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始まりの物語5
しおりを挟む「う……おっとお!?」
アトラグスとアクリアの二人が予測した場所へと「転移」したクラシェルは、即座に殺気を感じて真後ろへと跳ぶ。
その一瞬後にクラシェルの居た場所を火の玉が通り過ぎていき、その辺りにあった岩にぶつかって破裂する。
「ひゅー、いきなりだなあ」
「……誰だお前は」
聞こえてくる声は敵意に満ちていて、しかしクラシェルはまだ背中の剣には手をかけずに両手をあげて敵意の無いことをアピールする。
「誰ってご挨拶だね。見ての通り、美少女だけど」
「見ない顔と格好だ。それに、妙なものを背負っている」
「格好、ねえ……」
話に適当に受け答えをしながら、クラシェルは冷静に周囲を確認する。
ぱっと見は、岩だらけの荒野だ。
だが、よくよく見てみれば周囲には黒煙が上がっており……どうやら、激しい戦闘の後であっただろうことが予測される。
此処が荒野なのも、ひょっとするとそういう理由かもしれない。
そして、視認できた相手は一見すると人間の男のようで……非常に簡素なデザインの服を着ていた。
長く黒い髪と、黒い目。
一見すると闇の加護を受けているようにも見えるが、勿論クラシェルには加護を与えた覚えは無い。
そして何より……この男は、強い。
想像していたよりもずっと高い魔力を持つ男に、クラシェルは軽い驚きを覚える。
この男が「魔族」の中でどの程度の強さなのかは分からないが、もしこれが一番の雑魚であれば、魔族の総戦力は今いる人類のどれよりも高い可能性がある。
だから、少しでも情報を引き出すべくクラシェルは適当に話をあわせる。
「君のその服も僕のとこじゃ見ないデザインだけど」
「これしか作り方を知らん。そしてどいつもこいつも似たようなものだ」
「ふーん……?」
この大陸は、出来たばかりのはずだ。
だが、この恐らく魔族と思われる男は大人であり、しかも「服の作り方」を知っている。
先程の魔法と思われる火の玉もそうだが、ある程度の基本的な知識は与えられているとみていいだろうとクラシェルは判断する。
ならば、予想以上に「話になる」かもしれない。
クラシェルはもっと情報を引き出すべく話を続けようとし……しかし、次の男の言葉に絶句する。
「だがお前は違う知識を持っているな? その知識、お前ごと俺が貰いうけよう」
「……は?」
「俺のものになれと言った。今なら殺さないでおいてやる」
上から目線で見下されるのはクラシェルとしては初めての経験だったが、別に気分のいいものではない。
思わぬ初体験に思わず絶句したクラシェルは乾いた笑いをもらし……前髪を軽くかきあげる。
「ごめん、聞こえなかった……今ならなんだって?」
「あまり俺を怒らせるなよ? その辺で焦げた連中と同じになるぞ」
「やってみなよ」
一瞬のうちに魔族の男の眼前へと移動したクラシェルは、そのまま足払いをかける。
油断していたのか、そもそも「足払い」などという技を知らなかったのか魔族の男はぐらりと倒れ……しかし、並外れた反射神経で体勢を立て直そうとする。
「隙だらけだっての」
「げぼっ!?」
だが、腹を蹴り抜いたクラシェルの一撃に男は悶絶して転がる。
「何が俺のものになれ、だ。二百年早いっての」
「げ、げふっ……」
クラシェルは神々の中でも華奢なほうだが、それでも神の一角だ。
その身体能力もまた尋常ではないほど高く、具体的には目の前の男よりも単純な身体能力で遥かに勝っていた。
クラシェルはそのまま男を踏みつけると、じっとりとした目で見下ろす。
「ところでさ、君達のリーダーって誰? 一番強い奴でもいいんだけど。とにかく、君達を纏められて話の通じそうな奴なら誰でもいいんだけど」
「それなら俺だな」
「ん……くあっ!?」
突如眼前に現れた何者かの蹴りで、クラシェルは思い切り吹き飛ばされる。
とっさに両腕でガードしたものの、軽いダメージがあることにクラシェルは驚愕する。
だが、驚いたのは相手も同様のようで、クラシェルに蹴りを放ったと思われる男は目を見開いている。
「かなり本気で蹴ったはずだが、その程度のダメージとは……」
「驚いたのはこっちのほうだよ。君、何者……?」
今クラシェルを蹴った男は、先程までクラシェルが踏んでいた男とは大分違う。
黒く短いぼさぼさの髪、黒い目。そこまでなら誤差だが、着ている服が全く違う。
デザインが先程の男の着ているものよりも多少凝ったものになっていて、荒い加工だが宝石らしきものもあしらわれている。
どうやら、「違う知識を持つ者」であるのは確かなようだが……内に秘めた魔力も、先程の男とは比べ物にならない。
その「先程の男」はといえば……一瞬で力の差を理解しでもしたのか、新たに現れた男に向けて跪いていたりする。
「俺か。俺自身、俺のことを詳しくは知らん。気がついたら存在していた。恐らくはそう表現するのが正しかろうな」
「そうだろうね」
「……だが、俺は少々特殊な力を持っていてな」
男がそう言った瞬間、ぞわっとした感覚がクラシェルの中を走り抜ける。
そしてその感覚を、クラシェルはよく知っている。
だが「まさか」という驚愕もある。
今の感覚が正しいなら、まさかこの男が使ったものは。
「神。その知識はある。この世界の管理者……そうか、「クラシェル」、お前は神なのか」
「君……その力はやっぱりステータス確認か!」
何故男がそんなものを使えるのかは分からない。
だが、クラシェルもお返しとばかりにステータス確認の魔法を起動する。
名前:ダグラス
種族:魔王
ランク:SSS
職業:魔法戦士
装備:
黒き衣
技能:
魔神の加護S
詠唱破棄S
格闘術A
「魔王……?」
「そうだ。俺こそが、この地に居る魔族共を束ねる者だ。まあ、今のところ「予定」だが……な」
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