勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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たとえ、この身は滅ぶとも24

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 王。
 アースエレメントの言ったその言葉の意味を考えるその前に、他のエレメント達がそれに続く。

「王ヨ」
「我等ガ王ヨ」

 その視線の先にいるのは、イクスラース。
 エレメント達は足があるものは膝をつき、そうでないものも皆それぞれに敬意を示すかのような体勢をとっている。
 敵意はそこには見えない。
 いや、敵意どころか……エレメント特有の「話にならない」レベルの暴虐性が、そこには欠片も無い。
 そしてイクスラースを「王」と呼ぶ理由など、一つしかない。

「……なるほど。そういえばお前が「最後の王」だったか」

 エレメントが、次から次へと「王」を呼ぶ。
 だがイクスラースは、少しだけ悲しげにそれを押し留める。

「……貴方達はすでに、命の流れに還ったものだと思っていたわ」
「王ヨ」
「我等ガ王ヨ」
「我等ノ身体ハ、スデニ滅ビタリ」
「我等ノ魂ハ、スデニココニハ在ラズ」

 エレメント達は、歌うように台詞を紡ぐ。

「貴方ノ知ル我等ハ、スデニ知ラヌ何者カニナレリ」
「身体ハ滅ビ、魂ハ消エ、コノ身ハ世界ヲ巡ル呪イト成リ果テタ」
「サレド、我等ガ祈リモマタ世界を巡ル」
「王ヨ、我等ガ王ヨ。我等ガ願イヲ聞キ届ケタマエ」

 世界を巡る呪い。
 それは「モンスター」であるエレメント達の現状を示すものなのだろう。
 魔力の淀んだ地や歪んだ地に現れるという彼等は、その場にいる生き物全てを殺し尽くすという「呪い」そのものと称される存在だ。
 ……だが、今の彼等からはそんな狂気は感じられない。
 それがどうしても不思議で、だからこそヴェルムドールはイクスラースの背後に立ちエレメント達へと問いかける。

「……待て。お前等は会話が可能なようだが、どうして今までそれをやらなかった。望みとやらが何かは知らんが……そうしていれば、それを叶えられる可能性もあったのではないか?」
「見知ラヌ男ヨ、我等ノ望ミハ王ニオ会イスル事」
「見知ラヌ男ヨ、我等ニ残サレタ時間ハ少ナイ」

 これ以上出しゃばるな、という意味なのだろう。
 ならば、このままイクスラースに任せた方がよい結果を生む。
 そう判断し、ヴェルムドールはその場から動かないまま口を噤む。

「……なら、聞くわ。貴方達の望みって……一体、何?」

 霊王国の復興などを願われても、それは難しいだろう。
 イクスラース自身エレメントではないし、唯一の生き残りといえるレルスアレナもシルフィドの身体となった今では「エレメントの王国」を統率しうる存在ではない。
 そして、何より……モンスターと化したエレメントの王国を、他の人類がどう考えるか。
 下手をすれば、ザダーク王国による人類への侵攻の拠点と考えられかねない。
 そこまでいかずとも、人類への復讐だとしたら……やはり、それも難しいだろう。
 もしそうだとすれば、この場でエレメント達をどうにかする必要すら出てくる。
 ……だが、エレメント達から出てきた言葉は全く違うものであった。

「我等ノ最後ノ忠誠ヲ捧ゲル事ヲ許シマタエ」
「え……それは。部下になりたい……ってこと? でも、最後の……?」

 戸惑うイクスラースの眼前で、ウインドエレメント達が風にほどけるように消えていく。

「我等ノ身体ハスデニ滅ビタ」

 消えたウインドエレメント達は風の魔力となり、渦巻き始める。

「我等ノ魂ハ、スデニ此処ニハナイ」

 ファイアエレメント達の身体が火の魔力となる。
 逆巻くように立ち上る火の魔力は風の魔力に重なり、その強さを増す。

「ソノ姿モマタ世界ヲ巡ル呪イト成リ果テタ」

 ウォーターエレメント達の身体が水の魔力となる。

「サレド、コノ心ハ朽チズ」

 ライトエレメント達が、ダークエレメント達が……やはり、光と闇の魔力と化して他の魔力に重なっていく。
 地上ではアースエレメント達が次から次へと融合し……その質量と密度を高めていく。
 他のエレメント達が全て魔力と化し渦巻く頃には、集まった全てのアースエレメント達が融合し……辺りの家の屋根の高さを飛び越えるような巨人が、そこに誕生していた。
 集まった魔力達はその巨人へと向けて集結し、流れ込む。
 同時に巨人は足元からざらざらと崩れ始め……それでも、魔力は巨人へと流れ込んでいく。

「王よ」

 今までよりも、ずっと明確な声で、巨人が声をあげる。
 それは一人のようにも、複数のようにも聞こえる。
 
「滅びの日に、戸惑い逃げるしか出来なかった我等を許したまえ」
「……それは」

 貴方達のせいじゃない、とイクスラースは言おうとする。
 あの時。
 霊王国ルクレティオが滅ぼされた日。
 まさか同じ人類に攻め込まれるとは思いもしなかったエレメント達は、何故そんなに憎しみを向けられるのか分からないまま……積極的に戦う理由すら見つけられないままに滅ぼされた。
 聖戦の名の下に滅ぼされたあの日を招いたのは、他の人類のエレメントに対する嫉妬と……それから出たデマ。
 冷める事を知らない激情は正義という後ろ盾を得て、狂騒と化した。
 殺さなければならない。
 殺しつくさなければならない。
 それこそ正しい事と信じる者達の前では、抵抗する者も抵抗しない者も同じにしか映らない。
 あんなものの前で、誰に何が出来たというのだろう?
 だが、もしもだ。
「生贄の檻」などという技能を植えつけられていたイクスラース……霊王イースティアがその場にいなかったら?
 もしかすると、ただそれだけでエレメントの滅びは避けられたのではないだろうか?

「……許しを請わなければならないのは、きっと私よ。私が居なければ、貴方達は死なずに」
「王よ」

 すでにその身体のほとんどが崩れた巨人が、イクスラースの言葉を遮る。

「これ以上は心さえ残す事の出来ぬ我等の非才を許したまえ。伝えるべきを全て伝えられぬ我等の非力を許したまえ。されど、どうか。せめて……力だけは貴方のお側に。そして、願わくば」

 今度こそ、幸せに。
 そう言い残して、巨人は完全に崩れ去る。
 その場に小さな透明の石だけを、残して。
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