勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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投げかけられた問い3

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 魔王グラムフィア。
 そこまではヴェルムドールもある程度の予想を立てていた。
 だが、「ゲオルギア」という名前がヴェルムドールに眉を潜めさせる。
 融合能力を持つアルヴァ……それがザダーク王国に潜入している可能性も考えてはいた。
 そして、それは剣魔のような「自分がそうとは自覚しない」存在であるとばかり考えていた。
 だが……目の前のルモンは自分が「アルヴァのゲオルギア」であったとも宣言している。
 となると、アルヴァの「融合」に関する事項に関しては再考察の必要があるだろうか。
 そんなことを考えるヴェルムドールに、ルモンは笑みを深める。

「ああ、融合アルヴァのことなら理屈は簡単ですよ。死にたての身体を使えば消耗を防げる。それだけの理屈ですから」
「死にたて……だと?」
「そうですよ。魂の構造を知っていれば簡単な話でしょう?」

 魂。
 それは命の種を核として構成されるものだ。
 記憶、経験、人格……そうしたものの集合体であり、いわば「果実」とも言えるその部分は、命の終わりと共に消滅する。
 だが……何も一瞬で溶けて消えるわけではないだろう。
 相応の時間がかかり、それから命の種のリセットという流れになるはずだ。
 なるほど、確かに「魔王グラムフィア」であればそれを知っていてもおかしくはない。
 しかし同時に、新たな疑問も生まれる。

「……お前が生まれ変わった魔王グラムフィアであるというのであれば、勇者に倒された時点でその魂にリセットがかかったはずだ。そこはどう説明する」
「さてね。偶然か必然か……死の間際まで抵抗した僕の生き汚さが「記憶引継」を発生させ……僕の記憶は、引き継がれた。まあ、そういうことですよ」

 ルモンはあはは、と軽い笑い声をあげる。
 なるほど、それならば確かに説明はつく。
 だが……納得はいかない。

「お前ほどの者の魂を何故フィリアが放置する。放っておけば厄介事になるなど分かりきったことだろう」
「ああ、それは簡単ですよ。僕は死ぬ瞬間まで狂っていた。そんな記憶を引き継いだ所で、力を奪ってさえおけば何も出来はしないし……狂っているからこそ務まる役割というものも、ありますからね」

 それがアルヴァということなのだろう。
 だが、それよりも更に気になる言葉が出てきている。
 それをヴェルムドールが指摘するその前に、ルモンは口を開く。

「そう、僕は力を奪われました。今此処にいる僕は魔人ルモンとしての力しか振るう事は出来ない。アルヴァとしての部分を全部魔力に変換した分の力は底上げされてますが……まあ、そのくらいですね」

 力を奪う。
 聞き覚えの無い言葉ではあるが……「奪う」という以上、その奪った力は何処かに存在するはずだ。
 ならば、それは今何処に在るのか。

「その力の奪われた先がアルヴァクイーンである……ということか?」
「さあ、そこまではなんとも」

 肩をすくめるルモンをイチカが殺気混じりの視線を向けるが、ルモンは困ったような笑みを浮かべるだけだ。

「僕だってそれは知りたいですよ。「たぶん」で語ってもいいですが、そんな情報が欲しいですか?」
「それなりの理由があるのであれば、な」
「それなりの理由、ね……」

 ルモンは少し考えるように顎を指で撫ぜると、そうですね……と呟く。

「アルヴァ自体が理由、ていうのじゃ納得しません?」
「意味が分からん」
「アルヴァに複数のタイプがいることには気付いてますよね?」
「ああ」

 アルヴァ。
 似たような姿を持つそれらではあるが、よく観察してみればルモンの言う通りに幾つかのタイプがある。
 まずは、体型も何もかもが同じの「通常型」と分類されるアルヴァ。
 あちこちで見られるタイプであり、とにかく凶暴な「破壊者」でもある。
 そして、体型だけでなく性別も異なるアルヴァ。
 共通語を解する事もあり、ある程度の戦法も駆使する。
 そして三つ目……現物を確認できてはいないが、「融合」を可能とするアルヴァ。
 大体はこんなところだろう。

「実は通常型のアルヴァはゴーレムもどきみたいなのが結構な割合で混じってたりするんですよね。でも、特殊型は違う。連中には魂がある」

 なるほど、生物である以上魂はあるだろう。
 それは当然の事だ。
 アルヴァが一つの独立した生態系である以上、ゴブリンのような速度で繁殖して増えていたとしても驚きではない。
 だからこそ、そんなものを「理由」と言われても納得がいくはずはない。

「特殊型と呼ばれるアルヴァは、アルヴァクイーンが産み出しています。繁殖とは違う、何かの方法で……ね」
「……なるほど。だがそれで「そう」と判断するにはまだ弱いな」
「そうですね。ですが、「目的にあったアルヴァを産み出せる」としたら?」

 言われて、ヴェルムドールは考える。
 なるほど、確かにそれは不確定ではあるが「命の種」に何らかの干渉をしている可能性がある。
 
「……待っていただきたい」
「どうした、ゴーディ。何か気になる部分でもあったか」

 ゴーディが話を遮るのをヴェルムドールが意外そうな顔で見ると、ゴーディは酷く真剣な表情でヴェルムドールとルモンを交互に見る。

「……その者の正体については魔王様よりある程度聞かされていたから良いとしましょう。ですが、先程からの話……それは、まるでアルヴァクイーンが……」
「ああ、そうだな」

 ヴェルムドールは、ゴーディが言いよどんでいる「その可能性」をアッサリと肯定する。

「アルヴァクイーンが「俺と同じ」なのかどうかについての話だ。まあ、俺としては微妙な所だと思ってはいるが……な」
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