勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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たとえ、この身は滅ぶとも21

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 アルムを背負ったルモンは、誰よりも先に「その場」へと辿り着いていた。
 二つの影世界の異邦人ダルケルヴィシュエとヴェルムドールの光の魔法障壁マジックガード・ライトが打ち消しあうその姿を見て、ルモンの背から降りたアルムが「おお」と感心した声をあげる。

「これは凄まじいのう。普通、一度防がれたら潔く消えるもんじゃが。どんだけ殺したがりなんじゃ、この魔法は」
「闇魔法は僕もあまり詳しくないですが、確かにこれは凄い……。人類の魔法史から消えたのは正解かもしれませんね」
「ちょっとあんた等……そんな事言ってる場合?」

 現れるなり魔法の批評を始める二人に、ロクナがジロリと睨み付ける。
 イチカも振り返りはしないが、殺気が漏れていることから怒りの程が伺えるが……二人は飄々としたものだ。

「と、言ってものう。下手に手出しもできんし。心配して今代魔王様があの闇魔法を消し飛ばすならば幾らでも心配するのじゃもが」
「まあ、それはさておき」

 モガモガ言うアルムの口を手で塞ぐと、ルモンは人当たりのいい笑みを浮かべる。

「あの魔法障壁マジックガードを展開してるのが魔王様なら、まだ時間はありますしね。それに……手が無いわけじゃないです」
「どういう意味ですか」

 手が無いわけじゃない。
 その言葉にイチカが反応し、ルモンに詰め寄る。
 手詰まりであるからこそ、イチカもロクナもこうして見守らざるを得なかったのだ。
 ヴェルムドールを助けるだけなら、どうにでもなる。
 イクスラースを助けるのも、まあどうにかなる。
 だがレルスアレナを含めた三人を助けるのは難しい。
 それには、あの影世界の異邦人ダルケルヴィシュエをどうにかしなければいけないからだ。
 だが、その手立てがイチカ達には無い。
 それを「無いわけじゃない」などと言われては、平静でいられるはずもない。
 今にも掴みかかりそうなイチカを手で制して、ルモンはその背後の魔法障壁マジックガードへと目を向ける。

「まあ、まず言うならアレ、魔法障壁マジックガードですから中に入るだけなら出来るんですよね」
「そんな事は知っています。それでどうにか出来るなら」
「ですから、僕が中に入ればまず半分は成功します」

 ルモンはそう言って、すいとイチカを避けて歩き出す。

「……半分って言ったわね」
「ええ、言いました」

 ロクナの投げかける言葉に答えながらも、ルモンは足を止めない。

「あとはまあ、上手くいけば全部どうにかなるでしょう」
「……一応、内容について聞いてもいいかしら」
「ダメです」

 影世界の異邦人ダルケルヴィシュエを弾き続けるヴェルムドールの光の魔法障壁マジックガード・ライトの前に立ち、ルモンは振り返る。

「僕のとっておきですから。早々人様に公開するつもりはないんですよ」
「ほほう、自信がありそうじゃのう」
「ええ、そりゃもう。それにまあ……無くてもそろそろどうにかしないとまずそうだ」

 何が「まずい」のかは、その場の誰も口にせずとも理解している。
 この場に向かってくる、エレメント達の群れ。
 その姿も気配も、増え続けている。
 故に、ロクナもイチカもそれ以上は何も言わない。
 これ以上の足止めは、状況を悪化させるだけだと理解しているからだ。

「じゃあ、行ってきま……おっと!」

 光の魔法障壁マジックガード・ライトの表面を滑るように流れる闇の魔力に触れそうになり、ルモンは慌てて下がる。
 光の魔法障壁マジックガード・ライトの隙を見つけようとしているかのような影世界の異邦人ダルケルヴィシュエの標的はルモンではないが、だからといって触れて大丈夫というわけでもない。
 
「……」

 ルモンは、じっと目の前を見つめ……タイミングを見計らって、一気に飛び込む。
 魔法障壁マジックガードは「物理攻撃を防ぐ機能」は無いがゆえに、その表面を覆う攻撃的な闇の魔力さえ回避できれば簡単に侵入できる。
 
「うわ、っとっと!」

 ルモンの身体はゴロゴロと転がり、すぐに誰かの足元にぶつかって止まる。

「……お前は」
「あ、どーも。ルモンです」

 振り返ったヴェルムドールに見下ろされ、ルモンは手早く立ち上がる。
 その様子を見て再度ヴェルムドールが口を開くより先に、イクスラースがルモンを睨み付ける。

「何しに来たの、貴方」
「え、ええー……なんか邪魔者扱いですねえ」
「扱い、じゃなくてハッキリ邪魔よ。こんな所に来て……自殺志願なの?」
「あはは、まさか」

 イクスラースの皮肉混じりの台詞を笑って流すと、ルモンはヴェルムドールへと笑顔を向ける。

「えーっとですね、魔王様。この場をどうにかする方法を持ってきました」
「どうにかする方法……だと?」

 ヴェルムドールの中に浮かぶのは、たった今レルスアレナから聞いたばかりの「魔法を消す」事。
 しかし、まさかそれではなかろうと自己否定する。
 そんなものを目の前のルモンが使えるならば、それこそ「魔法使いキラー」と成り得る存在である。
 そして……ルモンは優しげな笑顔のまま、言い放った。

魔法障壁マジックガードの周りを囲ってる魔法……これ、消しちゃいましょう」
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