勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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始まりの物語7

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 ……そして、激動の時代が始まった。
 その始まりの鐘を鳴らしてしまったのは魔神か、神々か……それとも、人類か。
 あるいは、その全員であるだろうか?
 やがて暗黒大陸と呼ばれる大陸を飛び出た魔族達は、その闘争本能の赴くままに「自分達ではない生き物の住む場所」を目指した。
 ある者は未だ辿り着かず、ある者は集落へと辿り着いた。
 見た目だけは人間にそっくりなその者達が最初に感じた感情は、歓喜。
 嗚呼、こんなにも戦える相手がいる。
 こんなにも自分の知らない「世界」がある。
 思う存分、自分を高められるのだ。
 
 そんな心のままに魔族達は人類へと襲い掛かり……その結果は、当然の如く蹂躙であった。
 それも当然だろう。
 人類は多様であるし、それぞれの種族特性にあった戦い方で同じカザレリア大陸の生き物達を圧倒できるだけの力を蓄えた者達もいる。
 だが、そうではない者も多数居る。
 たとえば、「より良い畑を作る」ことに傾倒した者。
 たとえば、「もっと金を儲ける」ことに傾倒した者。
 たとえば、「更に美しくなる」ことに傾倒した者。
 たとえば、「誰よりも良き父」であろうとした者。
 たとえば、「誰よりも良き母」であろうとした者。
 たとえば、「誰よりも良き兄」であろうとした者。
 たとえば、「誰よりも良き姉」であろうとした者。
 
 ……たとえば、その日一日を、その次の日を、まだ見ぬ未来を幸せに生きようとしていた者。
 善人も悪人も大人も子供も老人も男も女も何もかもが、等しく命の流れへと帰った。
 逃げる弱き者は怒りと侮蔑の下に、立ち向かう強き者は歓喜と敬意の下に消し飛ばされた。
 大陸中に散らばった魔族達を倒しきるには神々だけでは足りず、まだ代行者たる神殿騎士の発想すらなかった。
 人類の騎士団が各地で奮戦するも絶対数が足りず、自警団レベルでは対処すら難しい。
 いや、騎士団ですらも蹴散らされる事も多かった。
 開戦当初は連戦連勝であった影人の騎士団も、その半魔力体の秘密を暴かれれば脆かった。
 肉弾戦が中々通じずとも、魔法は良く通るのだ。
 そして魔族は魔力が高く、魔法も得意であったからだ。

 人類一の技術力を誇るメタリオの騎士団も、苦戦していた。
 魔族が「武装すること」を覚えてしまったからだ。
 メタリオの騎士団の堅牢さと破壊力がその装備にあると気づいた魔族達は、試行錯誤し……あるいは倒したメタリオの装備を奪って武装するようになったのだ。

 風のようと形容されるシルフィドの騎士団も同様であった。
 魔族が、シルフィドの洗練された動きを真似るようになったからだ。
 元々の身体能力だけでは「技」には敵わぬと気付いた魔族達は、さながら見取り稽古の如くシルフィド達の動きを会得していったのだ。

 獣の如き身体能力を持つ獣人の騎士団も、魔族相手ではその利点を活かせない。
 元より魔族は身体能力に優れ、獣人特有の未来予測を彷彿とさせる超直感も、魔族の純粋なる本能と戦闘センスによって対抗されてしまっていた。

 人類最高峰の魔力を誇るルスペリオの騎士団も、少しずつ押されていた。
 魔法とは、すなわち才能と技術だ。
 そして魔族の多くは魔法的な才能に満ちており、その貪欲な強さへの渇望がルスペリオの魔法技術を少しずつ会得していったからだ。

 未だに魔族と拮抗し続けているのは、人類最強の肉体を持つイゼクティア達であった。
 個人としても強く、集団としても司令塔となる者さえ居れば一つの生き物のように動ける彼等は、個で敵わぬとなれば躊躇わずに数で魔族と相対した。
 そして、個人主義に走りがちな魔族はそれに対抗しきれず……蟲人とも称される事もあるイゼクティアは唯一魔族と正面から戦い続けていた。
 ……そう、イゼクティアの場合は「騎士団」ではない。
 国民総騎士等とも言われるイゼクティアの本質は徹底した戦闘民族であり、その在り様は魔族とも多少ではあるが似ていた。
 それもまた、魔族に対抗できた理由ではあっただろうか。
 
 ……そして、連戦連敗を続けているのは人間の騎士団であった。
 人類の中で最も普通で、最も可能性に満ちた種族であった事がこの場合においてはマイナス要素であったこともあるだろう。
 だが、一番の原因はやはり「魔族の大陸から一番近いこと」であっただろう。
 そして、我先に戦果を競い合う魔族達の動きが「集団戦」に似ていたこともあるだろう。
 同じ敵を目の前にして純粋に競い合う事を覚えた彼等は、自然と互いを阻害しない動き方を身に着けた。
 そうやって集団対集団の戦いとなった場合、人間に勝ち目などあるはずもなかったのだ。
 それでも滅びなかったのは、命の神フィリアの守護と……イゼクティアの戦況はしばらくは大丈夫だろうと予測した火の神アグナムの援護があったからに過ぎない。
 ……だが、それでも押されている戦況が変わるわけでもない。
 圧倒的な力を持つ神々相手であろうと……いや、神々という絶対的な相手に喜び勇んで襲い掛かっていく魔族達に人間は……人類は、確かな「邪悪」を見た。
 そして同時に、圧倒的な「力」をも見た。
 こんな種族を創造したのは、一体何者なのか。
 ひょっとすると、自分達の知らぬ「神」がいるのではないか。
 それは……恐ろしく邪悪な存在なのではないか。
 そんな想像を巡らし、畏怖する。
 だがそれは、所詮そこ留りだ。想像が現実になることなど、有り得ない。
 普通は、有り得ないのだ。
 だが、レムフィリアの「普通」を遥かに超える域まで高まった魔力が……静かに沈殿していた人々の「歪み」が……レムフィリアに潜む「魔神」の存在が、レムフィリアの魔力の一部に「方向性」と「形」を与えてしまった。

 ……全ての「終わりと始まり」は、この瞬間に始まったのだ。
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