勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルム、頑張る2

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 アルムを乗せた運搬車は、宣言通りの速さで道を駆け抜けていく。
 この速度で休み無しというのは相当に疲れるはずだが、本人が大丈夫というからには大丈夫なのだろう。

「他人にぶつかるでないぞー?」
「ハハハ、大丈夫ですって! 人の多いとこは大抵規制区画ですからね! そういうとこは避けていきますんで!」

 この規制区画というものは街中を運搬車が走るようになってから出来た決まりごとだが、要は衝突事故防止のために人の多いところは通るなというだけの話である。
 時間ごとに規制区画が決まっており、そうした事を把握しておくのも都市交通サービスを手がける者達の仕事のうちである。
 時折道を曲がるのは、人通りの多い商業区画を避けているのだろう。
 この運搬車が最終的に止まるのも「第一商店街の入り口」ということになる。

「うぉっ」

 石でも踏んだか段差があったか、運搬車が大きく揺れてアルムの腰が浮く。
 ガタガタとよく揺れる運搬車の乗り心地は決していい訳ではなく、しかもこうして何かがあると大きく揺れる。
 そうしたものに対する対策のつもりなのか運搬車の箱の椅子には柔らかい敷物が置いてあるが、それでどうにかなっているかといえば「なっていない」と答える他無い。
 人類領域では石畳とかいう石を敷いて道を整える方法をとっているところもあるらしいのだが、ザダーク王国ではまだその方法はとられていない。
 というのも、「石畳がゴーレムに変化する可能性」について真面目に議論された結果であるらしい。
 今のところ石畳は実現されてはいないが、代替出来そうな「魔力伝導率の悪いもの」を色々と研究している最中であると聞いたことがあった。
 一般的に魔力伝導率が悪いといえば金属類だが、流石にそんなものを地面に敷くことは無いだろう。今後の研究に期待……といったところだろうか。
 そんなことを考えながらぼうっとしていると、やがて喧騒が聞こえてくる。

「お客さん、もうすぐ第一商店街前に着きますぜ!」
「おお、宣言どおり速かったのう」
「へへっ、任せてくださいよ……っと!」

 ガタン、という音を立てて勢い良く運搬車が止まり、油断していたアルムはゴンという音を立てて頭をぶつける。

「うおっ、すげえ音しましたけど大丈夫です!?」
「……もう少し丁寧に止まってもいいんじゃないかのう」

 言いながらも、アルムは席から立ち上がる。
 すると運搬車を固定するような音がした後に後方の扉が開いて茶熊のビスティアが顔を出す。

「へへっ、すんません。お怪我はないですかい?」
「まあ、無いがのう」

 悪気がないのは分かっているので、アルムはそれ以上の文句は言わずに運搬車を降りる。

「ありがとござーしたーっ」
「うむ」

 身体を軽く伸ばし、曇天の空を見上げる。
 相変わらず「晴れ」というものが存在しない空だが、どういう理屈なのかは誰にも分からない。
 しかしながら、それで困ったという話も聞いた事がないし誰も解決しようという気すらない。
 アルム自身、特に気にした事は無い。

「さてっと……魔王城に行かねばならんが、その前に軽く食事でもしとくかの」 

 本来ならば、魔王城に用事ともなれば食事など後回しにするものだ。
 だが……どうせ約束をしたわけでもないし、魔王ヴェルムドールとしてもこんなやり方をしたからには「来た時が会い時」と考えているはずだ、という確信がアルムにはある。
 そうでなければ、魔王を後回しにして食事などと考える者はラクターやサンクリードくらいのものだろう。
 あちらは天然だが、こちらは計算である。
 
「とはいえ、この辺りは料理店とは少々離れておるか……」

 やはりもう少し歩かねばならぬか、と呟きながらアルムは歩く。
 第一商店街の入り口とはいっても、こちら側はどちらかというと「出口」のようなものだ。
 もう一つの魔王城の近くの入り口のほうが多くの者が「入り口」と認識している場所であり、その辺りに食事の店舗が集中している。
 ジオル森王国からの観光客が歩いているのもその辺りであるが、こちら側は生活用品や家具などを売っている店が多い。
 ……というのも、生活用品や家具といったものの多くがザダーク王国の建国後に根付き始めた文化であるからだ。
 それ以前はそういったものは一部の趣味人の魔族から提供されたりしたものであった為、「文化」としては根付いていなかった過去によるものである。
 今となっては「より良い家具」といった生活向上に関する意識も見られるが、そうしたものの根付きが「食欲」よりも遅かった為にアークヴェルムの中心から微妙に店舗が外れているのだ。
 それでも今はしっかり文化として根付いている為、店先で色々と眺めて回る者の姿もある。

「……おや、あそこにいるのはオルエル殿」

 どうしようもなくムサい男の後姿を発見して、アルムはそっと近づいていく。
 だが近づくと同時にオルエルは振り返り、アルムの姿を見ると安堵したように息を吐く。

「なんじゃ、その反応は。傷つくのう」
「ん? ああ、いや。イチカ様が追いかけてきたかと思ってよ」
「何をやらかしたんじゃ……ああ、いい。言わんでいい」

 巻き込まれたらごめんであるが故に、何かを言おうとするオルエルを押しとどめる。
 どうせ噂の「アウロックとのバカ騒ぎ」をしていたに違いない。
 となるとアウロックはすでに畑に埋められ、オルエルはいつも通りに要領よく逃げ出したといったところだろう。
 結局怒られるのだから早めに怒られたほうがいいと思うのだが、まあそこはオルエルの自由というものだろう。

「で、アンタは何してんだ?」
「んー? 魔王城に用があってのう」
「誰に用事だ? イチカ様なら今機嫌最悪だと思うぜ」
「いや、魔王様じゃが……」

 それを聞くと、オルエルは「それだ!」と叫んで指を鳴らす。
 
「こんな所で壷なんぞ選んでるよりずっといい! 魔王様への客を見つけたから送迎した……うんうん、そんな手柄ならイチカ様も許してくれそうな気がするぜ!」
「そうかのう」
「ダメならまた逃げる」

 いや、きっと逃げられないだろう。
 いくらオルエルが逃げるのが上手くても、今度はアウロックという生贄はいないのだ。
 しかし、わざわざ指摘するほどオルエルと仲が良い訳でもない。

「それなら頼もうかのう。なに、口添えくらいはしよう」
「おお、頼むぜ!」

 ただし、効果は保証しない。
 どうせ無駄だろうと思いつつも、アルムは「頼まれた」と言って笑顔を浮かべるのだった。
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