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今こそ、今だからこそ7
しおりを挟むシュクロウス。
イクスラースがそう呼んだ者の座る玉座の隣には、大柄な鎧姿の者が二人剣を床に突きたてるようにして控えている。
兜の奥に眼光が見えるところを見ると、どうやら生身のようだが……体格からすればオウガだろうとサンクリードは仮定する。
どちらにせよ融合体なのだろうから、そんな予想には然程意味も無いのだろうが。
だが、それよりも重要なのは玉座に座る男である。
「シュクロウスだと……?」
「如何にも。我がシュクロウスである」
訝しげなサンクリードの呟きに、シュクロウスが返答する。
玉座に悠々と座ったままのシュクロウスの手にあるのは大きめの木の杖であり……嵌った黒い魔法石が、不気味な輝きを放っている。
魔王シュクロウス。
かつて世界に混乱をもたらしたとされる魔族であり、魔王グラムフィアの滅びの一因ともなった魔族でもある。
「……悪い冗談だわ」
そんなイクスラースの呟きが、全てを現していたと言えるだろう。
シュクロウスは、「前」のイクスラースである。
その魂は変わらずイクスラースの中にあり、つまりシュクロウスとはイクスラースのことでもある。
だが目の前にいる男は、自分をシュクロウスだと名乗った。
つまり、シュクロウスの残骸か何かを元に造ったアルヴァ融合体。
それが目の前の「シュクロウス」の正体だということになる。
「待っていた、と言ったな」
「ああ、大義であった。お前は帰ってもよい」
イクスラースを背後に庇いサンクリードが前に進み出ると、シュクロウスは玉座に座ったまま鷹揚に頷いてみせる。
その様子にサンクリードは薄く笑うと、持っていた剣を軽く鳴らす。
「イクスラースが狙いか。理由は何だ?」
「ふむ」
サンクリードの様子に微かに眉を動かしたシュクロウスはパチンと指を鳴らし……それに反応して、鎧姿の魔族のうちの一体が動き出す。
「敬意が足りんな。一度は功績に免じて許したが、二度目は無い」
やれ、と命じるシュクロウスに咆哮で答え、鎧姿の魔族がサンクリードに向けて迫る。
その巨体に相応しい大剣は床ごとサンクリードを砕き潰すかのような轟音を立てて振るわれ……しかし、サンクリードが無造作に振り上げた剣にアッサリと防がれる。
「ガ、ガア……!?」
「なるほど、中々の力だ。だが、それだけだな。力任せに振り回すだけなら剣など要らん」
鈍くも軽い音をたてて、鎧姿の魔族の剣が切り裂かれる。
あっという間に半分以下の長さになってしまった自分の剣を見て鎧姿の魔族は驚きと怒りの声をあげるが……その「切り裂かれた残りの部分」を受け止めているサンクリードを見て、その声は悲鳴じみたものへと変わる。
先程まで自分のものであったはずの剣の、その剣先。
その切っ先が、自分へと向けられているのだ。
「だが、それでも力任せに剣を使うというならば……こうすればいい」
張りぼてであるかのように軽々とソレを持ち上げたサンクリードは、軽く振りかぶる。
投げ槍か何かのように放たれた剣先は鎧姿の魔族を鎧ごと貫き、断末魔をあげることすらなく鎧姿の魔族は絶命する。
次元城全体を揺らすような震動をたてて倒れた鎧姿の魔族を一瞥すると、シュクロウスはふむと呟く。
「ソレを倒すか。まあ、元がゴブリンであればそんなものか……?」
シュクロウスが再度指を鳴らすと、もう一体の鎧姿の魔族が動き出し……しかし、その足元の影が、ゆらりと蠢く。
「殺し屋影法師」
今のやり取りの間に完成していたイクスラースの殺し屋影法師が発動し、鎧姿の魔族の影から黒い何かがぬっと立ち上がる。
その影をそのまま切り取ったかのような黒い塊は鎧姿の魔族を背後から三つに引き裂くと、再び溶けるように消えていく。
「……ふむ。豪炎」
見事な三枚下ろしとなった鎧姿の魔族は、その残骸を晒す前に燃え盛る炎で一瞬のうちに燃え尽きる。
同じようにサンクリードの前に倒れている鎧姿の魔族も同じようにして焼き尽くすと、シュクロウスはふうと溜息をつく。
「罰を乗り越えてしまったか。ならば先程の非礼は不問とせざるを得んな」
「そんなことはどうでもいい。先程の質問に答えてもらおうか」
「聞くまでも無いわ」
サンクリードの背後から、イクスラースがシュクロウスを睨み付ける。
「そこにいる「シュクロウス」は、本来持っていた力の半分も力を持っていない。それが答えよ」
イクスラースの言い放った言葉を確かめるかのように、サンクリードは目に魔力を集中する。
名前:シュクロウス
種族:魔人
ランク:SS
職業:魔王
装備:影杖アルガエルガ
技能:不明
「チッ……やはり見えんか」
あれが確かにシュクロウスであるという確認しか出来ない事実にサンクリードは舌打ちする。
あるいはギリザリスの時のように特殊な何かがあるかと思ったのだが……それを今確認はできないようだ。
だが……なるほど。
確かに、シュクロウスから感じる魔力は「魔王」というイメージから感じるものには程遠い。
並の魔人よりは余程上であろうが、逆に言えばそのくらいのものだ。
完成した聖剣でなければ倒せないとか、そんな化け物には到底思えない。
「私が目的ということは……貴方もやっぱり、アルヴァクイーンに何かを吹き込まれているのね?」
「アルヴァクイーン……ああ、あの方のことか。あの方には感謝している。お前の事を教えてくれたのだからな……そうだろう、我よ」
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