にサシャの入った水晶珠がふわふわと浮かんでいるのが見えてアルムはギョッとした顔で後ろへ数歩下がる。
「ご気分、悪いんですか? なんかぼーっとされてましたけど」
「んん? ああ、いや。ちょっと考え事をしていてのう」
考え事、と聞いてサシャは納得したような顔でポンと手を打つ。
「あー、分かります! 王様もよくむずかしー顔で動かなくなることありますもの!」
言いながらサシャは「こうですよ、こう!」と指で両目を吊り上げながらヴェルムドールの顔真似をしてみせる。
それがはたして似ているかどうかはアルムには判断できないが、ヴェルムドールがサシャに気に入られていることくらいは理解できた。
「まあ、ええか。とにかく魔王様のところ……へ……」
言いながら背後のオルエルへと振り返ったアルムは、相変わらずどうでも良さそうな顔をしているオルエルの背後にイチカが立っているのに気付く。
黒い髪に黒いメイド服、纏う銀色の鎧に背負った盾と完全に戦闘態勢だが……薄く光る赤い目は怒りの証明だろうか?
何も言うなとばかりに見つめられれば、アルムとしても唾を飲み込むほかは無い。
そのアルムの表情に気付いたオルエルが視線の先を追って振り返ると同時に、オルエルの顔はイチカによって鷲掴みにされる。
「ぐおっ……い、いつの間にっ……いだっ、いだだだだあ!」
「オルエル。貴方に少しばかりお話があります。裏庭まで来ていただきましょうか」
必死でイチカの手を剥がそうと暴れるオルエルだが、先程のモカに対するサシャの抵抗が子供同士のじゃれ合いにしか見えない必死さと壮絶さである。
打撃も蹴りもイチカの僅かな動作で全て無効化され、オルエルの顔面はイチカの手により圧縮処理されかけているかのようである。
「おごが……死ぬ、死ぬっ! おいアルム、フォロー! フォローを!」
「え? あ、ああ。あのー、イチカ様?」
「却下します」
オルエルの顔面を掴んだまま何処かへと引きずっていくオルエルにそれ以上アルムが出来ることがあるはずも無く、手をひらひらと振って見送る。
まあ、いつものことなので「おしおき」程度で済むだろう。
「あー……行こうかの?」
先程までの不仲もどこへやら、震えて抱き合って……というよりもモカがサシャを抱えこんでいるようにも見えるが、ともかく共通の恐怖を前に少しだけ溝が埋まったような二人に、アルムはそう呼びかける。
「そ、そうですね。行きましょう!」
「あの黒い女の人、超怖いのです!」
オルエルの代わりに、なにげに恐れ知らずな事を叫ぶサシャを連れてアルム達はヴェルムドールの執務室へと足早に向かっていった。
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