勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

文字の大きさ
501 / 681
連載

闇の中へ3

しおりを挟む

「さて……と。此処が終点というわけだな」

 ヴェルムドールの声が、城の最上階に響く。
 他と比べると階層自体が狭く、精々が「小さな部屋」といった程度だが……この部屋には、他とは明らかに違う部分があった。
 それは、今まで飾り棚の一つすらもなかったこの城の中で唯一、そうしたものが置いてあるという点である。
 たとえば、この部屋の最奥にある祭壇。
 今まで見せていた「エレメントらしさ」はなく、他の人類でも「祭壇」と分かるような祭壇である。
 そして、その祭壇に飾られている道具、装飾品……壁を彩る飾りに至るまで、その全てが飾られたばかりであるかのように光り輝いている。
 だが勿論、「飾られたばかり」でないのは一見すれば分かる。
 この部屋にある物……その全てがかなり高度な保存の魔法がかけられており、長い年月を経ても輝きを失わぬ強い魔力を内に潜ませていた。

「……この祭壇。何を考えてこんなものを造ったんだ?」
「言わないで頂戴。今思えば、私だって悪趣味だと思うわ」

 ヴェルムドールの漏らした言葉に、イクスラースが目を背けながら呟く。
 無言のまま頷くイチカと苦笑するサンクリードの反応を見れば、二人とも同じ感想であると理解できるのだが……その理由は、この「価値のありそうな」祭壇にあった。

「飾りの一つ一つに至るまで、その全てがゴーレムか。建物もそうだが、自分で自分をメンテナンスさせるという考えはまあ、理解できるが……これは、な」

 建物に関しては、「一定の形を維持する」だけのゴーレムであることは分かっている。
 しかし、この場所にある物品はそうではない。
 名実と共に、現代的な意味での「ゴーレム」である。
 もっと具体的に言えば、恐らくだが……攻撃機能がついている。
 移動してこない所を見ると、恐らくはトラップのように「自分を持ち出そうとする相手」をカウンター的に攻撃するのだろう。
 他の人類に攻め滅ぼされたはずのエレメントの都市である此処に装飾品が丸々残っているのは、この場所が侵入しにくいとかそういう理由だけではなく……あるいは、そうした「手出しできない」理由のせいもあるのだろう。

「一応言い訳すると、防犯対策とかいうのを検証したときに、自分で自分を守らせるのが一番いいんじゃないかっていう結論に至ったらしいのよ。闇の神に捧げるものだからって、相当に気合を入れたらしいけど……」
「そのノリは、うちの連中に似ているな……」

 ヴェルムドールは、ノルム達を思い浮かべてゆっくりと首を振る。
 思いついたら一直線……とはよくいう言葉だが、エレメントは純粋に全てに対して全力だったのだろう。
 しかしまあ、この部屋にある物に手出しをするつもりもあるわけがなく……検証をしにきたわけでもない。
 今日来た理由は、この「場所」そのもの。
 この場所に漏れ出す強い魔力は、かつてライドルグの領域への道がキャナル王国に現れた時と良く似た感覚をヴェルムドールに感じさせていた。
 ……しかし、その領域はライドルグの時のように自分で開く気配はない。
 ない、が……ルーティの昔話を参考にすれば、その打開策は簡単だ。

「イクスラース」
「ええ、分かってるわ」

 そう言って、イクスラースは持ってきた闇の鍵を取り出そうとし……しかし、その手をイチカが押さえる。

「どうした、イチカ」
「何かが来ます」

 イチカがそう言った直後、サンクリードも最上階への出入り口に視線を向ける。
 そして、響くのは城の床をコツンコツンと杖で叩きながら歩く音。
 それは最上階へと繋がる「穴」の下でピタリと止まると、涼やかな声を響かせる。

「出てきてください、ブルーオーブガーディアン」

 何かがズシンと床に降り立つ音が聞こえ……その少し後に、何者かを載せた青いゴーレムの頭がぬっと穴から現れる。
 それは、一人のシルフィドの少女。
 顔立ちは幼さを残し、その耳はシルフィドの特徴である長耳。
 ボブカットの髪と瞳は共に深い闇色を思わせる黒。
 その表情は感情が全て抜け落ちたかのような無表情であり、ヴェルムドール達を見ても眉一つ動かしはしない。

「レルスアレナ……」
「強い闇の魔力を感じてきましたが……やはり、これは」
「ああ。ダグラス直々の招待でな」

 ダグラスの名前に、レルスアレナは黙って青いゴーレムの頭から降りてくる。
 それと同時にゴーレムは青い宝玉となってレルスアレナの手に戻り……それを懐におさめながら、レルスアレナはヴェルムドールに向かって歩いていく。
 当然、その進路をイチカが塞ごうとするが……ヴェルムドールが軽く手を振ると、その場で少しだけ不満そうにしながらも留まり、レルスアレナはそのままヴェルムドールの眼前でピタリと止まる。

「魔王ヴェルムドール、貴方にお願いしたい事があります」
「ああ、いいぞ。ついてこい」

 聞く前に即答するヴェルムドールに、レルスアレナは表情を変えないままに首を傾げる。

「……まだ条件交渉どころか、具体的提案すらもしていませんが」
「時間の無駄だ。ルーティから前回の話も聞いている……お前には、ダグラスに文句を言う権利がある」

 ヴェルムドールの視線がイクスラースへと向き、その視線の意味を察したイクスラースは苦笑しながら今度こそ闇の鍵を取り出す。

「レルスアレナ。そいつはそういう奴なの。優しいのか合理主義者なのかは……私にも判断はつかないけどね」

 言いながらイクスラースが闇の鍵に魔力を込めると……祭壇の前に、黒く丸い空間が出現した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。