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たとえ、この身は滅ぶとも22

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 魔法を消す。
 アッサリと言い放ったルモンに、ヴェルムドールは訝しげな表情を浮かべる。

「一応聞くが、相殺という意味か?」
「ははは、まさか。あ、烈光剣ソルブレイドとか連発すれば相殺しきれるかもしれませんよ? やってみます?」
「悪い冗談だ」

 ですよねー、と笑うルモンにイクスラースがいらだった様に声をあげる。

「貴方、何しに来たのよ」
 
 ヴェルムドールに似たような事を言った時とは全く違うトゲだらけの言葉に、ルモンは「おっと」と言って後ずさる。

「そうですね。さっさとやっちゃいましょうか」
「……出来るの?」
「僕が、って話なら出来ませんよ? なにしろ展開されてる魔力が多すぎる。魔王様の光の魔法障壁マジックガード・ライトだけで力尽きる可能性だってある」
「はぁ!? なんでそれを消す必要がもがっ」
「待て」

 ルモンにくってかかるイクスラースの口を手で塞ぐと、ヴェルムドールは何かを考えるように空を見上げる。
 展開される影世界の異邦人ダルケルヴィシュエ光の魔法障壁マジックガード・ライト
 魔法を消せるというのであれば、影世界の異邦人ダルケルヴィシュエだけ消せばいい。
 それはイクスラースの言おうとした通りだ。
 だがルモンは、「光の魔法障壁マジックガード・ライトだけで力尽きる可能性がある」と言った。
 それの意味するところは、つまり。

「……そうか、お前を中心として無差別に魔法を消す技……ということか」
「はい、その通りです」
「……お前がそれを出来ない理由は魔力、か」
「ええ」
「解決法は?」

 そう問いかけると、ルモンは笑みを深める。

「簡単なことです。魔王様がやればいい。それだけのことですよ」
「俺が……か?」
「ええ。他ならぬ貴方ならば簡単な事です」

 ……確かに、ヴェルムドールの魔力であればどれ程魔力を消費する魔法であろうと発動は可能だろう。
 ルモンの発言には何か含みがあるような気もするが、とりあえず今は追及している程余裕があるわけでもない。

「……いいだろう。だが実際にどうすればいい」
「とりあえず、魔王様の光の魔法障壁マジックガード・ライトは解除していただく必要がありますね」
「ならば、誰が防御を担当する。お前か?」
「まあ、普通に考えるなら……そうですね。魔王様には詠唱とイメージだけお教えするので、上手く発動させてください」

 目の前で発動された魔法であれば、ヴェルムドールは一度見れば大体理解できる。
 どういうプロセスで魔力が流れ発動するのか、よく理解できるからだ。
 だが、口頭で……となると、それは魔法書などを読むのと変わらない。
 一度で上手く発動できるかは、賭けになってしまう。
 しかし、やるしかない。それ以外に、手は無いのだ。

「ああ、分かった」
「ちょっと待って」

 だが、ヴェルムドールが頷くと同時にイクスラースがヴェルムドールの手を剥がして声をあげる。

「それなら私が光の魔法障壁マジックガード・ライトを使ったほうがいいわ。そっちの奴はヴェルムドールのサポートに集中させたほうが成功率が上がるわ」
「お前が? だが……」
「平気よ。私だって魔法使いよ? そのくらい出来るわ」

 イクスラースの発動した影世界の異邦人ダルケルヴィシュエは、イクスラースの魔力を大幅に削っている。
 これ以上、二つの影世界の異邦人ダルケルヴィシュエを防ぎきるような魔法障壁を張るともなれば相当に消耗するはずなのだが……。

「あはは、無理ですよ。一秒だってもつか怪しいものですね」
「なっ! バカにしてるの!?」
「むしろ、防げると思ってるならバカだと思いますよ。現状は魔王様のバカみたいな魔力で無理矢理防いでるだけ。僕が防いでも精々詠唱の時間を稼げるかなってとこなのに、そんな消耗して何をしようっていうんですか?」
「やめろ」

 ヴェルムドールは再びイクスラースの口を塞ぎ、ルモンを軽く睨み付ける。

「……二人でやれば問題あるまい。何をケンカする必要がある」
「仰せのままに。では、時間も無いので早速。今から使っていただく魔法の名前は魔法解除ディスペル。魔王様のご指摘どおり、その場に存在する全ての魔法を打ち消す魔法です」

 魔法の発動に必要な物は詠唱と魔力。
 特に重要なのが魔力であるが、魔力を持っていない生物など存在しないとさえ言われている為、詠唱さえ出来れば魔法は発動できるというのが定説だ。
 それは、この魔法解除ディスペルでも同じであろうと思われたが……ルモンは懐から一冊の紙束を取り出すと、そのページの一枚を切り離してヴェルムドールに差し出す。
 イクスラースの口を塞いでいた手を離してメモを受け取ると、解放されたイクスラースが無言で睨みつけてくる。

「詠唱はコレです。覚えてくださいね」
「その紙束はなんだ?」
「気にしないでください。僕の備忘録みたいなものですから」
「……」

 とりあえず追及せずに、ヴェルムドールはその紙に書かれた詠唱に視線を落とし……もう一度、ルモンを見る。
 背伸びして紙を覗いていたイクスラースも同様にルモンを見つめ……その視線を、ルモンは軽く受け流す。

「この魔法は……お前が?」
「あまり時間はありませんよ? 色々と面倒な事態も近づいてきてますし」

 その面倒な事態……というのが何であるかは、流石にこの状況下にあってはヴェルムドールにも分からない。
 だが、今は考えるのをやめてヴェルムドールは魔剣ベイルブレイドを握りなおす。

「……まあ、今はやるしかあるまい。ルモン、すぐに魔法障壁マジックガードを張れ。始めるぞ」
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