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今こそ、今だからこそ12
しおりを挟む「倒すだと……我をか! 貴様……貴様ァ!」
巨大シュクロウスの体が崩れ、黒い霧となる。
そしてそれと同時に、残ったアルヴァ達の姿も黒い霧となって崩れる。
そして巨大な黒い霧が他のものを飲み込んで、その色を濃くしていく。
それが「喰らっている」動作なのだと想像するのは容易であり……しかし、男は慌てもしない。
「時間が無いな。早く選べ」
男の言葉に、サンクリードは即座に反応する。
「ならば、城を元の場所に戻せ。これは俺達が使う」
手伝いなどこれ以上は必要ない、というのは簡単だ。
だが、それを言うのはあまり現実的ではないということはサンクリードにも分かっていた。
何しろ、次元城は西方軍は中心になって散々調べても何も分からなかった物だ。
この場でシュクロウスを倒すのはともかく、その後の次元城の操作に関してはサンクリードとイクスラースの二人で実行できるかどうかという問題がある。
無論、単純に次元城の機能上の問題であるならば「動いている」現在は動かすことが可能と考える事も出来るが、それとて確実ではない。
ならば「稼動する状態」で持ち帰ってその後を考えるのが現実的というものだ。
「ほう。シュクロウスは倒す事前提か」
「当然だ。その程度も出来なければ、俺達の目的は果たせない」
部屋の中で吸収を繰り返し高まっていく魔力。
尋常ではない域まで高まっていくソレを感じながらも堂々と言い放つサンクリードに、男は面白そうに笑う。
「なるほど? 確かにそのくらいで無ければ、未来はなかろう……では、その願いを叶えよう」
男の言葉と共に、次元城が大きく振動する。
城全体を駆け巡る魔力の流れをサンクリードが感じ辺りを見回していると、男が「おい」と声をかける。
振り向くサンクリードの前で男は持っていた剣を鞘に収めると、それを外してサンクリードへと投げる。
ズシリと重いソレをサンクリードは受け取ろうとし……イクスラースを抱えていた事に気付いて、仕方なく……そう、あくまで仕方なくイクスラースに乗せるようにして受け取る。
うぐっ、という声が腕の中から聞こえてきたのをそのままに、サンクリードは剣と男を交互に見る。
「とりあえず貸してやる。アレを倒すのには役に立つだろう」
「貸す……? だがこれは」
サンクリードはイクスラースの上に乗っている剣を見下ろす。
これがサンクリードの想像している通りの剣……ダークソードであるならば、恐らくはサンクリードの剣に吸収されるはずだ。
それとも、そこから回収できるというのだろうか?
そんなサンクリードの疑問に答えるように、男は口を開く。
「生憎とソレは特別製でな。俺の許可なしに束ねる事は出来ん」
「……そうか」
「それと、忠告しておこう。次元城は、出来れば此処に捨てていけ。次元の狭間を越えられる力を持つという意味を、もっとよく考えるべきだ」
どういうことだ、と問うサンクリードに男は答えない。
コツン、コツン、と足音を立ててサンクリードに近づくと、その眼前に立つ。
だが、その目はサンクリードを見てはいない。
いつの間にか目を開けていたイクスラースを見下ろすと、慈しみを込めた表情を浮かべてその頭を撫ぜる。
されるがままのイクスラースは驚きに目を見開き、男を見上げる。
「……貴方は、まさか」
「哀れなる子よ。俺のかつての愛し子よ。この戦いが終わったら、俺に会いに来るがいい。その時に、お前の疑問に答えてやろう」
そう言って、男は身を翻す。
遠くなっていくその足音に手を伸ばし、イクスラースは叫ぶ。
「待って……待ってください……ダグラス様! ダグラス様っ!」
腕の中から落ちそうになるイクスラースをサンクリードは掴み、それでもイクスラースは手を伸ばし……しかし、次元城を襲った一際強い振動に思わず目を瞑る。
「な、何……何なの!? 一体何が起こって……!」
ズシン、と何処かに着地したような、鈍い音。
それは次元城を襲う振動の終わりであると同時に、先程まで吸収合体を続けていたシュクロウスが顕現した音でもあった。
最初に現れたときよりも強力な魔力を放つ巨大シュクロウスは、周囲を呆然とした様子で眺め呟く。
「なんという……ことだ。この場に戻されてしまうとは。こうなっては今一度この城を染め上げて……」
「ああ、なるほど。つまり、お前が今回の騒動の犯人か」
足音が響く。聞き慣れた声が響く。
開け放たれた玉座の間の扉の向こうから、見慣れた姿が現れる。
「次から次へと……もう飽いたわ!」
巨大シュクロウスの振るった一本の腕から、炎の嵐が吹き荒れる。
相手を骨ごと灰へ変えようかという勢いの炎はしかし、展開された火の魔法障壁によって呆気なく蹴散らされる。
「魔法使いか……だがっ!」
「煩い。死ね」
「ぬおっ!」
更なる攻撃を加えようとした巨大シュクロウスは、突如眼前に現れた緑色の少女に驚愕する。
その両手にあるのは、風の魔力を纏った二振りの曲剣。
恐ろしいまでの速度で振るわれるソレをシュクロウスは身体の一部を黒い霧に変えることで回避する。
だが、それは「目に見える傷」を回避するだけで、斬られた箇所の黒い霧は確実に消滅していく。
「チッ」
そのまま黒い霧を突き抜けた緑の少女……ニノは空中で反転して、歩いてくる男の眼前に着地する。
「ごめん、殺せなかった」
「気にするな。殺せと命令した覚えもないしな」
そうして、男は部屋の中央……サンクリードが立つ場所までやってくる。
「ご苦労だったな、サンクリード。お前が居なかったらと思うとゾッとするぞ」
「俺はたいした事はしていない。それより、王よ」
「ああ」
男は……魔王ヴェルムドールは、巨大シュクロウスを忌々しげに見上げる。
「とりあえず……このクソ忙しい時期に厄介事を持ち込んでくれたコイツをブチ殺すとしようか」
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